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第77話 澄人なら──
しおりを挟む一方
「加奈、敵さんそっち行ったで!」
「わかりました」
ろこの叫び声に、私は振り向くと大きなオーク1体と数体のゾンビ。
魔力の気配からしてそこまで強くない。多分、初心者でも十分倒せるような魔物。
本当なら、もっと強い敵と戦っても良かったんだけど、私たちは強い敵にボロボロにされたことから、最初は難易度の低いダンジョンからがいいと言われこのダンジョンを攻略することとなった。
とはいえ、今のところ全く問題は起きていない。今まで戦っていた敵より数段ランクが下の敵たちを難なく倒していく。
オークもゾンビも、一撃であっさりと切り裂いてしまった。
「なんか、あっさりした終わりやなぁ。簡単すぎるやわぁ」
「まあ、実際に簡単だったね」
敵は今までとは比べ物にならないくらい弱かった。視聴者もそれは理解しているのがわかる。証拠にコメントもこんな感じだった。
:なんか簡単だな。初心者でも勝てるだろこれ
:まあ、復帰後だからな。トラウマがなぶり返してもまずいし少しずつ難易度上げていけば いいよ
:確かに。楽しみにしてるよ、頑張って
「みなさん。復帰して最初なのにありがとうございます」
「ありがとなー、次はもっと楽しませて強い敵と戦ってやるからなー」
ろこはにこっと笑顔を作って、画面の前で両手を振った。こういう状況でも、しっかりとファンに向けてサービスができているのはすごいと思う。
私は、何とか取り繕ってもどうしても笑顔が引きつったり──表情や仕草に影響が出てしまうのだ。
私は、何とか取り繕ってもどうしても笑顔が引きつったり──表情や仕草に影響が出てしまうのだ。
こういう所は、本当に見習いたいなぁ。
ともあれ、これで今日のダンジョン攻略は終わり。いったんダンジョンから離れて、ろこの部屋へ。
「お疲れ様」と言ってベッドに寝転んで体をくっつけあって天井を見る。ろこがぎゅっと手を握ってきた。冷たくて、柔らかい手だなぁ。ずっと握っていたい。
「加奈、何とか問題なく帰れたな」
「まあ、リハビリも兼ねての復帰戦だからね。次、頑張ろう」
「そうやな」
そして、ろこが私の右腕をぎゅっと抱きしめてくる。ちょっと恥ずかしくなって話そうとしたが、ろこは離してくれない。
「今日くらいええやろ。加奈と一緒にいたいんや。加奈に触れていたいんや!」
「もう。わかったわ」
ため息をついて、ろこの髪を優しく撫でる。まあ、疲れもあるんだろうし今くらいはいいか。
ろこのしっとりとした髪を優しく撫でながらスマホに目を向ける。SNSでも「お疲れ様」とか「大丈夫?」とか労いのコメントをもらって、それらに対してお礼の言葉を贈る。
やっぱり、心配してくれているのは嬉しいな。もっと頑張ろうという気持ちになれる。ちらっとろこに視線を向けたけど、同じことをしていた。やっぱり、ファンは大切にしないと。
後、私たちの反応が気になってSNSをエゴサしてみた。反応は──悪くない。私たちを励ましてくれたり、応援してくれたり。みんなが心配してくれているのは、ちょっとうれしいな。
そんなことを考えていると、ろこが肩を叩いてきた。ろこの方を向くと、ろこはスマホを指さす。
「どうしたの?」
「からすみはんたち、苦戦しとるんやで」
「本当に??」
ろこの言葉に、思わず飛び上がりそうになった。えーと、確か八岐大蛇のリベンジにいったんだっけ。
慌ててスマホを開けて、SNSで澄人の事を調べる。
「あっ本当だ。大ピンチ?」
「しかし2人がピンチ? 意外やな──」
「えーと、最初は優勢だったんだけど──ほかの配信者を人質に取られたらしいよ?」
コメントから、澄人たちがどうしてそんなことになってしまったのかを調べる。
そんな──せっかく勝っていたのに不憫すぎる。澄人は──優しい性格だ。何の罪もない人を犠牲にする選択肢なんてできるわけがない。澄人の隣にいる私だから、わかる。
「助けに行かないと」
そうだ。こんな事をしてる場合じゃない。私達だって、応援に行かないと。
「でも、大丈夫かな?」
「ああ、うちら──ボコボコにされたばっかだもんなぁ」
私もろこも、ここにいる理由を思い出して思わず表情が暗くなってしまう。
どうしても考えてしまうからだ。
またトラウマが再発して、澄人たちの足を引っ張ってしまうかもしれない。そんなことになって、もし澄人たちが傷ついてしまったら──私はもう立ち直れなくなってしまうだろう。
自然と足が止まってしまい、黙ってスマホを見ながら考える。
本当だったら、澄人が私を助けてくれたように、わたしだって澄人を助けたい。でも、また足を引っ張っちゃったらどうしよう。
俯いて悩んでいると、ろこが人差し指を口に当て、ポツリと言い放った。
「なあ、もし立場が逆やったらどやろな」
「あ──」
「今と逆でな、澄人たちが戦えなくなるくらいのトラウマを抱えていてな──それでうちらがめっちゃ強い敵と戦っとって、同じようにピンチになった。3人は、どういう行動をとるやろなぁ」
「そうだよね」
その言葉に──私に悩みなんてなかった。
そんなの、決まっているよ。澄人なら、自分がどれだけひどい目にあっても私たちを助けに来てくれる。そういう人だもん。
そう考えたら結論は決まった。澄人たちが私達を助けてくれたように、今度は3人を私たちが助ける。
「行こう」
「そやな」
そして、私たちは澄人たちのところへと向かっていった。
澄人たちを、見捨てるわけにはいかない。
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