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第40話 事情
しおりを挟む怖がっている彼女たちに、笑顔を作って手を振る。慣れてないからか、ぎこちないものになってしまった。女の子たちは、俺のことを信じ切れず経過して互いに視線を合わせている。まあ、こいつらを滅ぼした本人なんだし俺のことを知っている人もいるのだろう。
どうすればいいか考えていると、今度は璃緒が前に出た。
「あの……私は皆さんに危害を加えるつもりはありません。ですので、お話だけでも聞かせてください」
膝を屈んで、笑顔を作って視線を合わせて話す。こういう所、璃緒は本当に配慮が出来てるよな。こっちも見習いたいくらいだ。
そんな璃緒を見て、安心したのだろう。女の子たちはキョロキョロと視線を合わせた後、真ん中にいる毛耳をした女の子がゆっくりと口を開き始めた。
「わたしたちは、内乱や紛争で故郷を追われた難民でした」
「ああ、そのたぐいのものか」
ネフィリムは、理解しているのだろう。彼女たちがどうしてここにいるのか。
「故郷を失い、街に逃げ込んだ私」
悲しそうな表情で話を続ける。彼女たちは、紛争などで故郷を焼かれたり両親を争いで失ったりした人たちだ。それからの境遇は、悲惨そのものだった。大きな都市部に逃げ込んではいいものの生活基盤も頼れるものもなかった。
街では貧困層となりスラム街で暮らす始末。ろくに食べ物ももらえず、非行に走り死んでいった仲間を見ることだってあった。
そんな時、彼女たちに目を付けたのがセラフィールだった。
「あやつは──自分に従うものなら善悪や人種を問うことはなかった。どんな非道な奴であろうと、そいつにあった役割を見つけ立場を与えたのじゃ」
ネフィリムの言葉通り、行き場所を失った彼女たちにセラフィールは役割を与えた。魔法を使えるものはそれぞれの適性に合った兵士に。体力があるものは国内の物資の運搬を差せた。
彼女たちのような、力が弱くて魔法適正がない人たちは城や拠点で雇って事務や世話係をさせていたとか。
「おかげで、色々な地方の文化や料理を手に入れることができた。彼女たちが来るまで、飯といえば適当な動物を殺して焼いて食うだけじゃったからのう」
しかし、魔王軍は敗れた。行き場を失った中で罪があるものは裁判になったが、彼女たちはあるものは冒険者ギルドへ、料理人になったり商人になったり。
「私たちは──世間を、セラフィール様以外を信じることができませんでした」
毛耳の女の子が、目をそらして呟く。
「セラフィール様に拾ってくださって、セラフィール様を尊敬しています。だから、最期までついていかせてくださいと願ったのが私達です」
「セラフィールはなんといっておったのじゃ?」
「ただ黙って頷きました。そして、セラフィール様の城で、使用人をしながら生活をしております」
セラフィールは魔王軍の仲間と別れて以降時に誰かを襲うわけでもなく、ここで生活をしていて自給自足、周囲との環境を断って暮らしていたとか。
口数が少なくなって、一人でいる場面が多くなった。時々会話を楽しんで、空を眺めて──会話を楽しんで。まあ、魔王軍がいた時も孤高の存在だったから想像はできる。そんなことになっていたのか。
それから、大人びた外見をしている耳の長い女の人。おそらくエルフの人が立ってきて、俺から目をそらして聞いてきた。
「勇者様、ですよね? やはり、私たちを滅ぼそうとしているのですか?」
「せっかくの、私たちの居場所なのに」
毛耳をつけた幼い女の子が、涙目になってぼそっと呟く。俺のこと、知ってるのか。
考えたら、この子たちは悪いことをしていたわけではない。それなのに、魔王軍というだけで周囲から居場所を奪われ続けてきていたのだ。
「罰したりしないですよね」
「処刑、されるのですか?」
怖がっているのだろう。体が震えている、無理もない。魔王軍の奴らがひどい目にあったなんて話はいくらでもあったのだから。
俺たち、魔王軍と戦うために結成された連合軍。俺は相手が誰であろうと行き過ぎた罰や残酷な行為には反対だったが周囲はそうならなかった。
連合軍の中には、家族や村が魔王軍に残酷な目にあった人がいたり、素行に問題があったものの数が足りなくて仕方なく連合軍に入った者もいた。そう言った人たちが、魔王軍の領地でどのような行動をとったのか簡単に想像がつく。
当然、必要以上に魔王軍の奴らを痛めつける奴らだっていた。こっちの世界では到底言えないようなことをしたり。
俺はそういう行為が許せなくて、時には剣を向けたりしていた。──が何十万という数をすべて把握して相手にしていたらきりがなかったので、すべてを何とかすることなんてできなかった。
そして、そんなタイプの奴と偶然敵対していた人たちが仕方なしに魔王軍について戦っていたこともあった。いわゆる、敵の敵は味方でそれしか手段がなかったタイプ。
こういったタイプは、魔王軍の中でもそれほど悪事を働いたりはしない。素行もいい。
そして、彼女たちもそのタイプなのだろう。
とりあえず、敵意がないという事を伝えないと。
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