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第8話 せっかくだから

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「ああ、そうだ」

 目をぱちくりさせて、口を大きく開けたまままったく動かない。

 大昔、ダンジョンができる前の据え置きゲームの時代。これみたいにバランスがおかしかったり突っ込みどころ満載なゲームを「クソゲー」なんて読んでいたが、これはそのダンジョン版。

「クソダンジョンというやつだ」

 このゲームの反応を調べて愕然とした。あまりの低クオリティ。ひどすぎるバランスと、ネフィリムのぶっ壊れともいえる強さ。手抜きともいえるオプションに最初のPV。

 10年に1度のクソダンジョン。クソダンジョン界の征夷大将軍。などと散々な言われようなのだ。

「そして、なんだあのPVは!!」


 一番突っ込みたいところ。このダンジョンに入る前にOPのような動画が流れるのだが、それがもうおかしいところだらけ。見るだけで、ダンジョンの中が不安になるような代物だった。
 ネフィリムは口を尖らせて、強気に言葉を返す。

「オープニングじゃ。この世界のアニメとやらでは、定番じゃろ」

「そうだけどさ……」

 一応、この世界の事情を組もうとしているのは評価できる。
 だが、この質の悪さは明らかにおかしい。


「どうじゃ? わらわの渾身の作品じゃ」

「渾身なのはわかる」

 思い出すだけで、頭が痛くなってくる。ツッコミどころだらけだから、最後まで見てからゆっくりと突っ込もう。

 部屋からダンジョンに行こうとすると、突然視界が真っ暗になる。そして、昔のパソコンみたいにカチカチと音が鳴り目の前に文字が現れ始めた。

「クリムゾン」は彼を受け入れた。


 Full Name 唐川澄人

 Code Neme コンバット澄人

 AGE 29

 Size 176cm 68kg


 さらに、ナレーションが入る。

 それは、3年前の事だった。

 ナレーションの声とともに、真っ暗だった画面が変わる。
 白黒で、どこかわからない雑木林。

 そして、画面がまるで走っているかのように前に向かって進み始める。獣道をかき分けながら進んでいく画面。ちょっと揺れていて、酔う人とか出てきそう。誰かがカメラを回しながら走っているんだなこれ。

「ラニー、クラック。生きてるか?」

「ああ……何とかな」

 棒読みっぽい男の声。明らかに一人の人間がしゃべっているのがわかる。
 さらに、マシンガンを発射しているかのような銃声らしき音。

 バババババババババン!!


 その音も、どこか間抜けな感じの効果音。走っていると、雑木林からボロボロの廃墟へと移る。

「下から来るぞぉ気をつけろ!!」

「なんだこのエスカレーターは!!」

 といったものの下は地面で何かあるわけでもない。
 そこからボロボロのエスカレーターを下る。それから、古びた遺跡のような場所の中へ。

「こっちだ、澄人」

「ああ」

 そして、薄暗い部屋があって──一番奥には灰色の扉。
 灰色の扉に近づいたカメラ。目の前に立って、言った。


「せっかくだからぁっ、俺はこの青い扉を選ぶぜぇ!!」

 キィィィィィ──。


 扉が開く音が聞こえると、どこか間の抜けたBGMが流れる。

「こうして、澄人はクレムゾン・ハートを手に入れた」

 しかし、デス・ダーレスが放ったモンスターたちが、
 が澄人に襲い掛かるのだった。

 そしてPVが終わった。目の前にいるネフィリムは自信満々の表情で腕を組んでいる。

「どうじゃ? 作品の宣伝用に作ったのじゃ。すごいじゃろ!」

「俺からすればこれをすごいと思ってるお前がすごいよ」

「いろいろ言いたいことはあるが、まずこの棒読みは何だ?」

「『けんじろう』さんという声優さんに対応してもらった。もちろん全部の声を一人でな」

 ああ、確かに全部同じ声だったな。

「ラニーとかクラックとかいなかったか?」

「しょうがないじゃろ! お金がないのじゃ。だからギャラが安い新人声優さん1人に全部請け負ってもらったのじゃ!」

「手抜き」

 ぼそっと言うと、その言葉にネフィリムは顔を膨らませ、ぷんすかと怒り出す。

「わらわは金欠なのじゃ。何人も声優を雇うとか、人気のある声優を起用してくるとかできなかったのじゃ。それにじゃ」

「それに?」

「あのPVのモデルはそちじゃ。勇者のお前をイメージして、名前もそちそっくりじゃろ」

「確かにそうだな。だがあんな棒読みで言われてもなあ。それに、青い扉を選ぶってなんだ。なんだあれ。そもそも青い扉じゃないし」

 その言葉に、ネフィリムは両手を腰に当てきょとんとなった。不思議そうな表情で言葉を返してくる。

「そち、物忘れが激しいのか? わらわと最後の決戦の時をイメージしたのじゃが」

「それ、若干間違えてるぞ。ああ、最終決戦。ネフィリムはずっと魔王の部屋にいたからわからなかったのか」

 説明するしかない。

「あれは青い扉じゃない。青い宝石が上にある扉だ。オーシャンブルー・サファイアという宝石を手に入れて、この聖剣クリムゾン・ハートの魔力を強化し聖剣の真の力を発揮したんだ。最終決戦の時、俺の魔力今までとは段違いだったろ?」

「おおっ、そうなのかぁ。確かにそち、今までにないくらい力を発揮していたな」

「そうだよ」

「難しいのう。まあ良い。あとで治すとするか」

 いかにも、不満たらたらそうな表情。納得いかないのかな? 
 後、大事なこと聞いてなかった。

「で、どうするのか? 戦うのか?」





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