4 / 99
第4話 撤退
しおりを挟む「まあ、ほとんどの配信者なんてそんなもんだ。
なんせ俺たちは各ダンジョンのSランククラスや踏破できないような強い魔物がいるダンジョンの最下層から取れた、強力だけど超レアな素材で作られた装備品で固めているんだから。厨パーティー、略して『厨パ』。
お前みたいな一般冒険者じゃ絶対無理だな。俺等みたいなランキングに乗る常連みたいな超人気配信者でスポンサーの大企業がいないと。
装備品だけで数百万はするからな!」
弓使いの男「竜二」はそう饒舌に語ると、自信たっぷりに自分の装備品を俺に見せびらかすかのように胸を張る。
俺は竜二が着ている鎧や弓矢の一式を改めて見てしばし言葉を失う。
というのもその装備の素材は明らかにオリハルコンをはじめとした様々なダンジョンの最下層でしか得られない素材だからだ。
「すげぇだろ! こんな装備品。俺以外用意できる奴いないぜ」
「確かにそうですね」
作り笑顔をして、コクリと頷いた。確かにすごいが金でものを言わせた感というか、ただ強いものをそろえただけで自分のプレイスタイルに合ったものとか、武器とのシナジーとかは考えているのかな。これだと、いざ強い敵と戦うことになった時困るんじゃないかな。
とはいえ、視聴者にすごさを見せつけるのだって仕事のうちだ。素の実力は問題ないんだしこれでいいのか。
多分、ここで争ってもいいことはないと思う。潔く引こう。
「まあ、そんな感じだ。ダンジョンでスライム狩りをしていたらいきなりここに転移しちゃってさ、困ってたんだよ」
頭を撫でて、苦笑いをしながら言葉を返す。
自分の未熟を恥じて正直に謝ったように演技した。竜二はフンと息をしてからにやりと笑った。
「ふん! やっぱりハッタリだったのかよ。俺たちは心優しいから見逃してやるけどよぉ、死にたくなかったら気をつけろよ。魔物たちは俺等みたいに心優しい奴らばっかじゃねえんだからよ」
「ちょっと……言い過ぎ」
「璃緒は心優しいな。こういうダンジョンを甘く見ている奴にはビシッと言ってやるくらいがちょうどいいんだよ! じゃないと後々悲惨な末路を遂げちまうぜ
そう言うと竜二は俺をジロリと睨んで、そのままダンジョンの方へと進んでいってしまった。
俺は竜二の後ろ姿をそう感心そうに見ていた。それから、幸洋がため息をついて話しかけてきた。
「まあ、俺達だって目の前で人が殺されるのは気味が悪いから助けるっちゃあ助けるがいつも隣に逸るわけじゃない。顔を知っている人が悲惨な死に方をするのは気分が悪い」
「あの、幸洋の言うとおりです。ここから最下層はまだ誰も立ち入ったことのないエリア──危険だから帰ることをお勧めします」
「あとさぁ、今回スポンサー企業から未踏破ダンジョンの攻略を期待されてるのよね。だからそれなりの資金をもらっているし。それなのに、この男のせいで台無しとかになったらたまらないもの。慈善事業でやってるわけじゃないのよ私達」
「残酷だが優愛の言うとおりだ。そうなんだよな。高校生のむごい死体なんて配信に映ったら、絶対スポンサーから苦情が来るしな。ただ活躍するだけじゃなくて、魅せることも考えなきゃいけないのが、最強実況者のつらいところだ」
「そうよ、一人なんて無謀だわ。帰りなさいよ」
3人に説得され、決意した。帰ろう、ここは俺のいるべき場所じゃない。
仕方がない──彼らだって生活がかかっているんだし、4人ならネフィリムと戦っても上手くやるだろう。
そして、優愛がこっちに近づいてきて何か渡してきた。
オレンジ色に光る、手のひらサイズの石。
「これは──転移術式の力がこもっているわ。これさえあればダンジョンの入り口まで帰れるわ。これで入り口まで帰れるわ、いいわね」
さっきまでツンツンしていた優愛の表情が、明るくなる。
そして、優愛の隣にコメントが流れてきた。ああ、高い金でダンジョンにいながら映像でコメントを確認できる装置を買ったのか。
何百ともいえるコメントが出現する中、一部のコメントを確認。
:おおっ! 優愛ちゃんマジ天使
:やさしいねぇ、こんな冴えなさそうなチー牛にも愛情を注いであげるなんてさすがは
:帰ってチーズ牛丼でも食ってるんだな
:ま、璃緒ちゃんたちと会話しただけでも十分記念になるし──これで帰んな
コメントからも大絶賛の言葉の数々。本当にコメントの数が多すぎて、コメントが流れるかのようだ。コメントが下に消えるのが早い。声を拾うのがとても大変そう。
「調べた情報によると、ここから先の最下層はめっちゃ強い魔物がゴロゴロいるって話だし早く帰った方がいい。なんか、戦闘のバランスもおかしいしな。ダメージの調整が足りてないんだ」
「あなたのような無名な配信者は、上層部で雑魚狩りでもしているのがお似合いだわ」
優愛は両手を腰に当て、自信たっぷりの表情で言った。
:でた優愛ちゃんのどS発言。聞けて良かった
:いいなぁ~~、俺もあんな表情で蔑まれながら言われてみたいぜ。
優愛ちゃんとかいう女、あれが芸風みたいなものなのか。他の仲間たちも、特に咎めることなくスルーしている。
まあ、俺を悪く扱ってるわけじゃない。心配してくれているんだ。帰るか。俺の出る幕はなさそうだ。
19
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる