上 下
158 / 203
ウェレン王国編

そして、決着

しおりを挟む
「ク、ク、クソが──。まさかクリムなんかに負けるてよ……」

 タミエルは悔しさのあまり地面に強く拳を叩きつけた。

 そして、ゼリエルが俺たちをじっと見つめる。
 感情を感じない、彼女らしい冷たい目つき。

「フライ、クリム。流石といいたいです──。タミエルを、一撃で倒すとは……」

「何余裕ぶっこいてんのよ。次はあんたが倒される番よ!」

 クリムは再び剣をゼリエルに向けた。
 それでもゼリエルは、表情を全く変えない。

「了解です」

「何? 私に勝てないから素直に倒されるって意味ってこと?」


「うぬぼれを──。いくらあなたに言っても理解しないだろう。だから力づくでわからせる。そんな意味です。さあ二人とも、己の無力さを悟り、私にひざまずきなさい」

 ゼリエルは、無表情のまま右手を俺たちに向けてきた。

 そして、その右手が強く光りだす。
 タミエルの時よりも一回り大きい、眩しさを感じるくらい強い光。

「ハァ──、ハァ──。跪くのはどっちか、思い知らせてあげるわ」

 クリムは、軽く息を荒げながらもゼリエルをにらみつけた。
 大分消耗しているものの、まだ戦うつもりだ。

「クリム、行け──。俺が最後までお前を守ってやる」

「信じてるわよ、フライ!」

 そしてクリムは剣を握る手に強く力を入れる。

 今まで見たこともないような大きな電撃──、いや、雷というにふさわしい大きな電撃の塊が剣の周辺に現れた。

 ふらっ──。

 その瞬間、まるで貧血にでもなったかのように体から力が抜ける。
 クリムの強力な術式。それにつられて、俺の魔力が吸い取られたのだ。

 しかし、クリムにああいった手前カッコ悪い真似はできない。

 以前レディナに言われた。お前は無理をし過ぎると──。
 その時は首を縦に振るしかなかったが、今は違うって言える。

 時には、無理をしてでも戦わないけない時だってある。
 それが今だ。

 俺は最後の力を振り絞ってクリムに力を供給していく。


 ゼリエルは拳で、クリムは剣で互いにぶつかり合っていく。
 ここでも互いに小細工やつばぜり合いなどはない。

 力づくでぶつかり合っていく。まるで自分の想いをぶつけるかのように──。


 全力で相手に攻撃をぶつけていく中で、決着の時は訪れた。

 徐々にクリムが押していく。

「くっ、あなた達──、ここまでやるとは──」

「さあゼリエル。今度はあんたが破れる番よ」

 そしてクリムは一歩前に出て、踏み込んでいく。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 剣を全力で振ると、切っ先から今まで見たことがないくらい大きな電気の塊が出現。

 そしてそれがゼリエルへと向かっていく。ゼリエルは右手をかざし、その手に魔力を込めた。

 そのままその手でクリムが放った電撃へと、殴り掛かっていく。


 互いの全力を放った、最後の一撃が衝突。


 結果は、一瞬で現れた。

 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 大きな爆発音とともに、クリムの大きな電撃の塊がゼリエルの攻撃を突破。大きな爆発音とともに、ゼリエルの体が宙を舞い、後方に吹き飛んでいった。




 ゼリエルから発していた強大な魔力はもうない。


「どう、これが──、私達の力よ──」

 ボロボロの姿で、クリムがささやいた。
 全ての力を使い果たし倒れこんでいる二人。タミエルがゆっくりと上半身を起こすと、俺たちに視線を向け、囁く。

 歯ぎしりをして、にらみつけるような視線。


「マジかよ……。まさか、俺達が負けるなんてよ」

 クリムは、二ッと強気な笑みを浮かべ、言葉を返す。

「当たり前じゃない──。私とあんた達では、背負うものが違うのよ」

「聞いてあげましょう。貴方はこの世界で、何を得たのですか?」

「大切な人。ステフとメイル。それだけじゃない。いろいろな人と出会って、彼らが悪い奴なんかじゃないってわかった。たとえ最初はいがみ合ってても、分かり合えることだってあるって、だから考え方が違っても共に手を取って歩みたいって思った。
 私は今まで気づかなかったけれど、本当の私を気づかせてくれた人に、その大切さを教えられたのよ」

 ボロボロでみずほらしくも、どこか誇りと自信を感じられるような態度。

「ケッ、綺麗ごとばっかり言いやがって」

「はい、理解できませんね。そんな異教徒の言葉など──」

 二人とも、釈然としていない様子だ。すると、それに合わせるように誰かが言葉を返す。


「それがわからないうちは、あなた方が私達を打ち破ることはないでしょう──」

 それは俺たちの声ではない。ゼリエルの後ろから聞こえた突然の声だった。

「ステフ──」

 クリムが思わず目を大きく見開いた先。
 そこにいたのは、クリムが最も敬愛している人物。

 ステファヌアが意識を取り戻したのだ

 クリムもそれを見たようで、彼女に向かって叫んだ。

「ステフ!!」

 ステファヌアは、どこか疲れ切った表情でゆっくりと起き上がった。
 クリムは、早足で彼女の元に駆け寄る。

 疲労困憊で、よろよろの歩き。

「なんとか、勝ったわ……」

「クリム。貴方ならできると、信じていましたよ……」


 クリムはステファヌアに抱き着くと、その胸に顔を押し付け、泣き始めた。
 まるで自分の娘であるかのように、クリムの頭をなでなでする。

「ごめんなさい。私、道──外しそうになった」

「誰でも、道を外しそうになることはあります。しかし、あなたは振り返ることができました。以前ならそれはできなかったでしょう。立派になりましたね、クリム」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...