~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕

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ウェレン王国編

頭、冷えましたか?

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(クリムへの洗脳が解けている。あと少し──、絶対に、あなたを取り戻して見せる!)


「ステフ──。やっぱりあなた、わかっているじゃないですか! その、あなたに疑問を呈しているのが、本当の声です。その、憎しみの沼から、あなたを抜け出す声に、耳を傾けて!!」

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」

 フリーゼの声。クリムはギロッとフリーゼをにらみ、再び距離を詰める。
 大声で叫びながら感情いっぱいに剣をふるい、フリーゼを攻撃していく。

 フリーゼはその攻撃をかわし、剣で受ける。
 思わず怯みそうになった。
 攻撃自体、受けるだけなら簡単だった。駆け引きも何もない
 感情が前がかりになった、力任せの連続攻撃。

 しかし、その威力はとてつもないものだった。
 両手に何十メートルもの大岩がぶつかるくらいの衝撃。すでに両手の感覚がない。

 このまま受け続けていれば、やがてフリーゼの魔力は尽きてしまうだろう。

(仕方がありません。本当なら傷つけたくはないのですが……)

 フリーゼは覚悟を決めた。クリムとは違い、フリーゼはここが最終戦ではない。
 ここから、ゼリエルやタミエルとの戦いも控えているのだ。

 だからそのための魔力を残しておきたかったのだが、本気のクリムにそれは不可能だと悟る。

(クリム。あなたのこと、信じていますよ)

 自分が彼女達と戦うことをあきらめ、その想いをクリムにつなぐことを選択した。

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ、フリーゼぇぇぇぇ!!」


 クリムは感情いっぱいに叫び、全力でフリーゼに向かっていく。

 フリーゼはそれに対して剣を向けることもなく、じっとクリムに視線を向けたまま立っている。

 そしてクリムは剣を上げ、一気にフリーゼに切りかかった。

 クリムの剣が目にも見えない速さでフリーゼの体を貫こうとしたその時──。

 スッ──!!

「ど、どういうこと……?」

 スッとクリムの目の前から消えた。
 予想もしなかった行動にクリムは目を見開き、驚愕する。

(し、しまった。フリーゼ、どこ?)

 慌てて周囲をきょろきょろと見回す。そして、背後から感じる魔力。
 すぐにくるりと体制を変えると、そこにはフリーゼの姿。

「これで、おしまいです──」

 フリーゼはすでに剣を振りかざし、今にもクリムの体を切り裂こうとしている。今からガードに映ろうとしても、とても間に合わない。

 いつものクリムであれば、この程度の策は見抜いていただろう。
 フリーゼが反撃に出ず、棒立ちしている時から、何か来ると見抜いていただろう。

 しかし、今は違う。湧き上がってくるフリーゼへの憎しみ。それをかき消そうとしている湧き上がる感情。

 それらが心の中でせめぎ合い、戦いへ向ける意識が自然と減っていった。
 だから、今のような不測の事態への対応が遅れてしまったのだ。

 一方、フリーゼは違った。どれだけ逆境ともいえる状況になっても、決してあきらめず、決して見失わず、攻撃を耐えながら一瞬のスキを生かしこの状況を作り上げた。


 二人のこの戦いにおける、魂の込め方の違いが鮮明になったやり取りだ。


 クリムは少しでも衝撃を減らそうと、逃げるように後ずさりする。
 ──が、とても彼女の脚で逃げられるような速さではない。

 そしてフリーゼの剣から出した剣から魔力の塊のような黄緑色に光る砲弾が出現。
 それがクリムの胴体に直撃。

 慌てて防ごうとガードするも、フリーゼの放った砲弾はそのガードを突き抜け、クリムに直撃。

 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 クリムの体がそのまま吹き飛び、地面に倒れこんだ。



 そしてフリーゼは、右手に強く魔力を込め、囁いた。

「これで、終りです」

 そして、倒れこんでいるクリムの背中に触れると、彼女の体がうっすらと青白く光始めた。

「今、あなたに取りついている力。それを取り除きます」

 フリーゼは最後の力を振り絞って、クリムに取りついていた力を無理やり除去し始めたのだ。
 その光は、フリーゼの力に抗うかのようにバチバチと激しい火花を散らしながら、彼女の力に抗おうとする。

 しかし、そんなことでフリーゼは負けない。
 反発する力を強引に抑えながら、クリムに憑りついている力を、排除していく。


 あまりに強かったため、体力が消耗し、額から汗がにじみ出でる。
 魔力が底をつきかけようとしたその時──。

「……これで、完了です」

 そして、数秒でその作業は完了。微笑を浮かべ、クリムに話しかける。


「頭、冷えましたか?」


 その時、クリムは初めてステフとメイルの言葉を初めて理解した。

「クリム。どんな時も、相手を理解しようとすることを放棄してはいけません。怒りに捕らわれていては、大切な本質を見失ってしまいます」

(思えば私に光が降り注いだ時、いろいろとおかしかった。けれど、ステフを殺されたと思い込んだ時、それをかき消すくらいに彼らへの怒りの感情が湧き出たせいで、それに気づけなかった。そういうことだったんだ……)

 クリムはようやく、自分が洗脳された時の不自然さに気付いた。
 あの時の、違和感だらけだった状況に。
 しかし、止めることができなかった。
 怒りに満ちた心が、クリムを盲目にし、心の中の気付きを失ってしまった。
 何かあると脊髄反射の様に相手を罵倒し、攻撃的になる癖。それがクリムの悪い癖だった。

 ステファヌアはいつも言っていた。貴方は、心が狭すぎる。どんな時でも、相手のことを理解しようとしなさいと──。


 物事の本質が、見えなくなってしまうからだ。
 何かが起こった時、感情的になり、相手のことを理解することができなくなってしまうからだ。

 罠にかけられて、フリーゼが身を挺して自分のことを取り戻してくれて、その過ちをようやく理解したのだ。


 ボロボロの身体で、目から涙を流しながらかすれたような声で囁く。

「私、間違ってた。ステフ、メイル──ごめんなさい」


 そんなクリムに、フリーゼがすっと近づいた。
 右肩をさえながら聞いたその言葉に、にっこりと笑顔を向けた。

「よかったです、クリム。本当のあなたに戻って……」

 クリムの目からポロリと涙がこぼれる。

「ありがとう、フリーゼ。私、私、私、ごめんなさい……」
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