~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕

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ウェレン王国編

唯一王、トランとの戦いへ

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 二人の、悪びれもしない言葉。その間にも、トランは首根っこを掴み、苦しそうな表情で叫ぶ。

「このやろォォォォォォ」

 そして、その視線をこっちに向け始めた。

「おおおおおおおお。人を食わせろ人を食わせろ人を食わせろ人を食わせろ人を食わせろ人を食わせろ人を食わせろ人を食わせろォォォォォォォォォォォォ──!!!!」

 もがき苦しむように叫ぶトラン。その先には──。

「次はそこのクソ女からだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 そう、国王たちに仕えるメイドの人達だ。そしてトランはメイドの人たちに向かって襲い掛かる。

 メイドの人たちは、恐怖のあまり足が竦んでいて動くことができない。


「させるか!」

 メイドさんたちとの間に俺は立ちふさがる。トランの攻撃を何とか受け、メイドの人たちの方に視線を向ける。彼女達は、互いに身を寄せ合いながら恐怖に震えていた。

「おいおいフライ。ヒロインを救う王子様のつもりかよ」

「そんなかっこいいもんじゃない。お前を止める、それだけだ」

「へっ、強がったってバレバレだぜ。勝てないの、わかってんだろ、身体が震えてるぞ」

 見透かされたか。確かに彼の魔力は、圧倒的に強い。それを、俺も理解しているからこそ、全身が震えている。
 勝てない、逃げろと体が叫んでいるのがわかる。

 それでも、無関係な人を被害に合わせるわけにはいかない。

「食べるなら、俺を食って見せろ。ただし、俺に勝ってからな!」

「上等だフライ。大体俺がこんな姿になったのだって本当はお前が悪いんだ。お前みたいなまぐれで強くなったクソ野郎のせいだ。だからお前をぐっちゃぐちゃにして、地獄の苦しみを味合わせてやってから俺様の養分にしてやる。覚悟しろよ!」

 その言葉を聞いて、後ろにいる侍女や要人の人たちは体をぶるぶると震わせ、身を寄せ合い始めた。

「助けて、死にたくない……」

「もう嫌じゃ。早く祖国へ帰りたい」

 彼らが、心の底から恐怖に震えているのがわかる。
 一般冒険者もだ。彼らではこいつに立ち向かっても歯が立たない。ケイル、ジロンと同じようにエサになって終わりだろう。

 そしてフリーゼとクリムがにらみ合っている方へと視線を移す。
 すると、ゼリエル達三人が、奥の大きな大天使の壁画に手を触れた。

 触れた瞬間、ゴゴゴと大きな音が鳴り、中央の壁がまるで両開きドアだったかのように開き始めた。

「じゃあ、俺達は奥に行かせてもらうぜ──。アバヨ」

「はい。奥へ行かせていただきます」

 そしてゼリエル達はその場所へと入って行ってしまう。
 フリーゼが慌てて追おうとするも、そこにクリムが割りこんできて反撃できない。
 クリムは、二人のしんがりになるようにしてゆっくりと中へ。


 そのままゼリエル達は奥の部屋へと行ってしまった。ステファヌアの首に、ナイフを突きつけ、人質の様に扱ったまま。
 すぐにフリーゼと顔を合わせる。

 戸惑っている様子。すぐに指示を出した。


「トランは、俺が相手をする。フリーゼは、奥へ行って──」

「し、しかし……」

「俺は大丈夫だ。それより、早くゼリエル達を追ってくれ。全部倒せなんて言わないから」

 俺はなんとか冷静さを保ちながら答える。
 何が目的なのかわからない以上、ゼリエル達を放っておくわけにはいかない。

 それに、そっちにはクリムにゼリエル、タミエル、グランがいる。

 これだけの数を、俺一人で相手取るというのはさすがに無理がある。

 だったら、ここのトランを俺が相手をし、倒したらすぐにフリーゼを助けに行く。
 フリーゼには申し訳ないが。それまでは耐えていてほしい。

 別に倒さなくったっていい。それに相手全員が向かってくるとは限らない。
 相手もやるべきことがあり、クリムだけ相手ということも考えられる。


 完ぺきというわけではないが、それが一番最善策だ。

「フリーゼ、大丈夫?」

 フリーゼなら、俺がいなくたって無理にでも敵を倒さなければいけないのか、敵をけん制するだけでいいのか。そういった判断はできるはず。

 不安だけど、フリーゼに任せよう。
 フリーゼは、コクリとうなづいて言葉を返した。

「──了解です」

 そして踵を返して、道の奥へと駆け足で進んでいく。
 死ぬなよ、フリーゼ。

「遺言の言葉はもういいか、フライ」

「止めなかったな。フリーゼが俺に幻影を見せているときも、何もしなかった。何故だ」

 そう、さっきフリーゼと一緒にクリムの視点で見ていたころ。トランは全く手を出してこなかった。

 スキだらけで、俺を食い殺すにはうってつけの機会だったはずだ。
 しかしこいつは黙って見ていただけ。

「簡単だ。お前が全力で来る。俺はそれを圧倒的なパワーでへし折る。そしてその時に絶望した貴様の面を見たい。ただそれだけだ。楽しみだぜぇぇ、貴様の顔が、恐怖で歪んでいく姿を想像するのがよぉ──」

「あっそう──」

 俺は冷静に言い返す。勝手にしろ。
 そして、剣を構えた。

 鬼には鬼の甘さがある。そのスキ、その時に攻撃をしてこなかったこと。必ず後悔させてやる。

 そして、俺はフリーゼに魔力を供給し始めて──トランへと立ち向かっていった。

 俺たちの戦いが、始まった。
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