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ウェレン王国編

いきなりの罠

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 ゴゴゴゴゴゴゴ──。

 なんとその石が動き出し、その石があった場所に階段が出現したのだ。

「皆さん。道は狭いので列を組んで進みます。ついてきてください」

 そしてステファヌアとクリムを先頭に俺達は進んでいく。

 螺旋状に階段を下っていくと、真っ暗な道が続く。

 ステファヌアとクリムがその道に足を踏み入れた瞬間、トンネルの様相がガラッと変わり始めた。

 真っ暗だったはずのトンネル。
 しかし俺たちが一歩一歩歩くたび、その周りの壁が水色に光り始める。
 そしてその壁には神秘的な幾何学模様が彩られていて、ある種の芸術的なものを感じさせる。

「──神秘的ですね、フライさん」

「そうだね」

 フリーゼだけでなく、要人達や警備の人たちもその光景に息をのむ。
 全員がその姿に見とれてしまっている。

 それほどまでにきれいな光景。



 そのまま道を進み、道の先に明かりが見え始めた。

 そして、後方にいる俺とフリーゼがこの後のことについて聞こうとクリムに近づいたその時──。


 バン!!!!

 突然何かが激突したような音がこの場一帯に鳴り響く。

 なんと俺達が来た道の真後ろから、突然上から壁が下りてきて戻れなくなってしまったのだ。

 隊列の途中で──。
 幸い人が離れている場所があり、そこで分断されたのでけが人こそ出なかったものの、隊列が分断されてしまった。

 前方にいるのは俺とフリーゼ。クリムにステファヌアと国王親子。そしてその侍女とわずかばかりの兵士の人たち。

 そして後方にはスキァーヴィなどの要人たちに、一般の兵士や多くの冒険者の人たち。

 幸い、声は聞こえるようだ。すぐに後ろにいた人に話しかける

「皆さん。大丈夫ですか?」

 俺の叫び声に誰かが返事をする。

「ああ、問題はない」


 けが人はいないようだ。するとフリーゼが心配そうに声をかける。

「敵の気配とかないですか? 後ろから物音がするとか──」

 そういえば、クリムも俺たちもこっち側にいる。後方に何かが襲ってきたとき、しっかりと戦えるのか不透明だ。

「もし戦うのが不安なら、壁を壊すことも考えます。そうしましょうか?」

 壁を触ってみたところ、かなり頑丈に厚くできている。
 壊そうと思ったら魔力をかなり消費するだろうし、第一ここは狭い道。大爆発を起こそうものならこっちも被害を受けてしまう。

 それでもやるべきか、あきらめて別々に進むべきか──。

 後方の人たちは、答えない。
 シーンと静まる空気の中、誰かが話しかけてきた。

「俺たちだって、冒険者のはしくれだ。信者だ。確かに実力はまだまだかもしれないが、力を合わせて何とかやり切って見せる」

 恐らくは、冒険者の一人だろうか。確かに、そうかもしれない。
 俺達はあくまで助っ人だが、彼らにとってここは故郷、守らなければいけない地。

 この巡礼祭に込める思いだって、俺達よりずっと重いはず。
 それならば、ここは彼らを信じるべきだと、強く感じた。


 さらに向こう側から誰かが話しかけてくる。

「私とスワニーゼがいるわぁ。流石に目の前で人が襲われても助けないなんてことはしないし。守ってあげるわ。だから行きなさい」

 そう、スキァーヴィだ。
 実際に戦っているところを見てはいないが、実力はかなりの物だと聞いている。

 それにここで裏切れば、周囲からは何をしでかすかわからない無法者として認識され、国全体の信頼が落ちてしまう。裏切ることに、彼女にメリットはない。裏切るなら、自分に泥がかからないようにやるはずだ。


 全面的に信頼できるわけではないが、他に取れる方法なんてない。

「わかりました。皆さん──、そっちはよろしくお願いします」

「わかった。そっちも、ご武運を祈る」

 その言葉を聞いた瞬間、壁側から歓喜の声が漏れた。

「うおおおっ、道ができてるぞ」

「行けそうじゃねぇか!」

 さらに壁かと思われていた場所に道ができたらしい。壁越しでも、彼らの歓喜の声が聞こえだす。


「待って、私が先頭、後ろにスワニーゼを置くわ。油断大敵、皆さん行きましょう」

 スキァーヴィが声をかけると、背後からざわざわとした音がし始めた。流石は彼女、一応有能そうではあるからか、それくらいは理解ができるようだ。
 恐らく今は、列を組んで進んでいく準備をしているのだろう。

 俺達もうかうかしてはいられない。

「皆さん。それでは先へ進みましょう」

「──そうです。それ以外にありません」

 俺とフリーゼの掛け声に、クリムや、警備の兵士達が反応してくれた。

「そうね。まあ、たとえどんな奴がいても、このクリム様の敵じゃないわ」

「ああ、俺たちに勝てない敵なんかない。絶対に、生きて帰ろうぜ──」

 今の掛け声で、大分勢いがついてきた。
 そうだ、みんなで生きて帰ろう!

「では、出発します」

 ステファヌアの掛け声によって、俺達も道を歩き始めた。明かりの先へ──。
 明かりの向こうに、どんな罠が待っているかわからない。強力な敵と戦う可能性だって十分にある。

 入ってこんな罠が待っていたなんて、思ってもみなかった。
 きっとこれから先、さらに敵の罠が待っているだろう。

 しかし、相手がどんな罠を用意していようと、先ヘ進むしか道はない。


 ──乗り越えよう。
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