上 下
134 / 203
ウェレン王国編

最終日

しおりを挟む
 そして巡礼祭は最終日となった。
 ウェレンの空には真っ白な雲がかかり、パラパラと雪が降っている。

 昨日よりも少しだけ寒く。俺たちは厚手の防寒具を教会側から借りて大聖堂の前へ。

 約束の時間の時間の少し前。
 大聖堂前の広場にはすでに巡礼を行う要人たちや警備を担当する兵士や冒険者がいた。

 寒そうに体を震わせていたり、余裕のある表情で会話を楽しんでいたり。

「そんでさ。あのメイルだっけ。俺タイプなんだよな。きりっとしていてきれいじゃん」

「俺はクリムだな。幼い体に大人びた素振り。マジ嫁にしたい」

 通報しようかな、あの兵士たち。要人たちも、昨日宴でも開いていたのか、顔が真っ赤になっていたり、中には二日酔いになっているものもいる。

 とはいえ、全体的に昨日のこともあり、気持ちが緩んでいるようにも感じた。

 メイルとクリムは歩き回って冒険者や兵士たちを集めては、いろいろな話をしている。
 恐らくは、今日の警備の配置や注意事項などを話しているのだろう。

 そして時間ギリギリに国王親子、ケイルとジロンがやってくるとステファヌアが大きく叫ぶ。

「皆さん。隊列を整えたら出発します。準備の方、お願いします」

 そして俺達はメイルが示した配置につく。


「じゃあね二人とも。絶対に無事でいてね」

「ありがとうレディナ。そっちこそ無事でいてね」

「大丈夫フィッシュ。私に任せろフィッシュ」

 俺達は別れの挨拶をする。俺とフリーゼは巡礼祭に、レシアとレディナ、ハリーセルはここにとどまる。
 だからレディナ達とはいったんお別れ。そう、これが俺たちが立てた作戦の一つ。

 最終日、当然熾天使たちは動いてくるだろう。


 しかしどこに熾天使が現れるかわからない。教皇のところに戦力を集中しすぎて手薄な王都で暴れられたら相当な人が犠牲になってしまう。

 だから俺たちは戦力を分散させることになった。

 俺とフリーゼがステファヌアやクリムと一緒に大神殿へ。
 逆にレディナ達三人やメイルは王都で待ち構えているといった作戦だ。


 他に冒険者達は要人たちの元に集まったり、大聖堂の前にとどまるもの。さらに街の中へ繰り出すものへと別れていく。

 要人たちは一直線に隊列を組み、その周りを俺たちが取り囲むように配置。
 そして俺たちは最後の場所へと出発。

「皆さん、それでは出発します」


 ウェレンを離れ、森の中。広めな雪道を隊列を組んで進んでいく。

 みんなここ数日移動をしていて疲れているのか会話も少ない。国王親子は、いびきをかいて眠っている。

 移動中要人たちの観察もしていたが、これといって怪しいことをしている人はいなかった。もちろんスキァーヴィも。

 所々居眠りをしている人もいる。周囲に気配はない。
 馬車で移動すること数時間。


 小高い丘や幅が狭い谷の道を通り過ぎると、目的の場所に到着。





 王都と比べて、古風で一昔前に作られたような形状の朽ち果てた建造物が立ち並ぶ。

 今までとは違い、ただ遺跡があるだけでなく、かつて人が住んでいたような廃墟があり、 どこか違った雰囲気を醸し出している。

 そして広い道の先に俺たちが十分待機できる広場のような場所があり、馬車はそこで足を止める。

「到着よ。ここが最後の巡礼場所よ」

「──わかった」

 クリムの言葉に、自然と緊張が走り、馬車を降りる。
 他の要人たちや同伴していた兵士や冒険者達が出て来ると、彼らの前にステファヌアが出て来た。

「皆様、お疲れ様です。ここが最後の巡礼地です。私達がご案内しますので、ついてきてください」

 そしてステファヌアはクリムと一緒に道の奥へ。他の信者たちがついて行くように促すと、他の人たちもついて行く。


 うっすらとした雪にぼうぼうと雑草が生い茂る道をしばし進んでいくと、その場所はあった。

 着いた先は、骨組みだけが残る崩れ去った古代の建物。

「なんだよ。がれきの山じゃねぇかよ。間違えてるんじゃねぇの?」

 ヤジを飛ばす王子のジロン。それに対しクリムがイラッと舌打ちをした後反論。

「バカね。ここは、私が住んでいた場所。精霊と人間が交流をしていた場所なの。あんたにはわからないでしょうけどね」

「ああん? 知らねぇよこのバカ!! っていうかこの俺様に向かってなんて口聞いてんだよこのクソガキ!!」

 ジロンはカッとなりクリムに向かって叫ぶ。互いににらみ合う中、ステファヌアは作り笑顔を見せて仲裁に入る。

「待ってください。時間が押しています。お気持ちは分かりますが、周囲の目もありますし矛を収め下さい──」

「ちっ──わかったよ! しょうがねぇなあ」


「ありがとうございます。流石ジロン様。器が大きいでございます」

「あ、あったりめぇよぉ。このジロン様だぜぇ。この位なんてことねぇよぉ!」

 ジロンがその言葉を聞くなり自分の頭をなでながらニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべた。
 おだてられ、上機嫌だ。こういう難がある人の掌握も手慣れているのがわかる。
 対してクリム、ぶつぶつと文句を言っている。気持ちはわかるしどう考えてもジロンが悪いのだが、ここでキレてもいいことはない。

 何とか耐えてほしい。

 話によると、大昔は人が住んでいたが、争いがおこったり魔物が出たりして人が住まなくなったとか。

 ここはその中でも大きかった建物のようで、神殿だったらしい。
 その跡地付近であるこの場所に、地下遺跡への遺跡が発見されたのだと聞く。

 中央の奥には小さな祭壇があり、天井が抜け落ち空が一面に見えている。
 そして時折がれきに遮られた先に、地下へと続く道があるのだ。

 今は大きな石でふさがっているが、クリムが近づいてその石に手をかざした瞬間、

 ゴゴゴゴゴゴゴ──。

 なんとその石が動き出し、その石があった場所に階段が出現したのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

処理中です...