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ウェレン王国編

雪国の夜

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 そして問題は寝る時。どんなレイアウトで寝るか、軽く議論になった。

「じゃあ、今からベッドの割り振りをしましょう?」

 レディナの言葉に、真っ先に反応したのがレシアだった。

「じゃあさ、フライは僕と一緒。残りの三人でもう一つのベッドというのはどう?」

 つまり、男女別だということだ。悪くはない。しかしそれに対してフリーゼは手を上げる。

「えぇぇ……、なんだかずるくないですか? ですよね、レディナ」

「ええ、それでは理由として不完全よ。フライなら、私達が眠った後、レシアに手を出して来るとかしてくるかもしれないし──」

「レディナ、そんなことしないよ」

 俺はそう誓うが、彼女たちが信じてくれるとは思えない。どうにか良い方法はないものか考える。

 すると、手を上げたのはレディナだった。

「もう、しょうがないわねぇ。じゃあ私に提案があるんだけれど、いいかしら?」

「て、提案?」


 そして出した結論。それは、俺を真ん中にして一緒に寝るということだった。
 全員で見張りあえば、誰も間違いを犯す心配はないし、彼女たちも変な誘惑はできない。

 ある意味で合理的、平等な提案ではあるが、俺には地獄だ。

 特にレディナは、大きめな胸を押し付けるようにして眠っている。
 その感覚に胸がバクバクして全く寝られない。おまけに二人の髪に香水でもついているのだろう。
 甘いような、誘惑するようないい香りがして、それが鼻腔をくすぐるのだ。


 どうしよう。明日は巡礼祭。寝不足で力が出ないなんてことになるわけにはいかない。
 どうすればいいか考えていると──。


 コンコン──。

 窓の方から軽くたたいたような音がする。何があったのかそっちの方へ視線を移す。

 すると窓の外に、クリムとメイルの姿。
 まるでこっちに来いとばかりに、手招きをしている。

 確かに行きたいのだけれど、両隣には俺の腕に絡みつくようにレディナとハリーセルがいる。
 起こすわけにもいかないし どうすればいいか考えこんでいると、誰かが俺の肩をたたいてくる。

「私が、協力をします──」

「あ、ありがとうフリーゼ」

 俺とレディナが触れていた部分を、丁寧に外し始めた。
 決して強引ではない力加減で、俺の体をなぞるように──。
 ほどなくして、二人と俺が絡み合っていた部分が外れる。

「ん──」

 二人とも、一瞬目を伏せたままピクリと反応するが、起きるほどではなかった。

 ひとまず、拘束から逃れた俺。フリーゼと一緒に寝間着のまま外へ。


 深夜だけあって、明かりはほとんどは消えていて、道は薄暗い。
 街が雪景色に染まっている風景が見える場所で、二人の少女は月光を浴びて立っていた。
 雪の積もった道を見つめている二人の女性。クリムとメイル。二人の、どこか切なそうな表情は大変美しく、思わず言葉を失ってしまう。



「ごめんなさい。こんな時間に呼び出してしまって──」

「そうね。お愉しみだったかしら?」

 メイルのからかうような質問。フリーゼが軽く顔を赤く染める。

「ち、違います」

「それでクリム、メイル。なにしにきたの?」

 フリーゼの質問に、メイルが答える。

「明日から、今日以上に警戒を強めないといけないことがわかったからです」

「メイルの言う通りよ。とりあえず、あなた達と別れた後、私達に届いた情報を話すわ」

 そしてクリムが自慢げな表情で話し始めた。
 諜報機関があるらしく、その諜報機関から情報が来たのだ。明日から、敵対している組織、スパルティクスの連中が動く可能性が高いと。

「つまり、明日からが私達の本番ということですね」

「──そんなところよ、フリーゼ」

「実を言うと、スパルティクス団の人物とステファヌアはつながりがあります。



「別に、それ自体が問題だとは言っていない。綺麗ごとだけでは世の中は回らないからな。けれど、困るのはそっちじゃないのか?」

「ど、どういう事ですか? フライさん」

「今日のステファヌア様の演説を聞いていればわかる。信者たちのまなざし。純粋でキラキラしたあれ。あれは間違いなく、彼女を神様の様に祭っている目だ。それが、実は裏の顔があり、駆け引きのためとはいえ敵対組織とつながりがあるなんて知ったらどんな行動に出るかわからないぞ」


 今までの傾向として、純粋に教祖のことを信じていた人が裏切られたと感じた時の落差はものすごいものがある。
 まるて手のひらが複雑骨折するくらいの手のひら返しで、殺害対象にすることまであるほどだ。

 しかしクリムも、メイルも、そんな心配は一つもしていない。

「それは問題ないわ。信者の人もそれは理解しているから。だからこそ尊敬をしているのよ。

「つまり、信者たちはお花畑の様に盲目的に彼女を信じているわけではないと」

「そうです。ただきれいごとを言うだけでなく、それに裏打ちされたしたたかさや駆け引きの強さ。それに言葉だけではなく、私達がしっかりと支え力を持っている。そしてそれがあっても私利私欲に走らず、信者たちのために戦っている。だからこそ、人々はついてきてくれているのです」

 メイルの、どこか自信を持った言葉使い。ステファヌア様に対して、相当な自信を持っていることが理解できる。

「そこまでメイルが自信をもっているなら、大丈夫だと信頼できるよ」

 さっきの言葉、別に悪いことばかりではない。考えによっては敵の考えや境遇などを理解できるということだし、何よりこうして襲って来るということを事前に知ることができるのも大きい。

「失望しちゃったの? フライ」

「いいや。むしろ感心したよクリム。これなら巡礼祭も大丈夫そうだ」

「ありがとうございます。残りの巡礼祭、何事も起こらないように協力していきましょう」

「こちらこそ。よろしくお願いします」
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