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ウェレン王国編

一日目

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「じゃあフライ。私達も準備に入るわよ」

「そうだね。レディナ」

 俺達はしんがりの役割を担うことになっていたため、先頭を行くステファヌア達とはしばらくお別れとなる。

 それから、大歓声のこの広場を去っていく。

「ステファヌア様。良い祈りを──」

「私達、離れていても心はそばにいますからね──」

「クリム様、メイル様。しっかりと大教皇様を守ってくださいね──」

 信者たちの、見送りの言葉。彼らが仲間割れなどせずに一枚岩で、団結心があるというのがわかる。

 まずは教皇様の馬車と、その護衛の兵士たち。

 それから要人たちの馬車。最後に、俺たちが出発となる。
 決められた聖地を巡っていく、巡礼祭。その一日目が始まった。

 ほとんどは馬車での移動となる。一つ目の巡礼地は、この街の北東にある森の中に囲まれた神殿。

 街を出ると、針葉樹の木が連なる森に入って行く。
 雪景色を見ながら、俺は考えていた。

 この景色と、信仰深い国柄や人々。何か関係があるのだろうか。
 すると、隣にいたレディナが肩をたたいて話しかけてきた。

「フライ、考え事? ずっと虚ろな目で外を見ているけど──」

「……まあね」

 レディナは、いつも俺のことを見ているうえに、観察眼が鋭い。彼女に隠し事はできないと、心の底から思う。

「雪国の気候と、信仰深い国柄って、何か関係があるのかなって考えてた」

 すると後ろにいたレシアが話に入ってくる。

「多分、あると思う」

「何か、証拠でもあるフィッシュか?」

 するとレシアが得意げに答え始める。

「僕ね、遺跡にいるときに調べていたんだ。そういった信仰が盛んな地域と、特性とか。それでね、気が付いたんだよ。信仰が本当に生活に深い場所や国は、必ず厳しい環境が付いて回っているって。後は、疫病や紛争が多いって」

 レシア、意外と博識なところがるんだな。ハリーセルも、感心しているのがわかる。

「すごいフィッシュ。よくわかるフィッシュね」

「なるほどね。過酷ゆえに、救いを求めるということか」

 レディナも、それに対して同調し始める。

「確かに、こういった厳しい場所で、信仰が根付きやすいというのは私も思うわ。考えてみると極寒の地や、地震や災害が多い地。砂漠や酷暑など過酷な地域ではそういった事象を神の試練とあらわしたり、救いを求めるために神へすがったりするってことね」

 なるほど、過酷な環境。嵐や吹雪。少しの天気の気まぐれで人々の運命が決まってしまうような場所。
 そういった場所で、偉大なる神様への信仰が深くなったともいえる。
 それに、そういった場所が織りなす光景は目を見張るものがある。神秘的で美しかったり、この世のものとは思えないような物だったり。

 そういったものでも、信仰というのは芽生えていくのだと思う。

「そんな人たちの想いに、答えられるようにしたいですね。フライさん」

「そうだね、フリーゼ」

 フリーゼの言葉。俺の心にかなり響いた。その通り、これから、何があっても答えていこう。
 それからも、警戒はしたが特に気配はなかった。



 そんなことを話しているうちに、俺達は目的の神殿にたどり着く。

 雪深い森の中に。大きく目立つ古びた建物。
 俺達は馬車を降り、あらかじめ説明を受けていたように、歩き回って警備の方に入る。

 一応警戒はしているが、怪しい素振りをしている人はいないし。どこかからか奇襲を仕掛けてきそうな気配もない。

 前の方まで歩いたタイミングで、神殿の中を覗き込む。
 そこでは教皇ステファヌアや祭司の人たちが礼拝の準備を行っていた。儀式は、それが終わったら始まるようだ。

 そしてほどなくすると準備は完了。ステファヌアが話しかけてくる。

「皆さん、お待たせしました。準備は完了です。これから私が祈りを捧げますので、皆さまは黙とうの方を、よろしくお願いいたします」

「はい、わかりました」

 教会の要人らしき人が言葉を発し、あたりが静まり返った。



「待たせすぎなんだよバカ女。国王様がいるんだぞ。早くしろよ!」

 国王のジロンは相変わらずであったが──。

 それからすぐ、ステファヌアが両手を合わせ、目をつぶる。黙とうが始まったことを周囲が理解したのか、教会の幹部たちや要人たちも、彼女と同じようなポーズをとり、祈りをささげる。

 数分間の黙とうが行われる。

 それからも、神殿の中に順番に人が入って行き、奥にある礼拝所で祈りをささげた。

 もちろん俺たちも。
 薄暗い神殿の奥。そこそこ広い部屋で両手を合わせ祈りをささげる。

「フリーゼ、この絵画。誰を描いたものかわかるか?」

「おそらく、大天使様を描いたものだと思われます」

 なるほど。こういった所でも、大天使様は尊敬されているのか。
 俺達は外へ出る。

 狭い道の都合上少しずつ礼拝をおこなったため、時間がかかった。
 それからも、付近にある礼拝所などで祈りを行う。


 特に敵が襲ってくるわけではなく、無事に一日が終わった。

 夕方で日が沈んできたころ。俺たちは朝出発した大聖堂前の広間に戻る。

 先頭を歩いていたステファヌア様たちを乗せた馬車がたどり着くと、まずはメイル。次にステファヌアとクリムが馬車から降りた。
 その後も、他の馬車から要人たちが次々と降りる。みんな一日中の移動の疲れからか、背伸びをしたり、一息ついたりしている。

 最後に、俺たちが広間に足を踏み入れた。すぐにステファヌアやクリムのところへと向かっていく。

 ステファヌアのところにたどり着いた俺たち。彼女は胸に手を当てながらにっこりと上品な笑みを浮かべ、話しかけてきた。

「フライさん達ですよね。長い時間の警護、馬車もなしに歩きで、本当にお疲れ様です。ありがとうございました」
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