上 下
112 / 203
ウェレン王国編

唯一王 巡礼祭へ

しおりを挟む
 それから送迎の馬車で、目的の場所へ。




 まず俺たちが来たのは、先日行った大聖堂。その真正面の入り口。
 そこにいるのはあふれんばかりの人々。みんな両手を合わせて祈るようなポーズをしていたり、深呼吸をして、リラックスをしたりしている。

 俺達は怪しい素振りをしている人がいないか、歩いて確かめる。
 たくさんの人がいる場所。その上ここには要人たちも来るとあっては、どうしてもテロなどが起きやすい。

 俺たち以外に兵士の人たちもそれなりにいて、どこかピリピリしている雰囲気だ。すると、俺たちの隣にクリムとメイルがやってきた。

「フリーゼ。夜はお愉しみだった?」

「……おはようございます。普通に良く寝られましたよ」

 からかうクリムの言葉。フリーゼは軽くあしらう。
 スーツ姿のメイルは、クリムとは対照的にお行儀良く頭を下げる。

「皆様、おはようございます」

「おはようフィッシュ」

「今日からが、巡礼祭です。皆さん、問題なく巡礼祭が進むようご協力の方、よろしくお願いいたします」

「こちらこそ。一緒にこの人たちを守っていきましょう」

 そしてメイルは警戒した素振りで周囲に視線を向けた。

「とりあえず、今は魔力の気配は感じませんね」

「はいメイルさん。それは、俺達も感じています」

「──しかし、油断は禁物です。いつ敵たちが奇襲してきてもいいように、警戒は緩めないようにしましょう」

 フリーゼの言葉通りだ。油断させておいて奇襲を仕掛けてくる可能性だってある。
 いつ敵が襲ってきてもいいように、警戒を強めておこう。



 幸い、特に問題もなく時間が過ぎる。すると、大聖堂から一人の人物が出て来た。

「皆様、これから巡礼祭の開始に伴う、大教皇様の挨拶を始めます。神聖な儀式の始まりゆえ、お静かに話を聞くようにお願いします」

「いよいよ現れますね。この教会の象徴。そして、私とクリムの両親の様な存在」

 その言葉に信者の人々、話し合ったりしゃべったりしているのをやめ、視線を大聖堂へと向けた。

 そして、大聖堂の三階。俺たちが視線を集中させている大聖堂から突き出ている場所。そこに一人の人物が中から合わられた。


 その瞬間、ざわめいていた信者の人たちが、歓喜の声を上げた。

「おおっ、ステファヌア様!!」

「なんと若くてお美しい。私感動してしまいましたわ」

「あれが私達の教会の最も権威がある人物であるステファヌアです」


 その人物が信者たちの前に現れたその瞬間、この場の雰囲気がどっと変わっていくのを感じた。

 長身でクリーム色のロングヘアをした女の人。
 くるりとカールが巻いてある髪質。見た目からしておっとりしていてとてもやさしそうな人。

 教皇ともあって、周囲からも尊敬を集めているのだろう。彼女が壇上に登るだけで周囲の人たちがざわめいてるのがわかる。

 ステファヌアは壇上に登って一度頭を下げてから、信者たちに視線を送る。
 信者たちはすぐに精一杯の握手をしはじめた。

 しばらくの間、拍手の音でこの場が埋め尽くされる。拍手が終わるとシーンと静まり返り、信者たちの視線が教皇に向かって吸い寄せられた。

「この人、演説の仕方、うまいと思うよ」

「どうして?」

 レディナの質問に、俺は以前読んだことがある本の知識を総動員して答える。

「今の間。信者たちが拍手をして、すぐに演説を始めなかった。それさ」

「どういうことフィッシュか?」

「拍手をして、静まり返る。そこで沈黙をしていると、何があったのかと周囲は自然と彼女に集まる。そしてその瞬間から演説を始めていくということさ」

「なるほど、人々を引き付ける才能があるということですね」


「皆様がより深く大天使たちを信仰できるよう。深く彼らのご加護を受けられるよう、私達が責任をもって、皆さんの分まで祈ります」

「また、この巡礼祭を無事に終えるために、協力してくださる冒険者達や兵士たちの皆様。この巡礼祭の警護にご協力いただき、ありがとうございます。皆さんにも幸せが届きますように、私達が──、責任をもって巡礼を行いますので、ご協力の方よろしくお願いいたします」

 その後も、ステファヌアはこの場にいる人たちに視線を向けながら演説を続ける。
 信者たちは誰一人ヤジを飛ばしたりせず、食い入るようにステファヌアの話を聞いていた。

 そして、演説を締めくくる言葉がこの場に響き渡る。



「皆様。私の言葉をご清聴いただき、本当にありがとうございました」


 信者たちは大いに盛り上がる。そして全員が大きく拍手をし始めた。そしてステファヌアは一礼をした後、壇上から降りる。

 ゆっくりと歩いて俺たちのところへと向かってきた。

「──ふぅ、やっぱり大勢の前での演説は疲れますね」


 ほっとしたような表情、ため息をついて話しかけてくる。

「お、お疲れ様です。しかし、どうしてここへ?」

「あ、あなたがフライさんですね。初めまして、警備の方、よろしくお願いいたします」

 ステファヌアさんの、さっきと変わらない落ち着いた物言い。

「は、はい。警備の方、頑張らせていただきます」

 そして彼女はメイル、クリムと一緒にこの場から去っていき、広間の入り口にある馬車に乗り込んだ。

「じゃあフライ。私達も準備に入るわよ」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...