上 下
82 / 203
ブラウナ編

唯一王 レシアの本気を支える

しおりを挟む
 勇気を持った強い目つきで、エンレィに言い放つ。

「僕はもう、未熟な存在なんかじゃない。僕は、みんなを守るんだ──」

 レシアのその言葉。ハッタリではないのを感じた。
 そこに今までの弱気な心は一切入っていなかった。どんな事があっても仲間達を守り抜く。そんな強い気持ちと覚悟を持っているのを感じる


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 レシアは大きな声で叫ぶと、自身の体が自身の炎に包まれる。
 そしてレシアの姿、今まではその炎に自分が焼かれてしまっていた。しかし今はそれがない。落ち着いて深呼吸をし、精神を整えた。


 追い詰められると、レシアの炎が全身を包み能力を大幅にアップさせる。彼の特殊能力だ。

「レシア、まさかお前が自分の力を使いこなすとは。だが、それで勝ったと思うなよ」



 レシアは目からうっすらと涙を流す。
 そしてほんのりと笑みを見せた。

 以前は炎を身にまとうとその炎をうまく制御することができず、自身が燃えてしまっていた。

 けれど、今はその様子が全くない。体中に身にまとっている炎を、完全に自分の物として身に着けている。

「レシア。お前ならできる、強くなったお前の力を見せてやれ!」

「フライ、ありがとう。絶対にエンレィに勝って見せる!」

 強気な表情から感じられるその言葉。それを聞いた俺は、彼なら絶対に勝てると

 そして俺も最後の力を振り絞ってレシアに魔力を供給する。
 正直俺も魔力をかなり使い切ってしまっている。
 意識が飛びそうだ。けれどレシアだって自分の限界を超えて必死に頑張っているんだ。

 弱音なんて吐いていられない。


 そして二人は一騎打ちになる。
 まずはエンレィが殴り掛かる。レシアはすぐに体勢を低くしその攻撃をかわす。そして無防備となった彼女に肉体に一気にナックルで殴り掛かる。


 するとエンレィはそのまま前に重心を移動し空中で回転する形。
 ヒットしたと思っていた攻撃は彼女の靴底をかすめて終わる。

 しかしレシアの攻撃は終わらない。振り向きざまのエンレィに向かって一気に距離を詰めていく。

 そして強気に攻撃を仕掛けていった。

 二人とも、動きがとても速く、肉眼ではとらえきれないほどだ。

「フッ、力を使いこなせるようになったことは誉めてあげます。だが、私の敵でありません!!」

 そう叫びながらエンレィがレシアに切り込んでくる。今まででも一番力がこもった切り込み。
 一気に振り下ろされた攻撃をレシアはナックルで受け止める。

 その表情は、とても苦しそうだ。恐らく、衝突したときの衝撃がかなりのダメージとなっている。

 恐らくはかなりの激痛だろう。

「どう? 私の一撃、受けきれなかったみたいですね」

 しかしその表情を見たエンレィも、有効打になったと思い込んでいる。自分の攻撃が通った瞬間というのは、どうしても気持ちが前のめりになってしまう。

 そう、それがスキになるとも知らずに──。
 レシアはその瞬間左手のナックルに力を込める。

「何っ??」

 エンレィが慌てて気付いて距離を取ろうとしたが、レシアの右手でエンレィの持っていた剣をギット掴んでいた。
 そのため、慌てて離れようとしても、離れることができず──。

「くらぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 レシアの全力の拳が、レシアの体に直撃する。
 緩やかな弧を描いてエンレィの肉体が吹き飛ぶ。

 その体は地面に直撃、数メートル程転がった後ようやく止まる。

 レシアは勝負を決めようとエンレィの元へ追撃。しかしエンレィもすぐに起き上がり追撃を許さない。
 そして再びの打ち合い。エンレィの剣とレシアのナックルが何度もぶつかり合う。

 すごい、エンレィの圧倒的なパワーにも全く負けていない。互角の戦いをしている。

「頑張れレシア。俺が力になる」

「ありがとうフライ、僕は絶対に勝つよ!」


「ふざけるな。あなたのような半端者に、この私が負けるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 エンレィもボロボロになりながら応戦。言葉つきが変わり、外見もワイルドなものになってきていた。
 本気で戦っているのがよくわかる。

 それでもレシアは、エンレィの圧倒的なパワーにしっかりと対応。



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 頑張れレシア、お前は役立たずなんかじゃない。強くなったお前の姿を見せてやれ!

「──うん」


 俺も、ほとんど魔力が尽きていて今にも倒れそうだ。けれど、レシアのために何とか力をひねり出す。

「ウォォォォォォォォォォォォォォォ!」

 するとノダルの仲間の一人が俺に向かって突っ込んでくる。ボロボロの姿だが、俺も残り少ないパワーでレシアに力を送っている。まずいぞ。

 ──しかし。

「あなたに邪魔は、させないわ!」

 それをレディナが妨害する。すでにボロボロになっているはずなのに、本当にありがとう。

「あいつが頑張っているんだもの。私だって、負けていられないわ!」

「そうだね」

 俺もだ、途中でレシアに魔力が送れなかったなんてことが無いように、頑張る。
 レシアはさらに速度を上げて、エンレィに立ち向かう。

 ──がやはり熾天使のという存在だけあって一筋縄ではいかない。それでも懸命に食らいついていく。

「フフッ。強くはなったけど、やはりまだ甘いわね」

 レシアはエンレィの攻撃を懸命にさばくが、軌道を変えられ、右手で今度は防ぐ。しかし両手で対応したことで、エンレィの肘打ちに対応することができず、右頬に攻撃を受けてしまう。

 何とか踏ん張り、対応したものの、エンレィの追撃は終わることもなく防戦一方になってしまう。

「バカですねぇ。パワーはあるかもしれないけど、ちょっと上品過ぎねぇ」

「勝手に、言ってなよ」

 レシアは、強気な目つきでただ攻撃を受ける。まるで何かを、狙っているような──。


「これでおしまいよ。くらえぇぇぇぇ!」

 そしれエンレィは一気に剣を振り下ろす。さっきとは比べ物にならない魔力の量。これで勝負を決めるつもりだというのが俺からも理解できる。

「レシア!」

 俺は思わず叫ぶ。しかしレシアの表情は、どこか自信に満ちていた。


「これを、僕は待っていた!」

 なんとレシアはナックルにありったけの魔力を込めその攻撃を受けきったのだ。そして左手でその剣をぎゅっとつかむ。

「は、離しなさい!」

「離さないよ。これで、勝負は決まりだ!」

 そしてレシアは思いっきり体を回転させる。
 そのまま剣を巻き込むようにしてエンレィを引き寄せる形になった。

「し、しまった──」

 剣の内側に入られたエンレィになすすべはなく……。

「くらぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 剣を掴む手を右手に持ち替え、剣を話した。ナックルに魔力をため込み、エンレィのみぞおちに、自身の全力の裏拳を食らわせた。
 白目をむいて吹き飛んだエンレィ。そしてとどめを刺すためにレシアはエンレィに急接近。

「レシア、お前の全力を叩き込め!」

「うん!」

 その言葉通り全力の拳をエンレィにお見舞いした。

「ば、ば、バカな。この私がレシアなどに敗北するだとォォォォォォッ!」

 そしてエンレィの肉体が後方へと吹き飛ぶ。そして壁にたたきつけられ、そのまま壁の下に落ちる。

 エンレィの魔力はもうほとんど残っていない。
 勝負はあった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...