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唯一王 ポルセドラの所へ
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「おい、なんでミュアがいないんだ?」
「あいつ、パニックになってどっか走り出しちまった」
「あ、ああ……、この奥に強力な魔物がいてな、強くて苦戦していたら、ミュアの奴、腰を抜かした後逃げ出していった」
「助けたり、しないフィッシュ?」
「無理だな。パニックになったせいかよりにもよってダンジョンの奥の方へ行っちまった。変に追ったら他の仲間の命まで危ない。無事を祈るしか、俺たちにはできなかった」
アドナのセリフに俺は違和感を抱く。確かにミュアは気が弱く場に流されがちなところがある。でも芯が強く強い敵と戦ってもパニックになったりしない。
それだけじゃない。三人の態度も変だ。アドナの言葉に悔しさや必死さが全く伝わってこない。
本当に逃げ出したのなら、もっと悔しそうになったり、無念さが伝わる様な表情になってもおかしくはないはずだ。
それだけじゃない、ウェルキも特に興味が無いように座り込んでいるだけ。
キルコは目をきょろきょろさせそわそわとしている。まるで何かを隠しているかのように。
明らかにおかしい。まさか──。
フリーゼも、何かを察したようで、真剣な表情でアドナに問い詰める。
「本当ですか。まさか、彼女を見捨てたとかではありませんよね」
フリーゼのド直球な質問に、アドナたちは一瞬ビクンと体を反応させる。わかりやすいやつらだ。
フリーゼとハリーセルは疑った表情を彼らに向ける。
平然とした表情でトランが話に入りはじめた。
「安心しろ。俺はこいつらのことを横目に見ながら戦っていた。こいつらの言ってることは本当だ。俺が保証する」
トランの態度に嘘をついたり、ごまかしているようなそぶりはない。本当なのか、それとも──。
「ったくよぉ、第一俺達がミュアを見捨てたと思うなら証拠を持って来いよ」
ウェルキとアドナには、罪悪感のかけらも、仲間を見失って動揺しているそぶりはない。
キルコだけは、俺と視線を合わせず目をきょろきょろとさせているが。
といってもこのダンジョンの中、証拠などあるはずがない。というか今はこんなところで言い争いをしている時間じゃない。
早くミュアのところに行かないと。
「とりあえず、俺たちはミュアを探しに行くから、お前たちはこの道をそのまま行ってくれ。ハリーセル、道をまっすぐに行けば外に出られるんだよな?」
「うん。外へ行けるフィッシュ」
その言葉に体を再びビクンとさせたアドナが俺の肩を掴み、引き留めようとした。
「お前なんかが同行できる相手じゃない。これ以上奥へ行ったら死ぬぞ」
「大丈夫だ。俺だけじゃない。フリーゼとハリーセルもいる。だから大丈夫だ」
というかハリーセルのおかげで俺たちは敵として認識されないようになっている。
しかし、そんなことは知らないアドナはその言葉に呆れたのか、ため息をついて言葉を返した。
「──勝手にしろ。お前はもう仲間でも何でもない。ここで死のうとも何とも思わん。」
「わかった。それじゃあ遠慮なくいかせてもらうぜ」
それから俺たちは裏ダンジョンの先へと進んでいった。
そして小走りでしばらくダンジョンを進んでいくと、ミュアと出会った。
「ミュア、大丈夫か?」
声をかけてみたものの今の彼女を見るだけでおよその状態はわかる。
ぜえはぁと息を荒げながら膝を曲げている。
服はボロボロで、体のいたるところに切り傷。体から出ている魔力も虫の息という感じでもう戦える状態ではないというのがまじまじと伝わってきた。
「フライ──」
誰かが大声で叫べば消えてしまいそうなかすれた声で俺を見ながらそうささやく。
そして彼女は目から涙をこぼし、俺の胸に飛び込んできた。
「フライ、ごめん。仲間外れなんかにして、省いたりして。それで、私を助けてくれたなんて──。なんて言ったらいいか──。ええええええええええん」
圧倒的な力を持つ敵。それに対して近距離戦闘ができない彼女が一人で立ち向かっていた。
恐怖と圧倒的な実力差の中、必死に戦っていた。その中で、精神的に限界を迎えていたのだろう。
そして俺たちが来て、抑えていた感情が涙となってあふれ出したのだ。
「フライ──、フライ──」
胸の中で、泣きじゃくりながら俺の名前を叫ぶ。
しかし、喜んでばかりもいられなかった。
グォォォォォォォォォォォォォォ!
何とポルセドラが俺たちに向かって攻撃を仕掛けてきたのだ。
あわててフリーゼが対応したものの、まさかの事態に周囲は騒然とする。
「おい待て、なんて攻撃してきた。俺たちは敵と認識されないはずだろ」
念のため自分の腕を見てみる。青白い光、大丈夫だ。ハリーセルの術式はまだ効いている。
「わからないフィッシュ。言うことを、聞かないフィッシュ」
「おそらくですが、仲間たちを失って怒りに震えているのではないでしょうか。それによって我を忘れている。ように感じます」
「確かに、攻撃や動き方がいつもより単調で、感情的になっているフィッシュ」
俺は周囲に視線を向ける。そこにはアドナたちが倒していったであろうゾイガーの亡骸。
なるほど。ゾイガー達は、言ってみれば一緒に裏ダンジョンを守ってきた戦友。その戦友をこれだけ殺されたのだからその怒りも相当なものだろう
「こいつ。どうすればいい?」
「とりあえず、大きな一撃を食らわせましょう。そうすれば目が覚めるかもしれません」
「……しょうがないな」
何も倒す必要はない。有効打を一回与えればいいだけだ。それなら、出来ないことはない。
やるしかない。
「あいつ、パニックになってどっか走り出しちまった」
「あ、ああ……、この奥に強力な魔物がいてな、強くて苦戦していたら、ミュアの奴、腰を抜かした後逃げ出していった」
「助けたり、しないフィッシュ?」
「無理だな。パニックになったせいかよりにもよってダンジョンの奥の方へ行っちまった。変に追ったら他の仲間の命まで危ない。無事を祈るしか、俺たちにはできなかった」
アドナのセリフに俺は違和感を抱く。確かにミュアは気が弱く場に流されがちなところがある。でも芯が強く強い敵と戦ってもパニックになったりしない。
それだけじゃない。三人の態度も変だ。アドナの言葉に悔しさや必死さが全く伝わってこない。
本当に逃げ出したのなら、もっと悔しそうになったり、無念さが伝わる様な表情になってもおかしくはないはずだ。
それだけじゃない、ウェルキも特に興味が無いように座り込んでいるだけ。
キルコは目をきょろきょろさせそわそわとしている。まるで何かを隠しているかのように。
明らかにおかしい。まさか──。
フリーゼも、何かを察したようで、真剣な表情でアドナに問い詰める。
「本当ですか。まさか、彼女を見捨てたとかではありませんよね」
フリーゼのド直球な質問に、アドナたちは一瞬ビクンと体を反応させる。わかりやすいやつらだ。
フリーゼとハリーセルは疑った表情を彼らに向ける。
平然とした表情でトランが話に入りはじめた。
「安心しろ。俺はこいつらのことを横目に見ながら戦っていた。こいつらの言ってることは本当だ。俺が保証する」
トランの態度に嘘をついたり、ごまかしているようなそぶりはない。本当なのか、それとも──。
「ったくよぉ、第一俺達がミュアを見捨てたと思うなら証拠を持って来いよ」
ウェルキとアドナには、罪悪感のかけらも、仲間を見失って動揺しているそぶりはない。
キルコだけは、俺と視線を合わせず目をきょろきょろとさせているが。
といってもこのダンジョンの中、証拠などあるはずがない。というか今はこんなところで言い争いをしている時間じゃない。
早くミュアのところに行かないと。
「とりあえず、俺たちはミュアを探しに行くから、お前たちはこの道をそのまま行ってくれ。ハリーセル、道をまっすぐに行けば外に出られるんだよな?」
「うん。外へ行けるフィッシュ」
その言葉に体を再びビクンとさせたアドナが俺の肩を掴み、引き留めようとした。
「お前なんかが同行できる相手じゃない。これ以上奥へ行ったら死ぬぞ」
「大丈夫だ。俺だけじゃない。フリーゼとハリーセルもいる。だから大丈夫だ」
というかハリーセルのおかげで俺たちは敵として認識されないようになっている。
しかし、そんなことは知らないアドナはその言葉に呆れたのか、ため息をついて言葉を返した。
「──勝手にしろ。お前はもう仲間でも何でもない。ここで死のうとも何とも思わん。」
「わかった。それじゃあ遠慮なくいかせてもらうぜ」
それから俺たちは裏ダンジョンの先へと進んでいった。
そして小走りでしばらくダンジョンを進んでいくと、ミュアと出会った。
「ミュア、大丈夫か?」
声をかけてみたものの今の彼女を見るだけでおよその状態はわかる。
ぜえはぁと息を荒げながら膝を曲げている。
服はボロボロで、体のいたるところに切り傷。体から出ている魔力も虫の息という感じでもう戦える状態ではないというのがまじまじと伝わってきた。
「フライ──」
誰かが大声で叫べば消えてしまいそうなかすれた声で俺を見ながらそうささやく。
そして彼女は目から涙をこぼし、俺の胸に飛び込んできた。
「フライ、ごめん。仲間外れなんかにして、省いたりして。それで、私を助けてくれたなんて──。なんて言ったらいいか──。ええええええええええん」
圧倒的な力を持つ敵。それに対して近距離戦闘ができない彼女が一人で立ち向かっていた。
恐怖と圧倒的な実力差の中、必死に戦っていた。その中で、精神的に限界を迎えていたのだろう。
そして俺たちが来て、抑えていた感情が涙となってあふれ出したのだ。
「フライ──、フライ──」
胸の中で、泣きじゃくりながら俺の名前を叫ぶ。
しかし、喜んでばかりもいられなかった。
グォォォォォォォォォォォォォォ!
何とポルセドラが俺たちに向かって攻撃を仕掛けてきたのだ。
あわててフリーゼが対応したものの、まさかの事態に周囲は騒然とする。
「おい待て、なんて攻撃してきた。俺たちは敵と認識されないはずだろ」
念のため自分の腕を見てみる。青白い光、大丈夫だ。ハリーセルの術式はまだ効いている。
「わからないフィッシュ。言うことを、聞かないフィッシュ」
「おそらくですが、仲間たちを失って怒りに震えているのではないでしょうか。それによって我を忘れている。ように感じます」
「確かに、攻撃や動き方がいつもより単調で、感情的になっているフィッシュ」
俺は周囲に視線を向ける。そこにはアドナたちが倒していったであろうゾイガーの亡骸。
なるほど。ゾイガー達は、言ってみれば一緒に裏ダンジョンを守ってきた戦友。その戦友をこれだけ殺されたのだからその怒りも相当なものだろう
「こいつ。どうすればいい?」
「とりあえず、大きな一撃を食らわせましょう。そうすれば目が覚めるかもしれません」
「……しょうがないな」
何も倒す必要はない。有効打を一回与えればいいだけだ。それなら、出来ないことはない。
やるしかない。
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