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裏ダンジョン 絶望的な戦い

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「トラン。笑いに来たのか?」

 トランであった。彼もSランク相当の力を持ちながら一人で戦うことを余儀なくされ、満身創痍の状態であった。
 今までも、ミュア、キルコと連携をとることができず一人で周囲にいるゾイガー達を倒していたのだ。

 トランがアドナの肩を掴んで話しかけてくる。ニヤリとした笑みを浮かべながら。

「俺のパーティー、雑魚ばっかでよぉ。こういう強敵との戦いになると俺の足を引っ張るしかない無能なんだよ。だからこの俺様がいるというのに何時までもSランクにもなれねぇ。全部あいつらのせいだ」

「──確かに、貴様のパーティ、お前ひとりだけが抜きんでた強さを持っている。お前はSランクでもおかしくはないが、他はせいぜいDランク程度しかない」

「けれど、一度組んじまった以上下手な理由もなしに首にすることも出来ねぇ。無能だからお前たちはいらないなんて言ったら俺のイメージまで落ちてしまう。そして今、俺は一人でお前たちと一緒に魔物を退治している。何を言っているのかわかるか?」

「俺たちと。組むという事だろう?」

「正解。それに、ここを切り抜ける策、俺にはあるんだよ」

 にやりと笑うトラン。そして彼の策略は、今のメンバーでうまくいっていないと感じていたアドナの利害とも一致していた。

「おいてめぇら。何休憩してるんだよ。早く加勢しろよバカ野郎!」

 ウェルキがボロボロになりながら二人に罵声を浴びせる。彼も大ダメージを負ったうえ、一人で前線で戦っている。
 もちろん彼一人でどうにかなるはずもなく、防戦一方で今にも倒れそうなくらいだ。

「ちょっと待てウェルキ、作戦考えてるんだ。すぐ加勢する」

 ウェルキに言葉を返した後、再び視線をトランに向け、返事をした。

「わかった。その話。乗ってやる」

 そしてアドナとトランが手を握り、目を合わせる。その後、自らもポルセドラへと突っ込んでいった。

 ピンチであることを悪用し、良からぬ事態になりそうになっていた。



 そのころ俺たちは──。

「ここは──」

「どうやら裏ダンジョンにたどり着いたようですね」

「そうフィッシュ」

 俺は周囲を見回す。風景自体は昨日歩いたダンジョンと光景が同じなのだが。足首まで水につかっているのが少し気になる。
 そしてところどころ中級魔物「ゾイガー」の死体があるのがわかる。どれも体のいたるところに切り傷や爆発を受けた傷があるのがわかる。

 恐らくアドナたちと戦っていたのだろう。


「とりあえず、ここでアドナたちが戦っていたというのがわかった。道の先へ行けばいいんだろ。それで、どっちへと行けばいいんだ?」


「流れの元に行けばいいフィッシュ」

「そうか、じゃあ早く出発しよう」

 そう言って俺の足が一歩目を踏み出したその時、俺たち三人の体が青白く光っていくのが見えた。

「ハリーセル、何ですかこれは」

「私の特殊な加護だフィッシュ。私の魔力の加護がある人は、魔物たちに敵として認識されないフィッシュ」

 なるほど。これなら敵と遭遇しても戦わずに済むぞ。


 そしてびちゃびちゃと足音を立てて走りながら、俺たちはダンジョンの奥へと進んでいった。
 アドナたち、まだ生きているといいが──。








 そしてアドナたち。

 パーティーは、完全に崩壊していた。
 圧倒的な強さの前にもともとバラバラだったコンビネーションは完全に崩壊。

 必死に戦っているもののバラバラに戦っている状況で、ポルセドラとゾイガーにとまともに勝負になるわけもなく、防戦一方。

 その姿に一人ゾイガーを対していたトランがあきれた声で話しかける。

「お前たち本当にSランクかよ。別のCランクパーティーでももっとうまくやっているぞ」

 怒鳴り散らすトランにウェルキが舌打ちした後言い返す。

「うるっせぇ。てめぇこそちゃんとやってんのかよ。いつまでも雑魚敵ばかり相手にしやがってよぉ。こっちは苦戦してんだからさっさと片づけて加勢しろよ!」

「俺は後ろの女二人がどんな術式を使ってくるかわからん。一人でいる今巻き添えになったらそれこそ墓場行きだ。それとも後ろ二人の術式を止めるか? そしたら援護の無い貴様たちはすぐに終わりだがな」

「ケッ、言い訳ばかりしやがって!」

「お前ら、本当にSランクかよ。言っちゃ悪いがコンビネーションはバラバラ、お前たちの戦闘力はせいぜいCランク程度だ。パワーも平凡、それを補う技術やテクニックがあるわけでもない。後ろの女二人はそこそこ強い術式を持っているがそれでもせいぜいBランク程度だ。どう考えてもSランクの器じゃない。不正行為でもしたんじゃないのか?」

 その言葉にアドナがチッと舌打ちをするが、襲ってきたポルセドラに対応するため、会話に入れない。代わりにウェルキがイラついた態度で言葉を返す。

「ふざけんな馬鹿野郎。実力に決まってるだろう。ただいつもより力が出ねぇんだよ。こいつらがそんな術式を使ってるんだ」

「んなわけあるか。俺はそんな事無い。実力を出せてる。自分の無力さを人のせいにするのはやめろ。自分は無能だと自白しているようなものだぞ」

 戦いながら言い争う二人。遠くからキルコが叫ぶ。

「──確かに最近魔力の出が悪いとは思っているわ。けど、理由なんてわからないし、今それを言い争っても仕方ないでしょ」

 キルコと言葉にトランは以前見ていたこのパーティーの行動を思い出した。

(こいつが嘘をついているようには見えねぇ。待てよ、あの時もう一人いたよな。あいつ、魔力を使ってこいつらを……。なるほど、そういう事か)
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