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3章
彼らとは、戦わない
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そう言ってクリークはカバンから黒い瓶を取り出した。中が全く見えない瓶。
さらに下に紙を敷いて、中にある物を取り出す。
そこにあったのは、白い粉。そして、白い粉が周囲の視界に入った瞬間、全員の視線が白い粉に向いた。体制が前のめりになり中には這いずって近づこうとする者もいた。
あれが、アヘンなのだろうか。
「おおっ、金はある。なんでもするからそれをよこしてくれぇぇぇぇ」
男の人は、身を起して必死の形相でその袋に接近。
「待ってくれ待ってくれ、逃げやしないから」
クリークは慌てて白い粉が置いてある紙を自分の元へ置く。
「アヘン。高いやつから売ってやる」
その言葉に、思わず肩をびくんと揺らした。
ここから南の、熱帯の地方で採れるんだっけ。
「でも、これってどこの国も禁止指定の薬物として扱われているはずよ」
そうだ。依存性が強く、摂取することによって害が認められる場合、国家としてその薬物の使用を禁止する場合がある。
アヘンは典型的なそれだ。依存性が強く使用したひとは圧倒的な快楽により、私財を投げ売ってでも入手を求める人が急増。
無気力な人間を数えきれないほど生み、廃人になってしまう人間もいた。そして、そのせいで国が回らなくなり、各国政府は次々とアヘンを使用禁止にし、国内からたたき出したのだった。
「国を破壊する薬物といった所ね」
「調べてるけど──今ある国の中で、使用禁止の法律があるのは6割ほど──」
「あくまで法律になっているだけで、不正なく取り締まってるかどうかは別問題ですよね」
「よくわかってるじゃない」
他国の状況だって、色々な情報網から入手している。まあ、法律を作ったところでそれで解決するならだれも苦労はしないわね。
まあ、役人に汚職は付き物だし、アヘンで手に入れた利益をわいろとして渡して目こぼし手をしてもらっているのだろう。
そして、裏社会で独自の販売網をどこも気づいているのだろう。
「まあ、隠れてやってるんでしょうね。依存性があるみたいだし、
「そうね」
周囲を見る。この建物にいる人たち──ほとんどが床にぐったりと横になり、例のパイプを吸っている。
見た感じ、かなり広がっちゃってる感じね。
「とりあえず、放っておくわけにはかないわ」
「そうね」
何とかしないと。そう考えてタイミングをうかがおうとしたその時。
肋骨が浮き出ている、やせ細ったおじさんが周囲をきょろきょろ見始める。
「なんだ、アヘンを目の当たりにしておかしくなっちまったのか?」
「違う。やはりそうだな」
男の人の表情が真剣なものになる。何か、あったのだろうか。
「俺は──人の気配を探知することが出来るんだが、あの壁の向こうから感じるんだ。人の、それもかなり強い魔力とこっちへの視線が」
「つけられていたのか」
その言葉に、思わず肩がビクンとなった。
しまった、探知系の魔法を使える人がいたなんて。どうすれば──まさかこんなことになるなんて。
しかし、ここまで視線を集めてしまっている以上、どうすることもできない。
「アルル、何とか出来る術式とかない? 音を消して逃げられる術式とか」
「無理よ。ここにいるってバレてるんだもの。無理に逃げて、もし捕まりそうだったら戦って強引にいなくなる……とかならできるけど」
「ううん、それは無理かな。だって、国民だもん」
「同感」
やっぱりそうよね。
いくら法を犯してるからって、国民と戦うことはできない。そしたら、圧政を行っているのと同じだ。
例えばこれが他国から来た人達だったら、私たちは戦う。国民の命を守るのは私たちの役目だから──彼らが平和に暮らせるように、私たちはいるわけだから。でも、国民にここで手を挙げてしまったら、それは弾圧と変わらない。
抵抗をあきらめ、私たちは手を上げ立ち上がった。無表情で、クリークたちを見る。
「一応言っておくけど、全部聞いていたわ」
「で、どうする? 俺たちを捕らえるのか?」
自信満々に、クリークが言う。やはり、こうしたことをしているだけあって、こんな状況になることを予感していたのだろうか。戦うなら、容赦はしない。けど──。
「出来たら、とっくにやっているわ」
「なんだよ。こんなとこまできて、証拠まで掴んでずいぶん甘いんだな」
「捕まえてことが収まるならとっくにやってるわよ。それだと、話が『ここにいる奴が悪い』で終わっちゃうのよ」
「アルルの言うとおりです。確かに裁きは受けてもらいますが──ここで騒いだら胴元はあなたたちをトカゲのしっぽのように切り捨てるでしょう。それでは、何の意味もありません」
クリークだけじゃない、アヘンを使用していた彼らだって、口封じを理由に消されると思う。
こういった裏組織というのは、常に疑心暗鬼になり、少しでも自分の身が危ないと思ったらたとえ味方だろうと消す。今までもそういうケースは十分あった。
その胴元を捕まえないとなんの解決にもならない。
「だから、まずは色々とさ、話とか聞かせもらえないかな」
ミシェウが、優しく微笑んで話しかける。
こういう時に、話しやすい雰囲気を作れるのはミシェウならでばよね。
さらに下に紙を敷いて、中にある物を取り出す。
そこにあったのは、白い粉。そして、白い粉が周囲の視界に入った瞬間、全員の視線が白い粉に向いた。体制が前のめりになり中には這いずって近づこうとする者もいた。
あれが、アヘンなのだろうか。
「おおっ、金はある。なんでもするからそれをよこしてくれぇぇぇぇ」
男の人は、身を起して必死の形相でその袋に接近。
「待ってくれ待ってくれ、逃げやしないから」
クリークは慌てて白い粉が置いてある紙を自分の元へ置く。
「アヘン。高いやつから売ってやる」
その言葉に、思わず肩をびくんと揺らした。
ここから南の、熱帯の地方で採れるんだっけ。
「でも、これってどこの国も禁止指定の薬物として扱われているはずよ」
そうだ。依存性が強く、摂取することによって害が認められる場合、国家としてその薬物の使用を禁止する場合がある。
アヘンは典型的なそれだ。依存性が強く使用したひとは圧倒的な快楽により、私財を投げ売ってでも入手を求める人が急増。
無気力な人間を数えきれないほど生み、廃人になってしまう人間もいた。そして、そのせいで国が回らなくなり、各国政府は次々とアヘンを使用禁止にし、国内からたたき出したのだった。
「国を破壊する薬物といった所ね」
「調べてるけど──今ある国の中で、使用禁止の法律があるのは6割ほど──」
「あくまで法律になっているだけで、不正なく取り締まってるかどうかは別問題ですよね」
「よくわかってるじゃない」
他国の状況だって、色々な情報網から入手している。まあ、法律を作ったところでそれで解決するならだれも苦労はしないわね。
まあ、役人に汚職は付き物だし、アヘンで手に入れた利益をわいろとして渡して目こぼし手をしてもらっているのだろう。
そして、裏社会で独自の販売網をどこも気づいているのだろう。
「まあ、隠れてやってるんでしょうね。依存性があるみたいだし、
「そうね」
周囲を見る。この建物にいる人たち──ほとんどが床にぐったりと横になり、例のパイプを吸っている。
見た感じ、かなり広がっちゃってる感じね。
「とりあえず、放っておくわけにはかないわ」
「そうね」
何とかしないと。そう考えてタイミングをうかがおうとしたその時。
肋骨が浮き出ている、やせ細ったおじさんが周囲をきょろきょろ見始める。
「なんだ、アヘンを目の当たりにしておかしくなっちまったのか?」
「違う。やはりそうだな」
男の人の表情が真剣なものになる。何か、あったのだろうか。
「俺は──人の気配を探知することが出来るんだが、あの壁の向こうから感じるんだ。人の、それもかなり強い魔力とこっちへの視線が」
「つけられていたのか」
その言葉に、思わず肩がビクンとなった。
しまった、探知系の魔法を使える人がいたなんて。どうすれば──まさかこんなことになるなんて。
しかし、ここまで視線を集めてしまっている以上、どうすることもできない。
「アルル、何とか出来る術式とかない? 音を消して逃げられる術式とか」
「無理よ。ここにいるってバレてるんだもの。無理に逃げて、もし捕まりそうだったら戦って強引にいなくなる……とかならできるけど」
「ううん、それは無理かな。だって、国民だもん」
「同感」
やっぱりそうよね。
いくら法を犯してるからって、国民と戦うことはできない。そしたら、圧政を行っているのと同じだ。
例えばこれが他国から来た人達だったら、私たちは戦う。国民の命を守るのは私たちの役目だから──彼らが平和に暮らせるように、私たちはいるわけだから。でも、国民にここで手を挙げてしまったら、それは弾圧と変わらない。
抵抗をあきらめ、私たちは手を上げ立ち上がった。無表情で、クリークたちを見る。
「一応言っておくけど、全部聞いていたわ」
「で、どうする? 俺たちを捕らえるのか?」
自信満々に、クリークが言う。やはり、こうしたことをしているだけあって、こんな状況になることを予感していたのだろうか。戦うなら、容赦はしない。けど──。
「出来たら、とっくにやっているわ」
「なんだよ。こんなとこまできて、証拠まで掴んでずいぶん甘いんだな」
「捕まえてことが収まるならとっくにやってるわよ。それだと、話が『ここにいる奴が悪い』で終わっちゃうのよ」
「アルルの言うとおりです。確かに裁きは受けてもらいますが──ここで騒いだら胴元はあなたたちをトカゲのしっぽのように切り捨てるでしょう。それでは、何の意味もありません」
クリークだけじゃない、アヘンを使用していた彼らだって、口封じを理由に消されると思う。
こういった裏組織というのは、常に疑心暗鬼になり、少しでも自分の身が危ないと思ったらたとえ味方だろうと消す。今までもそういうケースは十分あった。
その胴元を捕まえないとなんの解決にもならない。
「だから、まずは色々とさ、話とか聞かせもらえないかな」
ミシェウが、優しく微笑んで話しかける。
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