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2章

負の力

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「お前たちはどうだ──正義を歌いながら、俺たちから搾取し続けた富で──どれだけの贅沢をしてきた? 関心を持ったことはあるか? その経験の差を、今から教え込んでやる!」

 対抗しきれない。さっきまでとはまるでパワーが違う。攻撃一つ一つに力がこもっている。
 負の力とでもいうのだろうか。

 吹き飛んだ体はそのまま後ろにある小屋に突っ込んでいった。強く激突した衝撃で建物は倒壊。ガラガラとテントや中にあった物が崩れる。

 瓦礫の中に、私とミシェウ。光が届かない、真っ暗で狭い空間で話しかける。

「大丈夫?」

「まあ、何とか」

 ミシェウもだいぶ消耗している。でも、突破口が見つからない。どうすればいい?
 そんなことを考えていると、ミシェウが話しかけてくる。

「ねぇ、今度は私が前に立っていい?」

「え──」

 思わず言葉を失う。当然だ。ミシェウの占星術は──力をため込んだり、詠唱する場面が多く接近戦には向かない。一応最低限の身のこなしは出来るけど。迷っていると、ミシェウは自信を持った笑みで親指を立てる。

「キケンだけど、色々試してみる。そうすれば、何かわかるかもしれない」

「そうね」

 コクリとうなづいた。そうだ。逃げてばかりいたら何も始まらない。ここで勇気を出せば、何か得るものがあるかもしれない。


 結局は、戦うことでしか道は開けない。
 そして、剣を一振り。がれきをすっ飛ばして、2人でヴァシリーと対面。
 私が後方で援護し、ミシェウが前線で攻撃を振るう。

「今度はお前か、結果は変わらないだろがな!」

「それは、やってみないとわからないかな」


 そして、私たちの戦いが始まった。ミシェウは様々な占星術を解き放つ。

 さっきのように、まずは雷。

「おいおい学習しろよ──もう忘れちまったのか?」

 結果はさっきと一緒。全く効かない。やはり──こいつに電気系統は効かないみたい。
 それから、ヴァシリーが接近してピンチになると、私が急接近してミシェウへの攻撃を防ぐ。

 私が引きながらも、何とか攻撃を受けている間、ミシェウが詠唱し攻撃を放つ。

「天候・大嵐──テンペスト・シムルグ!」


 急いでヴァシリーから距離を取った。
 次は暴風──まるで竜巻のような暴風が、ヴァシリーに突っ込んでいく。
 そこまで効いてない。多少体から砂が飛んでいったように見えるが、ダメージは受けていない。

 これでもダメなのか、そして再び接近戦。

 ピンチになったら私が援護。かなり痛いけど──まだ大丈夫。ミシェウと一緒だから、不安なんてない。

「天候は、雨。レイニー・インパクト」

 次は水鉄砲──ミシェウも大技を連発して魔力的にきついのかさっきよりも大分威力が落ちてる。
 ミシェウの魔力が限界でない以上、どこかで有効打を見つけないと。

 慌ててかわそうとするヴァシリーに突っ込んでいく。

「何?」


 私は同士討ちになる危険を承知で援護。ミシェウの攻撃が来るギリギリまでヴァシリーに攻撃を続ける。
 そして、背中にミシェウの攻撃を感じて──すぐに右に飛び込んだ。

「しまった!」

 飛び込みながら、ヴァシリーを見る。

 ヴァシリーはかなり動揺していた様子。これは、食らいたくないという事なのだろうか?

 そしてかわしきれなかったのか、今までみたいに無力化できなかったのか方にはかすり傷。初めてだ、ヴァシリーに肉体的ダメージを与えたのは。

「やってくれたなぁ……この礼はたっぷりと返してやるよ」

 すぐにこっちに銃口を向けてきた。銃口からは今までにないくらいに大きな魔力の塊。相当感情的になっている。

「ますい!」

 慌てて障壁を張る。ミシェウも対抗しようとさっきのような術式を繰り出す。

「天候は霙。アイス・ディザスターストーム」

 今度は、大きな氷の塊。それがヴァシリーへと向かっていく。衝突するヴァシリーの攻撃とミシェウの攻撃。衝突するなりミシェウの攻撃は消滅。

 ヴァシリーの巨大な魔力の塊はそのまま私達へ。
 私が急いで障壁を張るものの、全く歯が立たない。一瞬で崩壊。攻撃は私達に直撃した。


 ヴァシリーの攻撃が爆発を起こし、私たちの肉体が大きく吹き飛ぶ。

「これがお前たちへの、俺の復讐だ。むかつくんだよぉ貴様らのような育ちがいいやつを目の当たりにすると」

 そして、戦闘で崩壊したゲルに体が直撃。さっきの繰り返しだ。私達の身体はがれきに埋まってしまった。

 倒れこんだ身体。舞い上がった土埃で大きく咳き込む。隣には同じく吹き飛ばされたミシェウ。

「ゴホゴホ──水、効いたね。いけるかもしれない」

 ミシェウの言葉に、はっとなる。

 そうだ──水。最後──水をかぶった方の部分。ヴァシリーは攻撃を受け流せなかった。そして、明らかに動揺を隠せていない。その後の攻撃的なあの態度。

「水をかぶると、砂が固まって攻撃を受け流せないんじゃないかな?」

「そうか」


 水に触れると攻撃を受けてしまう。
 だから感情的になったのか。そこをつけば、勝機があるかもしれない。でも──。

 深呼吸して、自分の魔力を感じる。かなり使い切ってしまっていて、さっきまでのような激しい戦いは出来そうにない。

「私──大きい術式あと1回は使えるよ」

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