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2章

繊細

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 どこからか誰かの鳴き声が聞こえる。シャマシュも含めて、みんな口論になり誰も聞いていない。でも、私ならわかる。誰なのか耳を澄まして……ああ、彼女か。

 メンデス。繊細な子だもんね。両手で目をふさいで、

「もう、国民たちが傷つく姿を見たくないのです」

 うつむいて、両手で顔を覆ってしまった。
 悲しさのあまり涙を流しているのがわかる。ああ……。

「とりあえず、この場を去ろう」

 カイセドが、メンデスの両肩をもってそっと話しかける。それが正解だ。ちょっと、繊細なところがあるのよねメンデス。

 しかし──中断するわけにはいかない。敵が来ている以上、戦う以外の選択肢はない。
 かわいそうだけど、ここはメンデスに耐えてもらうしかない。あとで、ちゃんとフォローしてあげなきゃ。相当メンタルにダメージを受けてると思う。


 よしよし。優しく泣いているメンデスの背中を優しくなでなで。震えていた背中が、そこか落ち着きを取り戻したように思える。

「あ、ありがとうございます」

「大丈夫だよ、もう少しだから。あんまり辛かったら部屋から出ていいからね」

 私がそういって笑顔を作り親指を立てる。しかしメンデスは真剣な表情になり顔を横に振った。

「大丈夫です。最後まで、ここにいます。彼に添い遂げると決めたのですから」


 意思、あるじゃん。ちょっとだけ見直しちゃった。繊細だけど、覚悟が全くないわけじゃないのね。

「わかった、頑張ろうね」

「はい」

 そして、視線をシャマシュに向けた。シャマシュは、一度こっちを見るとコクリと頷いて立ち上がった。

「とりあえずホーネルカー。今回の作戦の最大に責任はあなたにあります。参謀本部からの追放を命じます」

「私も同感だ。あなたに最高責任者の権限を与えた以上、その最大の責任はあなたにある。よって──私の命令により、あなたに処分を行います」

 カイセドもそれに同調してしゃべりだす。ようやく立ち上がってくれた。

「わかったよ、辞任すればいんだろすれば。もうこんなところに来ねぇよ」

 どんと机を蹴っ飛ばして、立ち上がってからこの場を去って行ってしまった。騒然とする場、席についている人たちはみんな黙って彼が立ち去る背中を見ていた。

「これで、あいつは終わりね」

「まあね」


 シャマシュが、紅茶を一口飲んで心を落ち着かせてカイセドを向く。

「カイセド、代わりの人物用意できる?」

「まあ、務まりそうな器の人物ならいるかもしれない。探ってみる」

 国境付近の警備は今も行っているし、小競り合いもないわけじゃない。
 戦いはこれからも続く。早く戦線に影響が出ないように後継者を探さないと。そう考えていると、一人の騎士の姿をした人が手を挙げた。

「待ってください」

 その言葉に視線がそっちを向く。茶髪で髪が長い男の人。ハインだっけ、この間の戦いに参加して、少しだけだけどしゃべったことがある。シャマシュが彼の名前を呼ぶと、ハインが話始めた。

「今回もそうなんですが、相手がこっちの動きをどうも読まれているようなんです。動きを不自然に先回りされたり、こっちの動きを知っているとしか思えないように先回りや奇襲を受けたり」

「ああ、それ俺も思った」

「噂で聞いたことがある。報酬を与えるから、この国の情報を欲しがっているって勧誘している奴がいるって」

「マジかよ……」

 彼の言葉に、周囲に動揺が走る。初めて知ったもん。

「内通者がいるってことね」

 シャマシュの言葉に、この場がざわざわとなる。だとしたら、それを探さないといけないわね。
 目先の利益のために敵に力を貸す奴ってのは、今に始まったことじゃないから驚かないけど。また面倒なことになりそうね。

「すいません、話を戻して欲しいのですが──」

「ああそうだったわね。話してどうぞ」

 これは、ラングーンでの戦いの被害の大きさ。そしてこれからについて話す会議。犯人捜しは、ここでするよりも2人で秘密裏に行った方がいいとおもう。

「ええと情報のご提供、ありがとうございました」

「ありがとねーー」

 とりあえず、礼を言う。ここで言い切ったということはそれなりの裏を取ったってことよね。
 それなら、まずやらなきゃいけないのはみんなに協力を仰ぐこと。

「皆さん、おかしい動きとかあったらどんどん教えて。じゃあ話を戻しましょ」


 そして、話は今後の軍の課題へと移る。
 被害の大きさで、あまり攻勢に出られない。国境付近やそのあたりの山々に守備を固めたいという意見が出てくる。

 それも、一人ではなく数人の貴族の人。それだけ冒険者の消耗が激しくて人数が必要となる攻勢が難しいということだえ追う。

「わかった。防壁や砦が作れるように予算編成を組む。予算や周囲への根回しは任せておけ」

「カイセド様、ありがとうございます」

 他に案があるわけでもなく、私たちは専門家でもない。シャマシュも何も言わずコクリと頷いた。

「ありがとうございます」



 それからも、これからの戦いに備えての話し合いは続いた。食料の輸送、商社との遠方との生活の取引の確認。

 負傷者が出た時のための医療関係者の供給状況。
 かなり具体的な内容ばかり。戦いが迫ってるというのが本当にわかる。

 そして、昼前になって会議が終わった。シャマシュは大分疲れたのか「う~~」と背伸びをしている。
 いつものシャマシュっぽくなくて、抜けてる感じでかわいい。

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