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2章

メンデスと魔王様

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「あ、私も私も」

 私の提案に、ミシェウもノリノリだ。あいつら、カイセドやその側近たちが戦場に行ってないのをいいことに起こったことを自分の都合のいいように伝えてしまう恐れがある。

 だから、私たちがしっかりとくぎを刺していかなくちゃ。やりたいようには、やらせない。カイセドは少し腕を組んで考えてから言葉を返した。

「わかった。大丈夫だとは思う。参加を認めよう」

 アイツら──責任転換なんてさせない。無茶苦茶な作戦の落とし前は、きっちりつけさせてやる!

 自然と、強くこぶしを握った。
 まだ会議には時間がある。私とミシェウは、再びベランダに出てメンデスの隣へ。
 彼女のことについては、まだわからないことが多い。メンデスのことを知るためにも、彼女に信頼してもらうためにも、色々会話した方がいい。

「メンデス」

「あ……何でしょうか?」

「ずっと景色を眺めているようですが、何か考えているのですか?」

 メンデスは私のことをじっと見て、それから目をきょろきょろとさせる。何か言いづらいことなのだろうか。それとも怯えているのだろうか。
 すると、ミシェウがメンデスの右隣に移動して、ぎゅっと手をつないだ。いいなぁ……。

 そして、ニコッと笑みを浮かべて話しかける。

「メンデスのこと、私もっと知りたい。友達になりたい」

「あ……」

 メンデス、今度はじっとミシェウの方を見つめる。目をぱちくりさせてから、再び王都の街並みに視線を向けて、言葉を返した。

「今回の戦いの被害を聞いて、思い出していました。魔王様──どうしてこのようなことを……あのときは、強い気持ちを感じていましたのに」

「魔王様を、知っているのですか?」

 その言葉に、私もミシェウも思わずそっちを向いた。明らかに、魔王様を知っているような物言い。何かあったのかしら。
 メンデスは驚いて目を丸くしながらも私達から目をそらして言葉を返した。

「あ、あ、はい。一度──建国祭への来客として、呼ばれたことがあるんです」

「ああ、隣国だからね」

 そうだったわ。メンデスのコンラート家は魔王軍と国境を接する領地。であれば交易などでつながりも生まれてくるわけで、交流のために相手の領地の人と会ったりイベントに参加したりする場合はある。

 それ自体は他の貴族もやっているし問題はない。ただ、彼女の家と魔王軍が地理的に近く、商業や文化的につながりがあるというのは頭に入れておいた方がいいわね。

「ちなみに、どんな雰囲気の人だったの?」

「そ、その…… どこか、使命感を持っていてそのためにすべてをささげているかのような雰囲気の人でした」


 そう。確かに魔王様ならばそうだろう。大昔、人間たちと魔族との世界を分けた戦い。
 世界大戦ともいえるくらい、世界中で戦いが行われ多数の犠牲者を出した。

 そこで死線を潜り抜けた後、崩壊寸前だった魔王軍を立て直し復興させたのが今も魔王様だ。死線を潜り抜けた分、立て直しに掛ける感情は誰にも負けないものがあるのだろうか。

「あと、魔王様にワインを注いだ事が一度あるんですが──」

「なんかあったの?」

「何でもいいです。人柄とか、どんな雰囲気だったとか、周囲に人は集まっているのかとか──教えていただければ幸いです」

 相手方の魔王のことは──存在自体は聞いたことはあるが、それだけだ。人柄、姿。思考の癖、何でも効けることは聞いておこう。

「『ありがとう』といってワインを受け取ると、私から背を向いて誰とも話すことはなく、ただワインを飲み干しました」

「どんな素振りをしていた──とかわかりますか?」

「よく遠くの空を見ていました。ただ、あまり周囲とは、話していなかったですね」

 よく言えば孤高の存在──。
 何か、考え事でもしていたのだろうか。

「ちなみに、誰と話していたか──とかはわかりましたか?」

「話していたのは、鉱山経営の人や食料などを運搬している商人。それから、私の国では名の知れた冒険者の人ですかね。逆に、私たち以外の下級貴族や官僚の人の話はあまり積極的に聞こうとはしてなかったように思います。あとは一緒に同伴していた幹部の──ガタノゾーアやゾイガー、あと奥様のノーデン様と話したりしていました」

「そう──」

 鉱山に商人。生活や資源の物資に興味があるということか。逆に下級貴族や役人の人と話そうとしない──のは何か理由があるのかな?

「多分だけど、政治の話をするなら統治者じゃないと意味がないってことじゃないかしら。あっちの人たちって、力や権力がすべてみたいな感じでしょ」

「なるほどね」

 ミシェウの言うことも一理ある。魔王様の世界観だと、国同士の交渉はコンラート家のような統治者と。欲しいものを得るときはその関係者にしか興味なさそう。内政の駆け引きとか、力関係を考慮した緻密な外交とかに理解が薄いのかもしれないわね。

 まあ、魔王様だって感情というものはある。もっと接したり直接会って色々と彼のことを知ったほうがいいわね。

「シャマシュ、ミシェウ。そろそろ時間だ」

「意外と早いわね。わかったわ」

 いずれにせよ、もっと彼らのことを知らなきゃ。
 私はメンデスの両手をぎゅっと握って言った。

「メンデス。今日はありがとう、とても参考になったわ」

「こちらこそ。あの……ありがとうございました。応援してます、頑張ってください」

 メンデスは、そっと手を握り返して優しい笑みを浮かべてきた。きっと、メンデスは根はやさしい人なのだろう。もっと平和な時代に合えたら、善政を築いたりしていただろう。
 また、彼女とは色々話したいものだ。

 そして、私達はカイセドと一緒に軍部との話の場へ。何が待っているのだろうか


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