暴力系幼馴染と異世界に転生したら、幼馴染が魔王軍に裏切るとか言ったから、そのクソみたいな面を思いっきりぶん殴った

静内燕

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第25話 メルアのためにも、かならず勝つ

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 俺がそんな覚悟を決めたその時──。

 なんだ? この力は。
 優しく、暖かい何かに包まれているようなこの力。

 ほとんど尽きていたはず魔力。その力が、みなぎってくるのだ。体が白く光っているのがわかる。

 メルアの方向を振り返る。

 そこには、メルアが手をこっちに向けている姿があった。手が震え、力を振り絞っているのがわかる。

「この力、メルアのなのか?」

 メルアはみずほらしい姿で質問に答えた。

「う、うん。そうだよ。聖なる置き土産(セイント・スフェニア)っていう、今の私の魔力を他の人に与える術式なの。これでかなりパワーアップできると思う」

「パ、パワーアップ?」

「うん。わたしの最後の力。受け取ってよね」

 メルアは息を荒げ、ボロボロの姿で俺に語り掛ける。ありがとうメルア。お前の想い、絶対に無駄にはしない!

 そして俺は再び視線をヒュドラに向け、剣の切っ先を彼に向けた。

「ほう、それだけボロボロなのに、まだ戦おうってのかい」

「当たり前だ。俺は、村も、教会も、メルアもみんな守るって決めたんだ!」

 そして俺は再びヒュドラに向かって立ち向かう。

 ヒュドラに向かって走るときの速度、そして踏み込むときの力、剣を振り下ろした時の威力。
 パワーも、速さもまるで違う。これがメルアの力、普段の3倍はあるような気がする。

 ヒュドラもさすがにそんな桁違いの威力は計算外だったようで、攻撃を受けたものの、力を受けきれず、のけぞる体制になる。 

 ようやく訪れた反撃のチャンス。一気に踏み込み、連続攻撃。速さとパワーを生かし、反撃をさせないくらいの激しい攻撃だ。

「兄ちゃんよぉ。やるじゃねぇか」

 ヒュドラはたまらずいったん下がり、体勢を立て直す。
 恐らく流れが悪いから一回立て直そうとしたのだろう。それがあだになるとも知らずにな。

 俺は剣に魔力を込め、誰もいない空中で横一線に振り払う。するとその剣から、白い光をした巨大な光線を繰り出す。それもヒュドラではなく、ゾドムへだ。

「マジかよ!」

 その攻撃はソドムに直撃。彼の前には障壁があったものの、それを破壊して彼にぶち当てた。さすがメルアの力だ。

 ゾドムは攻撃を直撃した後、身体が数十メートルほど吹き飛び、意識を消失させる。そのチャンスを周囲の冒険者は見逃さず、彼を縄で縛りつける。とりあえず一人は片付いた。

 これで残ったのはヒュドラだけだ。

「さあ、これで残りは貴様1人だ。逃げるなら今のうちだぜ」

「ほう、まだこんな手を隠してたとはな。素晴らしいの一言だ」

 ヒュドラに逃げる様子はない。最後まで戦うつもりなのだろう。それとも、まだ何か手を残しているのだろうか。

「では俺も、とっておきの手を使わせてもらうぜ!」

 やはり奥の手を隠していたか。すると、ヒュドラの体が灰色に強く光始める。まずい。こいつも身体強化ができるのか?

 ただでさえ強かったこいつの身体強化。どれくらいの強さなのだろうか。まずいぞ? どう対抗すれば──。

 そうヒュドラの攻撃を警戒していると、奴は予想もしない行動をとった。

 スッ──。

「消えた!?」

 俺は思わず叫ぶ。その言葉通り、ヒュドラは自信を纏っている光を強くさせると、一瞬でその姿を消させたのだ。

 俺は奴がどこに行ったのか、周囲をきょろきょろするが、その姿をと絶えることができない。

「どこだ? どこにいる」

 俺が迷っているのを見て、メルアは動揺したのか、心配したのか、俺に声をかけてくる。

「信一君。頑張って……」


 涙目で、とても心配そうな表情。
 メルア、彼女が心から俺を応援してくれているのがわかる。絶対負け──。
 って心?そういう事か、その手があった。
 目で追うから迷うんだ。目で追った所で、理解できるはずがない。

 アイツの心理を考えればいいんだ。ヒュドラならば、この状況でなにをやってくるか、どんな攻撃を仕掛けてくるか。


 こういう、悪党がやることは、大体理解できる。姿が見えないなら、正面からわざわざ戦う必要はない。

 勝つために寝首をかいたり、裏切り者を作ったりするようなやつの心理は大体わかる。

(ここだ──)

 俺は横に1メートルほど移動。

「何っ!」

 後方から声が聞こえだす。そして俺がいた場所には、振り下ろした攻撃を空振りしたヒュドラの姿。
 そう、後ろから奇襲をかけてくるだろうという読み。ズバリ大当たりだ。

 そして、無防備となったヒュドラに、俺はメルアからもらった魔力をすべて込める。

「ありがとな、メルア。これで決着だ」

 俺はその力でヒュドラの体を一刀両断に切り裂いた。

 ズバァァァァァァァァァァァァァァァ!

 ヒュドラの体は俺の振り下ろした攻撃で真っ二つに切り裂かれる。これで俺の勝ちだ。そう確信したその時──。

「おいあれ、身体がくっついてるぞ!」

 周囲にいた冒険者の一人が叫ぶ。

 その言葉通り、何と分断したはずの体が真黒に光り始め再接合したのだ。
 再生までするのかよ。さすがは魔王軍幹部。

「けど、魔力は尽きてる」

 ──が、メルアの言葉も間違ってはいない。先ほどまであったヒュドラの体から激しく出ていた魔力のオーラ。それが消えていくのがわかる。
 恐らく再生術で、その魔力を消費してしまっているのだろう。

 そして前線で戦っていたヒュドラが戦闘不能ならば、後方のゾドムも満足に戦えない。
 ヒュドラがゆっくりと声を上げる。

「やるねえお2人さん。まさか2対2で負けるなんてよ。完敗だった」

「それで? また勝負に来るのか?」

「ねえよ。勝てない戦はしない性分なんでね。もう、こっちを攻め落とすなんて野暮なことはしねぇよ。じゃあな」

 そんな言葉を発した瞬間、ヒュドラとゾドムの肉体が消える。
 これで、ひとまずこの村に平和が戻った。
 周囲の冒険者も、ほっとしているのがわかる。

「信一君。何とか、勝ったね」
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