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最終章
第91話 サナからの、お願い
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【アグナム視点に戻る】
サナは服のすそであふれ出た涙をぬぐい、乱れた髪を整えて深呼吸をした。
そして自身の呼吸を整えると──。
「ありがとう」
笑顔でそう言って、立ち上がる。
「アグナムちゃん。お願いがあるんだけどいい?」
「どんなこと?」
「街の人たちに、頼みに行きたいの。私たちの街を守るために、力を貸してほしいって」
みんなで街を守るか。サナらしい答えの出し方だなと思う。当然、返す答えは一つだ。
「もちろん。協力するよ、一緒に行こう」
そして俺たちは避難所へと足を運ぶ。
避難所への道中、街はホロウによってたくさんの建物が倒壊していた。
それでも街の人たちは懸命に破壊された街を修復しようとしていた。
「みんな、この街のために精一杯頑張っているね、サナ」
「うん。わたしたちも、負けていられないね」
そしてサナは、ユピテルとの別れた時の話を思い出す。
「なんか、思い出しちゃったの。ユピテルちゃんと別れた時のこと」
それは数年前のことだった。サナとユピテルの魔法少女の才能がわかった時のこと。突然ユピテルが街を出ていくと宣言したときの音だ。
街の外へ向かって歩き出すユピテルをサナが止めようとする。
「待ってユピテルちゃん。この街のために、一緒に戦おうよ」
「断る。俺にこんな貧しい街は似合わない。大分資金はたまった。ここを出ても困らないくらいの資金をな。お前だって、俺ほどではなくても、それなりに魔法少女としての才能がある。それを使えば、こんな街でこんなみじめな生活を強いられる必要なんてない」
「それでも私は、みんなといたこの街に居たい。育ててくれたみんなと、一緒に戦いたい」
「──好きにしろ」
そしてユピテルは街を出ていった。
そしてサナも、事情があって結局は離れることになってしまった。 それでも必要な時は街へ行ったり、援助をしたりしていた。
それ以来、サナは街のためにと一人で抱え込み、戦うようになった。
時には無茶をして大きな傷を負ってしまうこともあった。
そんな時、突然助けてくれたのがユピテルだった。
サナはその場に倒れこみながらユピテルに視線を置く。
「サナ。お前はいつもそうだったな。勝てない相手だとわかっても引かない。最後まで一人で戦おうとする」
「でも、私が戦わなかったら街が──」
「サナがいなくたって、俺が最後まで戦う。俺は、街を嫌っているわけではない。ピンチになったら駆けつけるさ。お前は何でも一人で抱えこむ癖がある。もっと、頼らなきゃいけないときは周囲に頼っていい」
別に、ラグナに乗り越えるよう強要されたからといって、言いなりになって乗り越える必要などない。
力を手に入れるのは、敵を打ち破るための手段であって目的ではない。
魔法少女の力がみんな同じではないように、試練を乗り越える方法は、人それぞれだ。
(今の苦痛で、私わかった。私一人じゃ、絶対に乗り切れない。私には、私のやり方がある)
「アグナムちゃん、ありがとう」
そうだ。これは、俺たち魔法少女の力だけではできない。
この街の人、全員の力を合わせて初めてできるもの。
それで、協力したからといって必ずしも成功するとは限らない。
そんな厳しい作戦。
「わかってる。この作戦が無謀なのも。それでも、今の私達には、これしかないでしょ?」
「それは、そうだね」
しかし、他にあのホロウを倒せる手段がないのも事実だ。それができなければ、この街は廃墟となり、街に住んでいた人は住処を失い難民となってしまうだろう。
そんなのは、俺だっていやだし、サナはもっと嫌だろう。
だから勝ち筋が薄い勝負だったとしても、他に手がない今それに賭けるしかないんだ。
けれど、それをサナ一人に背負わせるなんて嫌だ。サナが背負うなら、俺も協力したい。
「街の人たちに、協力頼むんでしょ。俺も手伝うよ」
「──あ、ありがとう」
サナは照れながら返事をする。今までのサナだったら、ここで遠慮してしまい一人ですべてを背負ってしまっただろう。
けれど、今は違う。困ったときに周囲に頼るということができている。
それが、俺にとってはとても嬉しい。
そんなことを考えながら避難所に移動する
半壊した古い建物。
そこにいるのは、逃げ惑い何とかここに逃げ延びた避難民の人たちだ。
みんなボロボロでよれよれの服を着た、いかにも貧しそうな人たちばかりだ。
人種も普通の人間から毛耳をつけた亜人にエルフの人々など、いろいろな人たちがいる。
みんな絶望感が漂った表情をしていた。
体が震え、ある者は心配そうな表情で身を寄せ合っている。強大な敵と出会い、絶望の雰囲気がこの場を包む。
自分たちは助かるのか、どうなってしまうのか、不安いっぱいな表情を浮かべ、ただ時を過ごしているのであった。
サナが一歩前に出る。その表情に、さっきまでのような絶望に染まったような雰囲気や、自身の無さは全くない。
自分ならあの試練を乗り越えられるという、自信に満ちた表情だ。
そしてそんな表情のまま避難所にいる人たちに話しかける。
「皆さんに、私からお願いがあります」
その声に、この場所にいる人たちがサナの方向を向く。
そして自分の視線の先にいる、たくさんの人たちに視線を向けて、言った。
「ここにいる皆さんに、お願いがあります」
それは、自分の周りだけじゃなく。ここにいるすべての人たちに聞こえるような、自信に満ちた強気な声で──。
「私に、力をください。一緒に、戦ってほしいんです」
サナは服のすそであふれ出た涙をぬぐい、乱れた髪を整えて深呼吸をした。
そして自身の呼吸を整えると──。
「ありがとう」
笑顔でそう言って、立ち上がる。
「アグナムちゃん。お願いがあるんだけどいい?」
「どんなこと?」
「街の人たちに、頼みに行きたいの。私たちの街を守るために、力を貸してほしいって」
みんなで街を守るか。サナらしい答えの出し方だなと思う。当然、返す答えは一つだ。
「もちろん。協力するよ、一緒に行こう」
そして俺たちは避難所へと足を運ぶ。
避難所への道中、街はホロウによってたくさんの建物が倒壊していた。
それでも街の人たちは懸命に破壊された街を修復しようとしていた。
「みんな、この街のために精一杯頑張っているね、サナ」
「うん。わたしたちも、負けていられないね」
そしてサナは、ユピテルとの別れた時の話を思い出す。
「なんか、思い出しちゃったの。ユピテルちゃんと別れた時のこと」
それは数年前のことだった。サナとユピテルの魔法少女の才能がわかった時のこと。突然ユピテルが街を出ていくと宣言したときの音だ。
街の外へ向かって歩き出すユピテルをサナが止めようとする。
「待ってユピテルちゃん。この街のために、一緒に戦おうよ」
「断る。俺にこんな貧しい街は似合わない。大分資金はたまった。ここを出ても困らないくらいの資金をな。お前だって、俺ほどではなくても、それなりに魔法少女としての才能がある。それを使えば、こんな街でこんなみじめな生活を強いられる必要なんてない」
「それでも私は、みんなといたこの街に居たい。育ててくれたみんなと、一緒に戦いたい」
「──好きにしろ」
そしてユピテルは街を出ていった。
そしてサナも、事情があって結局は離れることになってしまった。 それでも必要な時は街へ行ったり、援助をしたりしていた。
それ以来、サナは街のためにと一人で抱え込み、戦うようになった。
時には無茶をして大きな傷を負ってしまうこともあった。
そんな時、突然助けてくれたのがユピテルだった。
サナはその場に倒れこみながらユピテルに視線を置く。
「サナ。お前はいつもそうだったな。勝てない相手だとわかっても引かない。最後まで一人で戦おうとする」
「でも、私が戦わなかったら街が──」
「サナがいなくたって、俺が最後まで戦う。俺は、街を嫌っているわけではない。ピンチになったら駆けつけるさ。お前は何でも一人で抱えこむ癖がある。もっと、頼らなきゃいけないときは周囲に頼っていい」
別に、ラグナに乗り越えるよう強要されたからといって、言いなりになって乗り越える必要などない。
力を手に入れるのは、敵を打ち破るための手段であって目的ではない。
魔法少女の力がみんな同じではないように、試練を乗り越える方法は、人それぞれだ。
(今の苦痛で、私わかった。私一人じゃ、絶対に乗り切れない。私には、私のやり方がある)
「アグナムちゃん、ありがとう」
そうだ。これは、俺たち魔法少女の力だけではできない。
この街の人、全員の力を合わせて初めてできるもの。
それで、協力したからといって必ずしも成功するとは限らない。
そんな厳しい作戦。
「わかってる。この作戦が無謀なのも。それでも、今の私達には、これしかないでしょ?」
「それは、そうだね」
しかし、他にあのホロウを倒せる手段がないのも事実だ。それができなければ、この街は廃墟となり、街に住んでいた人は住処を失い難民となってしまうだろう。
そんなのは、俺だっていやだし、サナはもっと嫌だろう。
だから勝ち筋が薄い勝負だったとしても、他に手がない今それに賭けるしかないんだ。
けれど、それをサナ一人に背負わせるなんて嫌だ。サナが背負うなら、俺も協力したい。
「街の人たちに、協力頼むんでしょ。俺も手伝うよ」
「──あ、ありがとう」
サナは照れながら返事をする。今までのサナだったら、ここで遠慮してしまい一人ですべてを背負ってしまっただろう。
けれど、今は違う。困ったときに周囲に頼るということができている。
それが、俺にとってはとても嬉しい。
そんなことを考えながら避難所に移動する
半壊した古い建物。
そこにいるのは、逃げ惑い何とかここに逃げ延びた避難民の人たちだ。
みんなボロボロでよれよれの服を着た、いかにも貧しそうな人たちばかりだ。
人種も普通の人間から毛耳をつけた亜人にエルフの人々など、いろいろな人たちがいる。
みんな絶望感が漂った表情をしていた。
体が震え、ある者は心配そうな表情で身を寄せ合っている。強大な敵と出会い、絶望の雰囲気がこの場を包む。
自分たちは助かるのか、どうなってしまうのか、不安いっぱいな表情を浮かべ、ただ時を過ごしているのであった。
サナが一歩前に出る。その表情に、さっきまでのような絶望に染まったような雰囲気や、自身の無さは全くない。
自分ならあの試練を乗り越えられるという、自信に満ちた表情だ。
そしてそんな表情のまま避難所にいる人たちに話しかける。
「皆さんに、私からお願いがあります」
その声に、この場所にいる人たちがサナの方向を向く。
そして自分の視線の先にいる、たくさんの人たちに視線を向けて、言った。
「ここにいる皆さんに、お願いがあります」
それは、自分の周りだけじゃなく。ここにいるすべての人たちに聞こえるような、自信に満ちた強気な声で──。
「私に、力をください。一緒に、戦ってほしいんです」
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