TS! 俺、女の子になってるっ? 魔法少女になった俺は、最強になって百合展開を楽しむようです

静内燕

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最終章

第90話 サナの気付き

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 この時点で、サナの心はすでに折れていた。
 表情を失い、レイプ目と呼ばれる、絶望に染まりただ前を向いているだけの表情。

 すでに、運命に抗える力を失っていた。
 最初の方はサナもなんとか運命を乗り越えようと、強い意志を持って立ち向かおうとしていた。

 しかし、何度も殺される激痛を体験していくうちに、その意思に陰りが見られたのだ。
 そしてそれから数回すると、ただその痛みにもがき苦しむだけになっていった。

 全身を包む激しい苦痛。そののち、身体を動かすことができなくなり、石の様に重たくなる。
 それから、あれだけ激しい痛みがなくなり、意識が深い底に沈んでいく。

 そう、死の感覚だ。
 そしてストンと意識がなくなった瞬間。再びサナは意識を取り戻す。

 その感覚にサナは怖気が走り、全身から汗が噴き出る。
 それでもサナはふらつきながら、戦う意思をやめない。



 再び、死の感覚がサナを襲う──。

 これは、サナの生存本能のようなもの。自信の命を守るため、彼女の体自身が発している警告のようなものだ。
 これ以上踏み込んだら、死ぬぞという──。
 サナが試練を乗り越えるのをやめない限り、この痛みは、警告は、決して泊まることがない。


「私、ダメなのかな?」

 ぽつりと、彼女がささやいた。
 サナの心の中に、あきらめの文字がよぎっているのがわかる。
 いつも明るくて、前向きな性格の彼女が、こんな苦しそうで、暗い表情をしているのは俺は見たことがない。



 もう、気力も体力も、限界に近い。
 普通の人間なら、とっくに本能が叫び、やめているだろう。

 意志が強いサナだからこそ、ここまでできたのだ。

 けれど、これ以上試練を乗り越えようとすれば、いくら彼女でも精神に異常をきたしてしまう。

 そんな心身が消耗したサナは、感じ始める。

(私、アグナムちゃんやユピテルちゃんみたいには、なれないのかな──)

 彼女の実力は、魔法少女の中では強い方といった感じで、俺やユピテルとはどうしても強さに差を感じてしまう。


 この試練を乗り越えない限り、それが覆ることはないだろう。


 それくらい、埋められない差がある。

 だからこそ感じてしまうのだ。
 自分は一生、俺やユピテルの様に離れないのかと──。

 そんなことを考えた時、ドアをノックする音が聞こえ、ドアが開く。

 キィィィィィィ──。

「アグナムちゃん、ユピテルちゃん。どうして──」

「あまりに心配だから。ここに来たのよ」

 俺とレテフ、リヒレだ。
 リヒレがお盆においてある水をそっとサナに手渡しする。

「よかったら、水、飲んで」

「あ、ありがとうリヒレちゃん……」

 サナはゆっくりとお盆に乗っているコップを手に取り、水を飲み始める。

 そのコップを手に取り、水を一口、ゆっくりと口に含む。
 サナはため息を一つつく。良かった。少しだけだが落ち着いたようだ。


 するとふたたび入口の扉が降らく。

 キィィィィィィ──。

「サナちゃん。会いたかった!」

「マイナ。どうしてここにいるの?」

 扉から現れたのはこの前サナと話していた、町に住むエルフの子供、マイナだ。

 マイナだけじゃない。後ろには数人の子供たちがいる。古びた服を着ていることから、サテライト出身だというのはすぐに理解できた。

 そして子供たちは次々に口を開く。

「サナお姉ちゃんに、会いたくて」

「元気を出してほしくて、応援したくて」

「ここまで来ちゃった」

「「「私たち、サナちゃんに喜んでほしくてここに来たの」」」

 その言葉にサナは瞳にうっすらと涙を浮かべ始める。

「み、みんな。ありがとう」

 その言葉に子供たち──。

「そ、そんなことないよ。だって私達サナちゃんにいっぱい優しくしてもらっているもん」

「僕も知ってる。サナちゃんが僕たちのことも、街のこともすごく考えてくれている事」


 子供たちは、仲がよさそうに手をつなぎながら話す。うさ耳をしていたり、人間だったり、エルフだったり。みんな違うけれど、そんなことは気にしていない様子だった。

 それを見て、俺は感じた。
 大人たちはエルフだという理由で石を投げる人がいた。

 しかし、子供たちは別だ。彼らに人種や肌の色で差別したり、石を投げたりするという思考はない。

 時には一緒に遊んで、時には力を合わせて。
 そんな姿を見て思った。子供たちのために、この街を守りたいと──。

「サナお姉ちゃん、私を助けてくれた。だから今度は、私がサナお姉ちゃんを助けたい」



 力を合わせている風景を見て、サナは理解した。今までの、自分の間違いに──。



【サナ視点】

 私は、理解した。一人ですべてを背負おうとして、どれだけ乗り越えようとして、挫折して──。

「私一人でがんばる。だから、ダメだったんだ」

 そしてアグナムや子供たちに励まされて──。

 涙が止まらなかった。
 そして、いまはっきりと理解した。

 自分が、出来ることを。



 私だけでは、カグヤを、ホロウを倒すことなどできない。
 それは、100%確実な真実だ。

 しかし、それは自分一人ならの話だ。

 みんなと一緒なら、運命は越えられる。乗り切ることができる。
 だから、行こう──、勇気を出して。

 それが、サナが出した結論だった。
 そしてその時、自分の体に異変が起きた。

「なにこれ……」

 身体から、何かがあふれ出てくる。

 優しく、暖かい光。すぐにその正体に気が付いた。

「新しい、術式?」

 脳裏に、その言葉が浮かんでくる。
 ユピテルちゃんは、それにすぐに気が付いた。

「聞いた事がある。人は極限状態になると、自身の本当の力が覚醒すると──」

 その言葉に私は脳裏に浮かんだ内容を話し始めた。

「みんなの魔力を束ねることができるって、脳裏に浮かんでくるの」

「なるほどな。お前らしい力だ」

「すごいよサナ。これなら、巨大ホロウに勝てるかもしれない」

 二人とも希望がともったような表情で言葉を返す。
 良かった。私、二人の、街のために力になれるんだ。みんなの魔力を束ねられる力。
 この力で、私はみんなの役に立ちたい!
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