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最終章
第89話 私、絶対乗り越える!
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「ダメだ!」
「ユピテルちゃん。大丈夫だって、私まだ戦える!」
ユピテルの強い言葉にサナはひるまずに反論する。しかし、ユピテルも負けずに言い返した。
「いいや。それでもだめだ。一度体に取りついた恐怖はそう簡単には消えはしない。今は強がってハッタリで言っても、窮地になった時、絶対足を引っ張りまともに戦えなくなる。命がかかったこの戦いに、そんな奴を連れていくわけにはいかない」
突き放した様なユピテルの言葉に、サナは言葉を失ってしまう。
俺は、ユピテルの言葉を否定できなかった。
トラウマというやつだ。
あの時、サナは命の危機を感じていた。
その恐怖は、そう簡単に取り除けるものじゃない。
いくらこの場で、強がっていても、この場で強がって戦場に行って、その時に体が動かなくなってしまっては遅い。
ユピテルなりの優しさだったのだ。
「サナ、お前の戦いという気持ちはよくわかる。悔しいかもしれない。けれど、俺もお前が犬死する姿なんて見たくはない。お前も悔しいかもしれないが、ここは身を引いてくれ──」
ユピテルの言葉に、サナは何も言い返せない。
今の彼女には、サナへの優しさが含まれていたからだ。
そして今度は俺達に話しかける。
「サナがこうなった以上、俺達で戦うしかない。はっきり言って強力な敵だ、今までにないくらい」
「──そうだね」
「私のアグナムの言う通りよ」
ユピテルはサナが戦えないものとして作戦の説明に入る。
「レテフ、お前には後方からの援護を頼む。いいな」
「アグナム」
「──何?」
「正直どれだけの援軍が来るか俺にもわからない。もしかしたら立っているのは俺とお前だけというのもあり得る。それでも、俺達は勝たなければいけないんだ」
ユピテルが腕を組みながら厳しい言葉で話す。しかしこれは真実かもしれない。それほどまでに強い相手だからだ。
「ああ。それでも俺は最後まで戦い抜くつもりだ」
「それでも、乗り越えなければいけない。レテフ、アグナム。今までにないきつい戦いになると思うが、頼むぞ」
「……わかった」
俺は苦い表情をしながら答える。レテフもだ。
「──うん」
そしてユピテル次いでレテフもこの場を去っていきこの場に言うのは俺とサナだけになる。
「アグナムちゃん。私、街を見捨てたくない。だから最後まで、試練を受けたい」
サナは弱気になりながらも、強い目をしている。
「お願い、だから見守っててほしいの」
「──わかった」
サナの願いを、俺は飲んだ。
彼女にとって、この街は自分を育ててくれたかけがえのない街だ。
それを守りたいという気持ちは痛いほどわかる。
もしここで俺サナを止めたとしても、彼女は一人で勝手に試練を乗り越えようとしてしまうだろう。
だったら、俺がついていた方がいい。
サナは再びその試練へと向かっていく。
「ありがとう。私、頑張る!」
そして──。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
それでも、結果は同じだった。
何度の無くサナは苦しみ。そして何も得ることができずに帰ってくる。
そのたびにサナに体力は消耗し、徐々にやつれていっているのが俺にもわかる。
「私が、やらなきゃ──、頑張らなきゃ」
「サナ、もうやめて。もう見ていられない──」
サナはやつれた表情で、うつろな目をしながら言葉を返す。
「ううん……、でも、そうしないと街が──」
しかしサナは言うことを聞かない。彼女はいつもは人が良くて明るい性格だが、引かないときは本当に引かない。
今回は街の命運がかかっている手前、引くことはないだろう。
たとえそれで身を滅ぼすことになろうとも──。
「とりあえず、一回休もう。そんな消耗した体力じゃ、出来るものも出来ないよ」
俺の説得に、サナはこくりと頷いた。良かった。
「ちょっと、街の人たちのところに行きたい、いいかな?」
「わかった」
よろけた歩き方で、避難所の方へと向かっていった。
ちょこんと体育すわりでうずくまっていた。
その瞳には、うっすらとだが涙が浮かんでいる。
自らの弱さのせいで、みんなの力になることができないという悔しさ。それが詰まった涙だ。
「私、アグナムちゃんやユピテルちゃんみたいに、強くなりたい。どんなに強い敵と戦っても、みんなを引っ張れる私になりたい」
サナは、何とか俺たちの力になろうと、試練を乗り越えようと必死にもがいていた。
わかっている。
この姿は幻──。感覚はあれど、現実ではない。
であれば死ぬことはない。今までだってそうだった。
だったら何度でも繰り返せる。何度も乗り越える必要はない。たった一度でいい。
この縛りを断ち切るまで。
絶対に耐え抜く。
大丈夫。耐え抜く、乗り越える。
そう決意した瞬間、そんな決死の決意を一瞬でへし折るような激痛が、サナの心臓に響き渡る。
「うわあああああああああああああああ!!!!」
どれだけ歯を食いしばってもこらえられない激痛に、サナは唯一動かせる首を必死に左右に振る。
必死に自分の運命の鎖から逃れようと、脱しようと力の限りもがき苦しむ。
しかし、今のサナにそれを打ち破るすべはない。
最初こそは、このトラウマを乗り越えると決意したサナ。
しかし、何度もあの体を切り裂かれる苦痛に苦しんでいくうちに、その決意は少しずつ和らいでしまう。
サナはベッドの中で恐怖に震え、ボロボロになった髪をかき乱す。
時間上、まだまだこの試練を乗り切る時間はある。
しかし頭では立ち向かわなければならないと理解しても、彼女の感情が絶望感に浸っていくのがわかる。
この時点で、サナの心はすでに折れていた。
「ユピテルちゃん。大丈夫だって、私まだ戦える!」
ユピテルの強い言葉にサナはひるまずに反論する。しかし、ユピテルも負けずに言い返した。
「いいや。それでもだめだ。一度体に取りついた恐怖はそう簡単には消えはしない。今は強がってハッタリで言っても、窮地になった時、絶対足を引っ張りまともに戦えなくなる。命がかかったこの戦いに、そんな奴を連れていくわけにはいかない」
突き放した様なユピテルの言葉に、サナは言葉を失ってしまう。
俺は、ユピテルの言葉を否定できなかった。
トラウマというやつだ。
あの時、サナは命の危機を感じていた。
その恐怖は、そう簡単に取り除けるものじゃない。
いくらこの場で、強がっていても、この場で強がって戦場に行って、その時に体が動かなくなってしまっては遅い。
ユピテルなりの優しさだったのだ。
「サナ、お前の戦いという気持ちはよくわかる。悔しいかもしれない。けれど、俺もお前が犬死する姿なんて見たくはない。お前も悔しいかもしれないが、ここは身を引いてくれ──」
ユピテルの言葉に、サナは何も言い返せない。
今の彼女には、サナへの優しさが含まれていたからだ。
そして今度は俺達に話しかける。
「サナがこうなった以上、俺達で戦うしかない。はっきり言って強力な敵だ、今までにないくらい」
「──そうだね」
「私のアグナムの言う通りよ」
ユピテルはサナが戦えないものとして作戦の説明に入る。
「レテフ、お前には後方からの援護を頼む。いいな」
「アグナム」
「──何?」
「正直どれだけの援軍が来るか俺にもわからない。もしかしたら立っているのは俺とお前だけというのもあり得る。それでも、俺達は勝たなければいけないんだ」
ユピテルが腕を組みながら厳しい言葉で話す。しかしこれは真実かもしれない。それほどまでに強い相手だからだ。
「ああ。それでも俺は最後まで戦い抜くつもりだ」
「それでも、乗り越えなければいけない。レテフ、アグナム。今までにないきつい戦いになると思うが、頼むぞ」
「……わかった」
俺は苦い表情をしながら答える。レテフもだ。
「──うん」
そしてユピテル次いでレテフもこの場を去っていきこの場に言うのは俺とサナだけになる。
「アグナムちゃん。私、街を見捨てたくない。だから最後まで、試練を受けたい」
サナは弱気になりながらも、強い目をしている。
「お願い、だから見守っててほしいの」
「──わかった」
サナの願いを、俺は飲んだ。
彼女にとって、この街は自分を育ててくれたかけがえのない街だ。
それを守りたいという気持ちは痛いほどわかる。
もしここで俺サナを止めたとしても、彼女は一人で勝手に試練を乗り越えようとしてしまうだろう。
だったら、俺がついていた方がいい。
サナは再びその試練へと向かっていく。
「ありがとう。私、頑張る!」
そして──。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
それでも、結果は同じだった。
何度の無くサナは苦しみ。そして何も得ることができずに帰ってくる。
そのたびにサナに体力は消耗し、徐々にやつれていっているのが俺にもわかる。
「私が、やらなきゃ──、頑張らなきゃ」
「サナ、もうやめて。もう見ていられない──」
サナはやつれた表情で、うつろな目をしながら言葉を返す。
「ううん……、でも、そうしないと街が──」
しかしサナは言うことを聞かない。彼女はいつもは人が良くて明るい性格だが、引かないときは本当に引かない。
今回は街の命運がかかっている手前、引くことはないだろう。
たとえそれで身を滅ぼすことになろうとも──。
「とりあえず、一回休もう。そんな消耗した体力じゃ、出来るものも出来ないよ」
俺の説得に、サナはこくりと頷いた。良かった。
「ちょっと、街の人たちのところに行きたい、いいかな?」
「わかった」
よろけた歩き方で、避難所の方へと向かっていった。
ちょこんと体育すわりでうずくまっていた。
その瞳には、うっすらとだが涙が浮かんでいる。
自らの弱さのせいで、みんなの力になることができないという悔しさ。それが詰まった涙だ。
「私、アグナムちゃんやユピテルちゃんみたいに、強くなりたい。どんなに強い敵と戦っても、みんなを引っ張れる私になりたい」
サナは、何とか俺たちの力になろうと、試練を乗り越えようと必死にもがいていた。
わかっている。
この姿は幻──。感覚はあれど、現実ではない。
であれば死ぬことはない。今までだってそうだった。
だったら何度でも繰り返せる。何度も乗り越える必要はない。たった一度でいい。
この縛りを断ち切るまで。
絶対に耐え抜く。
大丈夫。耐え抜く、乗り越える。
そう決意した瞬間、そんな決死の決意を一瞬でへし折るような激痛が、サナの心臓に響き渡る。
「うわあああああああああああああああ!!!!」
どれだけ歯を食いしばってもこらえられない激痛に、サナは唯一動かせる首を必死に左右に振る。
必死に自分の運命の鎖から逃れようと、脱しようと力の限りもがき苦しむ。
しかし、今のサナにそれを打ち破るすべはない。
最初こそは、このトラウマを乗り越えると決意したサナ。
しかし、何度もあの体を切り裂かれる苦痛に苦しんでいくうちに、その決意は少しずつ和らいでしまう。
サナはベッドの中で恐怖に震え、ボロボロになった髪をかき乱す。
時間上、まだまだこの試練を乗り切る時間はある。
しかし頭では立ち向かわなければならないと理解しても、彼女の感情が絶望感に浸っていくのがわかる。
この時点で、サナの心はすでに折れていた。
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