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第19話 俺は、2度と負けない
しおりを挟む夜ーー。
サナたちがいたスラム街とは対照的な地域がある。
この国の政治の中枢である東部のエリア。
その一角にある上流層の人たちは住む居住区がある。
装飾品を身に着けた貴婦人や、たくさんの妾を雇いハーレムを築き上げている貴族など、まさに富裕層というべき人たちが街を歩いている。
そんな街の中でも大きい一軒家。
自らの権威と身分を象徴するような家に彼女は住んでいた。
「ユピテル。今日は圧勝でしたね。さすがは勇者」
ユピテル・レーヌ。この街最強とうたわれた魔法少女。今日のレート戦でも、相手に全力を出させ、それを真っ向から打ち破り勝利した。
もっとも、それにしては険しい表情でアイスティーをすすっているのだが。
「当たり前だドラパ。あんなの勝って当然の相手、嬉しくもなんともない」
もう1人、彼女と話しているのは、灰色の長髪で190㎝位の長身、筋肉質な体系が特徴。この国のトップ、ドラパ・レオポルドだ。
どっしりとソファーに座り込み、余裕たっぷりの笑みを浮かべながらココアを飲んでいる。
「昨日の敗北のことを気にかけているのですね。私もあなたが負けたと聞いたときはつまらないジョークだと思いましたよ」
「当然だ。屈辱そのものだ」
コーヒーカップを握ったユピテルの手が、握った強さで割れそうなくらいプルプルと震えている。
「しかしあれは、参加資格がないものが入った没収試合。乱入者があなたに敵対した時点で、挑戦者の反則負け。敗北ではありませんよ」
あくまであれはレテフとユピテルの戦い。
公式の記録では没収試合となり、ユピテルの勝利となっている。しかしそんなことは彼女にとってはどうでもよかった。
「そんなことはどうでもいい。どんな反則であろうと、俺が奴に不様な姿をさらしたということには変わりないんだ」
そう、彼女がここまで気にしているのはその試合結果を理由にしているのではない。いくら相手が反則負けといっても、あの大観衆の前で自分がアグナムというポッと出の魔法少女に不様にやられたということには変わりがない。
現に今日の試合でも観客達の声援がどこか少なくなっているのを感じた。
「初見殺しです。確かにあなたの攻撃をいなしてカウンターをしたのは驚きました。しかし次はそうもいかないでしょう」
「次などない。本当の戦いはいつだってそうだ。真剣勝負にそんな甘い言葉はない」
そう叫びながらユピテルはうつむく。敗北という重い事実が、彼女の心を鎖のように縛り付けていた。
「それで、俺に何の用だ? 仮にも国のトップが冷やかしだけににここまでくるわけではなかろう」
「当然です。話は今度開かれるエンペラーカップについての話です」
そして話始めたのはドラパの隣にいる、男が話し始める。
目つきをギラギラとさせた典型的な商人というイメージだ。
「わたくし、新しく大会の運営を担当することになったパッチと申します」
「運営自体は専用の団体があるのですが、今回1人欠員が出てしまい、その代わりに補充されたのが彼でございます」
「いやあ、あなたがユピテルさんですか。噂にたがわずお美しいですなあ」
「お世辞など興味はない。要件を手短に言え」
ユピテルのとげにある態度に、一瞬ひるむ男だったがすぐににっこりと笑みを浮かべながら話を始める。
「私たちは運営として、エンペラーカップを盛り上げていくことを使命としております。さて、かつて現皇帝が新たにこの大会を作り出したときは、最強を決めるという言葉に街中が大盛り上がりになりました。しかし今は定番の行事となってしまいマンネリ化しているとの声もあります」
「それは聞いたことがある」
「だからもっと大会が盛り上がるようにすればいいと思ってね。どうだい、余興として、メイドや水着の衣装を着るというのは。こうすれば大会も大盛り上がりだ、お客さんが増えれば、魔法少女に挙げる賞金だって増やせる」
ドン!!
ユピテルが怒りの感情をあらわにし思いっきり机をたたく。
「必要ない。俺は魔法少女だ、コスプレイヤーじゃない」
その怒りにドイデは一瞬驚くが、すぐに落ち着きを取り脅す。
「しかし、今の時代ただ戦うだけじゃ受けない」
「魔法少女の力を信じないなら、そんな大会やめろ!!」
長官マンダは優雅にコーヒーを飲みながら会話に入る。
「その話はやめたほうが良いです。あきらめたほうが良いですよ」
「──そうですね」
「とりあえず、ユピテルは参加という形でよろしいですね」
「当然だ。俺が最強であることを証明するのにふさわしい高いにしてやる」
ユピテルは足を組み、ココアを飲んだ後、疑いを持ったような表情で質問をする。
「話はそれだけか? そんな与太話のためにここまで、ずいぶんと暇な奴だな」
彼女の視線にもマンダは特に応じない。落ち着いた態度で言葉を返していく。
「いえいえ、これからが本題です。私が話したかった内容それは、ホロウについてです」
「聞いた事があるな。最近街や郊外で住民たちを襲っている目障りな連中のことだろ」
ホロウのうわさはユピテルも聞いているし、直接戦ったこともある。
「ま、所詮は見掛け倒しのウドの大木だったがな。それがどうした?」
結果はユピテルの圧勝。戦闘時間はわずか数十秒だった。
「最近になって出現が増えているとのことです。おまけに時折強力なタイプが現れ、魔法少女が苦戦を強いられる場面もあるそうです。ユピテル殿にも戦ってもらえると嬉しいのですが」
「わかった、協力しよう」
そんな約束を彼女たちは行う。
「では、私はこれで、期待していますよ。勇者『ユピテル』」
そして男たちはこの部屋を去っていく。ユピテルの表情には不信感が宿っていた。
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