【完結】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内燕

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オリエント編

驚愕の決着

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 今の自分の力、そして青葉から譲り受けた力を全力でこの剣に込める。

 その姿、その信じられない魔力に、ツァルキールは震えだす。しかし──。

「確かに、彼が振れるのは一撃だけ。私が後方に逃げてそれをかわせば彼は戦えない。いや、ダメです。逃げようとすれば、ステップを踏もうとしたときに攻撃を受け、私の負け。逃げ切れるような戦いじゃない。だから前へ。奴を倒す必要はない。攻撃を受けきれば、彼の魔力は尽き、私の勝ち」

 その強い気持ちにこたえるように前へ。恐怖で震える気持ちを抑えて前へ。




 そして幸一は全力の一撃を振り下ろし、ツァルキールはそれに合わせて聖剣を振り上げる。

 二人の全力、世界の未来をかけた一撃が衝突。



 結果は──。

 大気がはじけ飛ぶような衝撃波を発し、攻撃を受けたツァルキールの聖剣がきしむ。

 ──が、それまで。破壊し、彼女を切り裂くまでには至らない。
 魔力をすべて使いつくした幸一の口元に、うっすらと笑みが浮かぶ。

 ──結局幸一は大天使である彼女に勝つことはできなかった。

 これが、結果だった。彼女には、勝てなかった。自分が持てる精一杯の力をぶつけた。彼女を打ち破る方法は、存在しなかったのだ。


「勝てな……かったか」

 幸一の剣は、ツァルキールの剣の前に、力尽きる。そして倒れこもうとしたとき、予想もしなかった光景が目の前に移った。

 ピキッ──。ピキピキピキ……

 彼女の聖剣「サンシャイン・スピリット・ソード」にヒビが入る。そしてそれが、まるでガラス細工だったかのように、崩壊していった。

 どうしてこんなことが起こったのか、理解できないまま、幸一のツァルキールの聖剣に当てていた剣が、そのまま押し込まれる。

 そして彼女の肩に切っ先が軽く沈む。予想もつかなかった事態に言葉を失う
 そして幸一の剣が、彼女の首元へ。聖剣を失った彼女に、戦うすべはない。


 決着は、誰にも予想できない方向で決まった。



「どうして、こんなことが──」

 戸惑う幸一。しかし、ツァルキールは、冷静さを取り戻すと、どうしてこんなことになったかを理解した。

「考えてみれば、当然のことですわ」

「どういうことだよ。俺にも、教えてくれ」

「私の聖剣が、すでに限界を迎えていたということです」

 彼女の強さは完ぺきだった。最高の魔力に、最高の技術。そして幸一でもできなかった、エーテル体になり、世界の再生にすべてをささげる覚悟。

 しかし、彼女はその戦いを重ねすぎたのだ。

 エーテル体という、人間ではありえないパワーをずっと纏い、戦い続けたことによって、彼女の聖剣「サンシャイン・スピリット・ソード」の耐久力が限界を突破し、自壊してしまったのだ。

 しかし、気づかなかったのは無理もない。


 通常の人間ならこんなことはあり得ない、というより、そんな発想は出てこない。

 ツァルキールという使い手が、聖剣の力を超えてしまったために起きてしまった悲劇だった。

 通常の天使でも、人間でもこんなことは起こりえない。

 通常の天使なら、戦いは人間たちに行わせ、自らは彼らへの啓示や、勇気を与える役目がほとんどで、聖剣を使うことはほとんどない。

 人間であれば、聖剣より先にその人物の肉体が悲鳴を上げ、戦えなくなる。
 肉体は軋み上がり、骨は砕け、剣の破壊が起こる前に廃人となる。

 彼女が正義感が強く、常に限界まで剣に魔力を込めて戦い続けた故、彼女があまりにも完全無欠であったがゆえに、彼女の兵器が耐えられなかったのだ。


 ツァルキールが瞳に涙を浮かべながら話し掛ける。

「私は、間違っていたのでしょうか?」

 幸一は、倒れこんでいる彼女の体を強く抱きしめ、言葉を返す。

「間違ってなんかいない。ツァルキールは教えてくれた。今俺たちがいるのは、あなたが必死になって戦っているからだというのを。あなたのような人がいるから、この世界が欲望に染まっても、こうして存在しているのだと。だから俺たちは気づいた。あなたたちに甘えているだけじゃだめだと、みんなが正しい方向を向き、そのために戦い続けていかなきゃ伊根無いんだと」

 幸一は、気づいたのだ。

 ユダがいたからこの世界に来ることが出来た。
 ヘイムがいたから、自分より強い存在を知り、強くなることが出来た。

 イレーナやサラがいたから、苦しいことがあっても諦めずに、最後まで敵に立ち向かうことが出来た。

 未熟な存在だからこそ、ここまで進むことができて、こうして彼女に勝つことができたのだと。


 逆に、彼女は、孤独だった。
 イレーナやサラも、ユダもいなかった。

 そして、誰よりも人間たちのことを想い、真面目で優しかった。

 そうであったがゆえに、苦しんだ。
 絶対的過ぎたゆえ、強大な力があったゆえ、自分の手が届かない所まで救おうともがき苦しんだ。
 出口のない、終わりのない迷宮をさまよい絶望し、すべてを破壊してやり直すという答えにたどり着いてしまった。



 幸一の肉体が光の粒子となって消えていく
 両足の感覚がなくなり、消滅していく姿に、戸惑う。

「俺の、身体──。どうして?」

「遅かったのですわ」
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