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オリエント編
地獄へ落ちろ……ですか?
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そう言ってサラが両手を思いっきり幸一達の方向に向ける。
幸一達は感じる。温かく、強い魔法の力が──。
「サラ、これは?」
「私、戦えないから。私の力、役に立つかわからないけど、受け取って!」
「サラといったか。礼を言わせてもらう」
「サラ。ありがとう、サラの気持ち、絶対に無駄にしない」
そして幸一は再び戦場へ。
一方ツァルキールたち。
「どうしました。さっきまでの余裕が、消え失せているように見えるのですが?」
「そりゃそうじゃ。まさか、肉体を突き刺してもダメージがないなんて、思ってもみなかったのだからのう」
ツァルキールの言葉通り、二人は余裕を失いかけていた。
それでも、二人が連携して、時折ツァルキールに有効打を与えることがあるが、先ほどの幸一の時の様に全く痛がる様子はない。
「あきらめたらどうですの? あなた方の勝ち目がないことを、薄々感じているのでしょう」
「黙れ、俺様が、負けることなどあってはならない」
ヘイムは全くあきらめることはない。
「今のままでは、いくらツァルキールを攻撃しても、全く効果がない」
その幸一の言葉に、ツァルキールがピクリと反応し、彼の方を向く。
「受けたダメージを、その剣に転移させて、力にしているんだろう」
「根拠は?」
「遠目に見ていたからわかった。お前が攻撃を受けていた時、持っている聖剣が一瞬だけ強く光る。おそらく、何かの術式なのだろう」
「いい勘をしていますわね。しかし、理解しただけではどうすることも出来ませんわ」
自慢げに、余裕の笑みを見せながらツァルキールが言葉を返す。
(確かに、そうだ──。敵の秘密を暴いただけではまだ半分。攻略法を見つけないと)
「絶対、何か手はあるはずだ。」
圧倒的な力。それを前にして、三人は戦いを続ける。
どんなに勝機がなくなったとしても、彼らに引くという選択肢はない。
ユダの胸の奥に秘められた闘志が、敗北を選択することはなかった。
今の彼らは幾度の攻撃を受け、満身創痍そのもの。
しかし、動きに陰りは見られない。自らの信念に対する、迷いも──。
「わしは、すべてひっくるめて好きじゃ。彼らの弱さ、身勝手さまで含めてのう。貴様が空くとみなし、消滅させようとしたすべてを」
「だからこそ、俺たち人間が支配しなければならない。 だから、俺たちが支配して全て管理しなければならならない。俺は、それを目的としている」
「──くだらない使命ですわ。そうやってあなたたちは権力をほしいままにし、弱き者たちを使い捨てにしていきました。だから、そんな理想など、聞き飽きましたわ。どうせ、できるわけがないくせに!」
ツァルキールの罵声に、ユダは失笑する。
「じゃが、打つ手が無いというわけではない。」
そしてユダが一つの事実に気付く。
「その首から掲げている、ネックレス。いつもより白く光っておるのう。なにか秘密でもあるのか?」
ユダが指さしたもの。それは、ダイヤモンドのような、透き通った水晶でできた首飾りのネックレス。
その言葉に、ツァルキールははっと驚き、思わずネックレスを握った。そしてすぐに、手を離し、平然を装ってユダをにらみつけるが──。
「馬脚を露したな、大天使! そのネックレスが秘密だな。だったら、粉々に粉砕するまでだ!」
ヘイムが自信満々に彼女を指さす。
その態度に、もはや隠し通すことは不可能と判断、秘密をさらけ出す。
その水晶のネックレス。
それは最初にツァルキールがこの世界に来た時、幸一とユダの様な関係で共に戦った勇者からもらったものだ。
あの時の勇者の顔。すべてをやり遂げ、世界に平和をもたらした。その時の満面の笑みと、ありがとうと言った時の表情は、今も彼女の記憶に残っている。
──が、その勇者は寿命を迎え、私欲におぼれたその子孫たちは、弱き者たちを踏みにじり、圧政を行う権力者となってしまった。
「いわば、私の誓いの証ですわ。戦ってきた勇者のために、私はもう一度、世界を立て直すと誓う証なのですわ」
そして再びツァルキールが三人に突っ込んでくる。三対一ではあるが、圧倒的な威力の差の前に、防戦一方になる。
剣を交えながらヘイムが叫ぶ。
「できもしない理想を押し付け、そこにいるやつを無視してすべてを壊すやり方が俺は気に食わん。貴様の身勝手な傲慢さが、俺様の逆鱗に触れた。もう貴様の手品の種は理解した。地獄へ落ちろ!」
「私に、地獄へ落ちろ……ですか?」
そしてヘイムとユダが再び左右に分かれてツァルキールに向かう。
「その手はさっきも見ましたわ。同じ手は、通用しないですわ!」
その通り、二人の攻撃を彼女が受けている間に幸一はさっきと同じく後方に移動し襲い掛かる。
今度は幸一の奇襲をしっかり受けて対応、しかし、さっきとは違うことがあったのはユダも幸一も見逃がさなかった。
ツァルキールも反撃に出ようと、前に出る。
(よし、かかった)
若干だが、動揺が消えていない。その剣の太刀が力んでいるように見えた。
ずっと死闘を繰り広げていた幸一には、それが理解できる。
(これを、利用しない手はない!)
幸一はその攻撃を何とか受けると、手首のスナップを利かせ、くるりと剣を回転させる。
そしてその回転を生かして急接近。一気に間合いへ。あっけにとられたツァルキール、驚いているが、今の奇襲を予測できず、打てる手はない。
幸一の剣が、ツァルキールのネックレスに突き刺さる。
幸一達は感じる。温かく、強い魔法の力が──。
「サラ、これは?」
「私、戦えないから。私の力、役に立つかわからないけど、受け取って!」
「サラといったか。礼を言わせてもらう」
「サラ。ありがとう、サラの気持ち、絶対に無駄にしない」
そして幸一は再び戦場へ。
一方ツァルキールたち。
「どうしました。さっきまでの余裕が、消え失せているように見えるのですが?」
「そりゃそうじゃ。まさか、肉体を突き刺してもダメージがないなんて、思ってもみなかったのだからのう」
ツァルキールの言葉通り、二人は余裕を失いかけていた。
それでも、二人が連携して、時折ツァルキールに有効打を与えることがあるが、先ほどの幸一の時の様に全く痛がる様子はない。
「あきらめたらどうですの? あなた方の勝ち目がないことを、薄々感じているのでしょう」
「黙れ、俺様が、負けることなどあってはならない」
ヘイムは全くあきらめることはない。
「今のままでは、いくらツァルキールを攻撃しても、全く効果がない」
その幸一の言葉に、ツァルキールがピクリと反応し、彼の方を向く。
「受けたダメージを、その剣に転移させて、力にしているんだろう」
「根拠は?」
「遠目に見ていたからわかった。お前が攻撃を受けていた時、持っている聖剣が一瞬だけ強く光る。おそらく、何かの術式なのだろう」
「いい勘をしていますわね。しかし、理解しただけではどうすることも出来ませんわ」
自慢げに、余裕の笑みを見せながらツァルキールが言葉を返す。
(確かに、そうだ──。敵の秘密を暴いただけではまだ半分。攻略法を見つけないと)
「絶対、何か手はあるはずだ。」
圧倒的な力。それを前にして、三人は戦いを続ける。
どんなに勝機がなくなったとしても、彼らに引くという選択肢はない。
ユダの胸の奥に秘められた闘志が、敗北を選択することはなかった。
今の彼らは幾度の攻撃を受け、満身創痍そのもの。
しかし、動きに陰りは見られない。自らの信念に対する、迷いも──。
「わしは、すべてひっくるめて好きじゃ。彼らの弱さ、身勝手さまで含めてのう。貴様が空くとみなし、消滅させようとしたすべてを」
「だからこそ、俺たち人間が支配しなければならない。 だから、俺たちが支配して全て管理しなければならならない。俺は、それを目的としている」
「──くだらない使命ですわ。そうやってあなたたちは権力をほしいままにし、弱き者たちを使い捨てにしていきました。だから、そんな理想など、聞き飽きましたわ。どうせ、できるわけがないくせに!」
ツァルキールの罵声に、ユダは失笑する。
「じゃが、打つ手が無いというわけではない。」
そしてユダが一つの事実に気付く。
「その首から掲げている、ネックレス。いつもより白く光っておるのう。なにか秘密でもあるのか?」
ユダが指さしたもの。それは、ダイヤモンドのような、透き通った水晶でできた首飾りのネックレス。
その言葉に、ツァルキールははっと驚き、思わずネックレスを握った。そしてすぐに、手を離し、平然を装ってユダをにらみつけるが──。
「馬脚を露したな、大天使! そのネックレスが秘密だな。だったら、粉々に粉砕するまでだ!」
ヘイムが自信満々に彼女を指さす。
その態度に、もはや隠し通すことは不可能と判断、秘密をさらけ出す。
その水晶のネックレス。
それは最初にツァルキールがこの世界に来た時、幸一とユダの様な関係で共に戦った勇者からもらったものだ。
あの時の勇者の顔。すべてをやり遂げ、世界に平和をもたらした。その時の満面の笑みと、ありがとうと言った時の表情は、今も彼女の記憶に残っている。
──が、その勇者は寿命を迎え、私欲におぼれたその子孫たちは、弱き者たちを踏みにじり、圧政を行う権力者となってしまった。
「いわば、私の誓いの証ですわ。戦ってきた勇者のために、私はもう一度、世界を立て直すと誓う証なのですわ」
そして再びツァルキールが三人に突っ込んでくる。三対一ではあるが、圧倒的な威力の差の前に、防戦一方になる。
剣を交えながらヘイムが叫ぶ。
「できもしない理想を押し付け、そこにいるやつを無視してすべてを壊すやり方が俺は気に食わん。貴様の身勝手な傲慢さが、俺様の逆鱗に触れた。もう貴様の手品の種は理解した。地獄へ落ちろ!」
「私に、地獄へ落ちろ……ですか?」
そしてヘイムとユダが再び左右に分かれてツァルキールに向かう。
「その手はさっきも見ましたわ。同じ手は、通用しないですわ!」
その通り、二人の攻撃を彼女が受けている間に幸一はさっきと同じく後方に移動し襲い掛かる。
今度は幸一の奇襲をしっかり受けて対応、しかし、さっきとは違うことがあったのはユダも幸一も見逃がさなかった。
ツァルキールも反撃に出ようと、前に出る。
(よし、かかった)
若干だが、動揺が消えていない。その剣の太刀が力んでいるように見えた。
ずっと死闘を繰り広げていた幸一には、それが理解できる。
(これを、利用しない手はない!)
幸一はその攻撃を何とか受けると、手首のスナップを利かせ、くるりと剣を回転させる。
そしてその回転を生かして急接近。一気に間合いへ。あっけにとられたツァルキール、驚いているが、今の奇襲を予測できず、打てる手はない。
幸一の剣が、ツァルキールのネックレスに突き刺さる。
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