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オリエント編
抱きしめあう二人
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メーリングの不満そうに膨れた顔。
彼女は、昔はバルトロによって支配され、自身の手で未来を切り開くことをあきらめていた。
しかし、サラが必死に戦っている姿を見て、彼女自身も戦おうと決心した。
そしてサラと一緒に、困っている人たちのために戦おうと決心したのだ。
「幸一君。あの時はありがとうね。私一人だったら、立ち上がることもなかっただろうし、街を守ることも出来なかったと思う」
「まあ、メーリングが、喜んでいるなら、こっちも嬉しいよ」
メーリングは星々がよく見える夜空を眺めながら、今の気持ちを語る。その笑みを見ながら、幸一は彼女のとある変化に気付く。
「あとさ、何か、明るくなったよね。笑う場面が増えたよね」
以前より笑顔を見せるシーンが増えた。やさぐれた、あきらめたような感じがなくなり、明るい雰囲気が増えた。幸一は彼女をそんな風に見ていたのだ。
「それ、私も思ってた。メーリングがちゃん、すごい、明るくなった」
サラも、ふっと笑いながら同調。メーリングは、照れ隠しで横を向き、顔を赤くする。
「ありがとう──」
バルトロという、一つの呪縛が解けたのだろう。今の彼女が、本当のメーリングなのだ。
女神のような、美しい笑みを見ながら、幸一はそう考えた。
次はサラ。
「サラ、最後の戦い。一緒に戦って──勝とう!」
「うん!」
にっこりと明るく、しかし強くてはっきりとしたサラらしい返事。
サラは、貧弱な体力、文官向きな魔法。幸一やメーリングの様に戦場で戦うことはできない。
仮に戦ったとしても、間違いなく足を引っ張ってしまうだろう。
それでも、サラは自分にできることを考え、幸一達をサポートし続けた。できることをして、戦っていた。その姿を見て、メーリングは自分の意思で立ち上がることを決めたのだ。
「サラ、最後の戦い、よろしくね」
「うん! 私、絶対に力になるから!」
拳を強く握りながら、サラの力強い掛け声。
そして三人は部屋に戻っていく。絶対に勝つという覚悟を胸に刻みながら。
部屋に戻った幸一。
イレーナがベッドに座っている。
「ただいま」
「──お帰りなさい」
どこかそっけない返事。幸一はそんな口調にすぐに気づく。
「やっぱり、意識しているんだね。明日が決戦という事」
その言葉に、イレーナは体を震わせ、幸一を見つめ始めた。
「私、心配なの。幸君に、もしものことがあったら……」
イレーナの瞳にうっすらと涙がともり始める。自分の前から、最愛の人物がいなくなってしまったらと考えると、自然と涙が出てしまうのだ。
幸一は、イレーナのそんな思いを感じ始める。
今までの強敵だって、十分強かったし、幸一の実力に疑問はない。日ごろから二人でトレーニングをしていた自分だからわかる。
それでも、最悪の結末を考えられずにはいられないのだ。
彼に勝てなかった自分が、何を言っているのかと、彼女自身も考える。
脳裏をよぎってしまう。愛する人、最も想いを告げる人物がいなくなったらと──。
理屈ではなく、本能から──。
そこから湧き上がってくる恐怖に、イレーナは身を震わせた。
すると──。
「幸君?」
幸一は、イレーナの震える肩に手を優しく添える。そしてそのまま彼女を抱き寄せた。
「ありがとう、そこまで俺のことを心配してくれて。けれで、俺がこの戦いをやめるなんて選択はとらない。イレーナのためだけでもない、勇者なんてどうでもいい。ただ、俺自身がこの世界も守りたいって思ったから。だから、約束だ。俺は負けない、勝ってもう一度イレーナを抱きしめる。絶対約束する」
幸一は、この世界に来てから様々な人たちと出会った。イレーナ、サラ、メーリング、青葉。それだけじゃない、出会った人たち。彼らを思うと、自然にそんな回答が出たのだ。
約束する。
そんな彼の言葉に、イレーナは思う。
(ずるいよ、わたし)
最愛の人を失う怖さは、互いに同じだ。
けれど、この戦いから逃げるなんて選択はない以上、絶対に生き残るなんて可能性はどこにもない。
それでも、イレーナは抱きしめるのをやめない。
ただ、甘えたかったのだ。目の前にいる愛する人の前にだけは。自分のすべてをさらけ出して、弱みも、すべてを見せたかった。
他人には、こんな情けたくはない姿は、決して見せられない。
皇女として、弱い民たちを守るべき存在として、
しかし、幸一にだけは、弱い自分も、自分のすべてを見てほしい。そんな思いで、イレーナが幸一と唇を重ね合わせる。
全てを受け入れて優しくしてくれる彼が好きだ。
唇を重ねているだけでわかる。自分の中の恐怖が、消えていくと。
優しく、温かい感情に包まれる。
二人は、同じ考えを持った。
(信じよう──)
もっとも強くて、信じられる人がいる。
同じ志を持った友がいる。
絶対に勝とう。誰一人失うことなく、ここに帰ってこよう。
強く抱きしめあい、唇を交わし、愛を確かめ合う二人。
さらに、ぎゅっと抱きしめる。筋肉質ながらも、滑らかで柔らかい肌。
彼女の髪についている甘い香水の香りが、幸一の鼻腔を強く刺激する。
そしてその髪を優しくなでながら告げる。
「絶対に、生き残ろう!」
背中を優しくポンポンと撫でる。彼女の背中が、プルプルと震えているのがわかる。
「大丈夫。どれだけ敵が強くても、絶対勝つから。勝って、もう一度帰ってこよう」
短波なんてない、根拠なんてない。でまかせだ。それでも、イレーナが安心するというのなら、全力で言葉をかける。
「わかった。──幸君」
イレーナも、心の底では理解している。証拠なんてない。か細いわらのような存在。それでも、必死に縋り付き、信じる。
「私、頑張るから、絶対に帰ってこよう」
そう深く誓い、身体を離す。
彼女は、昔はバルトロによって支配され、自身の手で未来を切り開くことをあきらめていた。
しかし、サラが必死に戦っている姿を見て、彼女自身も戦おうと決心した。
そしてサラと一緒に、困っている人たちのために戦おうと決心したのだ。
「幸一君。あの時はありがとうね。私一人だったら、立ち上がることもなかっただろうし、街を守ることも出来なかったと思う」
「まあ、メーリングが、喜んでいるなら、こっちも嬉しいよ」
メーリングは星々がよく見える夜空を眺めながら、今の気持ちを語る。その笑みを見ながら、幸一は彼女のとある変化に気付く。
「あとさ、何か、明るくなったよね。笑う場面が増えたよね」
以前より笑顔を見せるシーンが増えた。やさぐれた、あきらめたような感じがなくなり、明るい雰囲気が増えた。幸一は彼女をそんな風に見ていたのだ。
「それ、私も思ってた。メーリングがちゃん、すごい、明るくなった」
サラも、ふっと笑いながら同調。メーリングは、照れ隠しで横を向き、顔を赤くする。
「ありがとう──」
バルトロという、一つの呪縛が解けたのだろう。今の彼女が、本当のメーリングなのだ。
女神のような、美しい笑みを見ながら、幸一はそう考えた。
次はサラ。
「サラ、最後の戦い。一緒に戦って──勝とう!」
「うん!」
にっこりと明るく、しかし強くてはっきりとしたサラらしい返事。
サラは、貧弱な体力、文官向きな魔法。幸一やメーリングの様に戦場で戦うことはできない。
仮に戦ったとしても、間違いなく足を引っ張ってしまうだろう。
それでも、サラは自分にできることを考え、幸一達をサポートし続けた。できることをして、戦っていた。その姿を見て、メーリングは自分の意思で立ち上がることを決めたのだ。
「サラ、最後の戦い、よろしくね」
「うん! 私、絶対に力になるから!」
拳を強く握りながら、サラの力強い掛け声。
そして三人は部屋に戻っていく。絶対に勝つという覚悟を胸に刻みながら。
部屋に戻った幸一。
イレーナがベッドに座っている。
「ただいま」
「──お帰りなさい」
どこかそっけない返事。幸一はそんな口調にすぐに気づく。
「やっぱり、意識しているんだね。明日が決戦という事」
その言葉に、イレーナは体を震わせ、幸一を見つめ始めた。
「私、心配なの。幸君に、もしものことがあったら……」
イレーナの瞳にうっすらと涙がともり始める。自分の前から、最愛の人物がいなくなってしまったらと考えると、自然と涙が出てしまうのだ。
幸一は、イレーナのそんな思いを感じ始める。
今までの強敵だって、十分強かったし、幸一の実力に疑問はない。日ごろから二人でトレーニングをしていた自分だからわかる。
それでも、最悪の結末を考えられずにはいられないのだ。
彼に勝てなかった自分が、何を言っているのかと、彼女自身も考える。
脳裏をよぎってしまう。愛する人、最も想いを告げる人物がいなくなったらと──。
理屈ではなく、本能から──。
そこから湧き上がってくる恐怖に、イレーナは身を震わせた。
すると──。
「幸君?」
幸一は、イレーナの震える肩に手を優しく添える。そしてそのまま彼女を抱き寄せた。
「ありがとう、そこまで俺のことを心配してくれて。けれで、俺がこの戦いをやめるなんて選択はとらない。イレーナのためだけでもない、勇者なんてどうでもいい。ただ、俺自身がこの世界も守りたいって思ったから。だから、約束だ。俺は負けない、勝ってもう一度イレーナを抱きしめる。絶対約束する」
幸一は、この世界に来てから様々な人たちと出会った。イレーナ、サラ、メーリング、青葉。それだけじゃない、出会った人たち。彼らを思うと、自然にそんな回答が出たのだ。
約束する。
そんな彼の言葉に、イレーナは思う。
(ずるいよ、わたし)
最愛の人を失う怖さは、互いに同じだ。
けれど、この戦いから逃げるなんて選択はない以上、絶対に生き残るなんて可能性はどこにもない。
それでも、イレーナは抱きしめるのをやめない。
ただ、甘えたかったのだ。目の前にいる愛する人の前にだけは。自分のすべてをさらけ出して、弱みも、すべてを見せたかった。
他人には、こんな情けたくはない姿は、決して見せられない。
皇女として、弱い民たちを守るべき存在として、
しかし、幸一にだけは、弱い自分も、自分のすべてを見てほしい。そんな思いで、イレーナが幸一と唇を重ね合わせる。
全てを受け入れて優しくしてくれる彼が好きだ。
唇を重ねているだけでわかる。自分の中の恐怖が、消えていくと。
優しく、温かい感情に包まれる。
二人は、同じ考えを持った。
(信じよう──)
もっとも強くて、信じられる人がいる。
同じ志を持った友がいる。
絶対に勝とう。誰一人失うことなく、ここに帰ってこよう。
強く抱きしめあい、唇を交わし、愛を確かめ合う二人。
さらに、ぎゅっと抱きしめる。筋肉質ながらも、滑らかで柔らかい肌。
彼女の髪についている甘い香水の香りが、幸一の鼻腔を強く刺激する。
そしてその髪を優しくなでながら告げる。
「絶対に、生き残ろう!」
背中を優しくポンポンと撫でる。彼女の背中が、プルプルと震えているのがわかる。
「大丈夫。どれだけ敵が強くても、絶対勝つから。勝って、もう一度帰ってこよう」
短波なんてない、根拠なんてない。でまかせだ。それでも、イレーナが安心するというのなら、全力で言葉をかける。
「わかった。──幸君」
イレーナも、心の底では理解している。証拠なんてない。か細いわらのような存在。それでも、必死に縋り付き、信じる。
「私、頑張るから、絶対に帰ってこよう」
そう深く誓い、身体を離す。
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