【完結】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内燕

文字の大きさ
上 下
188 / 221
アストラ帝国編

この世界に連れてきた、本当の理由

しおりを挟む
 ユダは、黙りこくり、しばし考える。そして数十秒ほどの時が立ち、ゆっくりと口を開く。

「──わかったぞい」

 ユダが、微笑を浮かべながら、それから先の天使たちのたどった末路を話し始める。

 人類たちの敵が姿を消しても、平和は来なかった。
 その後に彼らがしたのは、次の敵探しだった。

 かつて味方だった者たちを不当に捕え、粛清し、処刑し、かつて戦っていた敵のごとく暴君となり果てた。

 次第に英雄たちは、体制側になり、私欲をむき出しにし、民たちを搾取し始める。

 市民たちが飢餓と差別、格差に苦しめられる中、英雄たちは不当に富を蓄え、その果実を独占。

 どれだけ戒めても、どれだけ叫んでも、何度もこの世界で見た光景。

 それを見るたびに、彼女たち天使も、大天使ザガリールも絶望を繰り返していった。

 そして、次第に彼女たちの中で一つの考えが生まれてきた。

「彼らは、はじめから救えない存在だったのか──」

 ザガリールが、絶望しきった後に放ったその言葉。そして辿り着いてしまったとある結論。

「彼らを滅ぼして、新しい世界を作るのですわ」

 その言葉を境に、天使たちは一枚岩であることを捨て、分裂した。

 欲望に染まってしまい、手の施しようがなくなってしまった彼らを滅ぼして、再び新しい世界を作ろうとするもの。
 それでもあきらめず、勇者の素質を持っている人物を探し、少しでも世界を良くしようとするもの。
 あるいは、すべてを投げ捨て、平穏に過ごすもの。

「そ、そんなことがあったのか」

 二人の説明に、幸一が思わず声を漏らす。

 メーリングは、あまりも衝撃に言葉を失ってしまっている。

「そういうことじゃ。あと、人間を捨てた天使たち、ほぼ仲間割れ状態じゃ。魔王と手を組んだり、人類を導く使命を放棄し、私利私欲に没頭する者もいる」

 ユダの言葉。そしてしばしの沈黙が流れると、幸一がユダに恐る恐る質問する。

「──聞きたいことがある」

「なんじゃ?」

「ユダ、シモン、お前は俺たち人間に対してどう思っているのか知りたい。そして何が望みなのかも」

 するとユダがため息をつき、ちらりとシモンに視線を向ける。
 シモンは少しの間、もじもじとした後、静かに口を開き始め、その考えを2人に話す。


「私は、答えを出すのもためらっていました。誰とも組んでいません。そしてたどり着いた結論が、素質があり、悲惨な幼少を過ごした人物。サリアのような人物の後ろについていることです。もっとも、逃げていると言われれば反論はできませんが」

「まあ、シモンはもともと内気で自己主張が苦手なタイプじゃからのう。それも一考じゃろう」

 シモンをかばうような言葉。しかし幸一の求める答えはそれではない。

「それでユダ。お前はどう考えているんだ? 俺が一番聞きたいのはお前の声だ」

 ユダは、再びニヤリと笑みを浮かべた。そして、遠目になりながらその考えを話し始める。

「わしはあきらめておらんよ。綺麗ごとだけでは、この世界は回っていない。それは理解しておる」

「あきらめては、ないのか」


 するとユダは、3人から背を向け始める。

「わしは、あきらめているわけではない。じゃがのう、彼らの行いを見ていて、限界を感じていたのじゃ。不毛な争いへの連鎖。どれだけ勇者たちにその力を与えてもそれは断ち切れなかった」

「まあ、ユダらしい答えだよ」

 幸一は理解していた。彼女は、どこか不真面目、信用できないところはあった。
 しかし、助け船を求めている人を平気で見捨てたり、平然と無実の人を傷つけるような人物でもない。

「そう、この世界に問題を抱えていることも事実じゃ。そしてわしは、まだ考えを決めかねている他の天使たちと、実験をしてみたのじゃ。ここではない場所、魔法が存在しない世界。そこから適性のある人物を連れて着たらどうなるのかと」

「それが、俺ってことか」

「ど、どういうことなの? 別世界って何?」

 メーリングが、焦り始め、二人をきょろきょろとし始める。
 二人が別世界を口に出した時から、メーリングは話についていけなくなってしまっていたのだ。

「あ、ごめん。──しょうがないな。全部話すよ」

「幸一君。ありがとう、さっきから置いてきぼりになっちゃって……」

 そして幸一は自らの過去を話した。別世界のこと。そして全く世界から来た存在だということを──。

「ほ、本当なの? 信じられない」

「ほ、本当だよ。黙っていたのは悪かったけど……」

 メーリングは驚きのあまり、ポカンとただ口を開いている。
 するとユダが二人の間に入る。

「それでのう、こ奴がこの世界に来る時の行動が、呆れるくらい信じられなくてのう」

「ちょっと、それは言わないで」

 焦る幸一、しかしユダは気にも留めない。

「そいで、こいつがこの世界に来るときがのう──」

 ユダはにやりとしながら本当のことを話す。本当は別の人物を連れていくつもりだったのだが、幸一がその身を犠牲にして助けてしまい、代わりに自分がこの世界に来たことを──。

「幸一君。自分の身を犠牲にして、他人を助けたの? サラ、知ってた?」

「私も、初めて聞いた……」

 驚いてはっとするメーリング。幸一の行いに衝撃を受けたようだ。サラも驚きの表情。
 しかし、すぐににっこりと微笑を浮かべる。

「……でも、幸一君らしい。あなたと接していると、作り話じゃないっていうの、なんとなくわかるわ」

「──ありがとう」

 その天使のようなきれいな笑顔に、思わず顔を赤くしてしまう。
 するとユダがオホンとせきをする。

「じゃから幸一殿。そちの魔法が存在しない世界。この世界の価値観と違う人間。それならば何かが変わるかもしれない。そう考えたのじゃ」

「そうなのか……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...