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アストラ帝国編
天使たちの、失望
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「悪をすべて滅ぼし、だれもが平和に、当たり前に暮らせる『理想の世界』。それを目指して、私達は『勇者』の背中を支え、時に助言を、時に加護の心を持ち、世界から脅威を取り除いてきました」
そしてシモンの表情が再び暗くなる。
「俺達はその時代に生きた、魔法適性が高く正義感が強い『勇者』と呼ばれる人物に魔力を供給し、助言をする存在として裏からこの世界を支えた」
バルトロもまた、表情を険しくさせた。
「けど、どれだけ魔王軍を倒しても悪を憎んで闇組織を滅ぼしても、この世界が理想の世界になることはなかった」
最初は清廉潔白を貫いた勇者も、平和になり敵がいなくなると、体制側に入ってしまう。私欲に走り、権力をむさぼり、結局は支配層が変わっただけで誰も救われないという形になってしまっていたのだ。
早ければ数年。遅くても三代目の世代あたりで支配層の腐敗が進んでしまう。
天使によっては注意を促す天使もいた。シモンのように──。
しかし……。
「うるっせぇ! お前はもう用済みなんだよ!」
打ち倒すべき敵はいなくなり、権力を手にした人間たちに、何を言っても無駄でした。
「私達は試行錯誤を重ね、それでも何とか試行錯誤を重ねみなが平和になる道を探そうとしました」
「悪を倒したら終わりではなく、それからも欲望にとらわれないようにととがめたり、たまに顔を出して話を聞いたりもしたな。まあ、徒労に終わったけどな」
やがて、欲望に走る人間たちを見て天使たちは失望し始めていったのだった。
「私達の中で一番失望したのは大天使でした。いつしかふさぎがちになり私たちの前に現れなくなって、いま彼女を知る者はおりません」
「俺たちは、中心人物を失い、途方に暮れていたころ。一つの意見が出た。」
「人間たちを見捨てて、魔王軍とともにこの世界の奴隷になるべきではないかと」
そんな時に魔王軍が現れた。裏切りたい天使に手を組まないか、世界を作り替えないかと持ち掛けたのだ。
奴隷であれば、支配層は魔王たちになるのでいなくなる。そして生かさず殺さず彼らから富を搾り取るという魔王軍の支配した世界ならば格差も生まれない。誰かが飢餓で死ぬこともない。
引き換えに夢も希望もなく、一生彼らの奴隷として生きてくことになるのだが。
「俺は乗った。もう、こいつらを信じることができないと踏んでな」
彼女がそういった瞬間、衝撃の事態が起きた。なんとバルトロの足先が灰と化していったのだ。その光景に三人は絶句する。
そしてそれを見たサラが思い出す。
「聞いた事があります。魔王軍の力は代償があるって。周囲に力を知られないために、その力を使い敗れると、存在自体が消滅するって」
サラの言葉にシモンは首を縦に振る。
「よく知っていますね」
バルトロの肉体が足先から順に膝、太ももが灰となって消えていく。下半身が消えたあたりでバルトロは自らの最後を悟り最後の言葉を叫ぶ。
「何故私は負けた。強く誓ったはず。私利私欲におぼれ、弱者たちを足蹴りにする人間達を見て誓った。こいつらは──、私達を裏切ったと、私達が追い求めていた世界ではないと──。だから世界を滅ぼして、もう一度理想の世界を絶対に作ると」
そう叫ぶアンデラ、しかしその言葉にメーリングは強く言葉を返す。
「今を大切にしない、理解しようともしないあなたが世界をつくりかえたって、絶対に理想の世界なんて訪れないわ。結局同じ運命になって、またあなたは滅びの道を選択する。それを永遠に繰り返して、勝手に絶望していく。だから──、あなたの好きにはさせないわ!!」
その言葉に今までのような迷いや恐怖は全くない。
強い彼女の声を聞いたアンデラは自らの負けを悟った。
「そうかもしれないな。いや、確実にそうなるだろう。だがな、今いる人達と未来を歩む。おまえは簡単に言うけど、簡単にはいかないぜ。」
それは簡単な物ではない。この世界をずっと見てきた天使の一人だからこそそれは強くわかる。
だからこそ彼女は彼らとともに歩む道を捨て、全てを破壊し世界を作りかえる道を選んだのだ。
「わかっているわ。でもそれしかないもの」
バルトの体はすでに首元まで消滅、これが最後の言葉だと悟った彼女が幸一達に視線を向ける。そして──。
「そこまで言うなら止めねぇよ。苦しいと思うが、やってみろ」
「わかったわ」
バルトロの肉体が完全に消滅。確かに敵だったが、彼女の消滅に何とも言えない気分になる。
すると幸一の正面に、人のサイズほどの光柱が出現し始めた。
シュゥゥゥゥゥゥゥゥ──。
そして一人の人物が現れる。
「ユダ、話、聞いていたのか?」
「そうじゃ。すべて見ておったぞ。そなたたちの活躍も。」
妖艶な笑みで話しかけてくる。ユダであった。
「素晴らしかったぞい。二人とも、まさか天使と大型魔獣を打ち倒してしまうなんてのう」
「ユダ。何しに来たんだ?」
するとユダはいつものニヤリとした笑みを浮かべながら話し始める。
「そち達が、予想外の健闘をしてしまったので、ここに来たのじゃ。話したいことがあってのう」
すると、幸一はユダの話が終わらないうちに、彼女に詰め寄り、話しかける。
「なあユダ、ちょっとだけいいか?」
「なんじゃ? 幸一殿」
「天使たちが裏切っているという話、どういうことか説明してくれ。彼女たちが、人類を見放し始めた後、どうなったか。俺たちは、どうすればいいのか。お前は、どう感じているのか」
メーリングもその話に食いつく。
「それは私も知りたい。教えてほしいわ」
ユダは、黙りこくり、しばし考える。そして数十秒ほどの時が立ち、ゆっくりと口を開く。
「──わかったぞい」
そしてシモンの表情が再び暗くなる。
「俺達はその時代に生きた、魔法適性が高く正義感が強い『勇者』と呼ばれる人物に魔力を供給し、助言をする存在として裏からこの世界を支えた」
バルトロもまた、表情を険しくさせた。
「けど、どれだけ魔王軍を倒しても悪を憎んで闇組織を滅ぼしても、この世界が理想の世界になることはなかった」
最初は清廉潔白を貫いた勇者も、平和になり敵がいなくなると、体制側に入ってしまう。私欲に走り、権力をむさぼり、結局は支配層が変わっただけで誰も救われないという形になってしまっていたのだ。
早ければ数年。遅くても三代目の世代あたりで支配層の腐敗が進んでしまう。
天使によっては注意を促す天使もいた。シモンのように──。
しかし……。
「うるっせぇ! お前はもう用済みなんだよ!」
打ち倒すべき敵はいなくなり、権力を手にした人間たちに、何を言っても無駄でした。
「私達は試行錯誤を重ね、それでも何とか試行錯誤を重ねみなが平和になる道を探そうとしました」
「悪を倒したら終わりではなく、それからも欲望にとらわれないようにととがめたり、たまに顔を出して話を聞いたりもしたな。まあ、徒労に終わったけどな」
やがて、欲望に走る人間たちを見て天使たちは失望し始めていったのだった。
「私達の中で一番失望したのは大天使でした。いつしかふさぎがちになり私たちの前に現れなくなって、いま彼女を知る者はおりません」
「俺たちは、中心人物を失い、途方に暮れていたころ。一つの意見が出た。」
「人間たちを見捨てて、魔王軍とともにこの世界の奴隷になるべきではないかと」
そんな時に魔王軍が現れた。裏切りたい天使に手を組まないか、世界を作り替えないかと持ち掛けたのだ。
奴隷であれば、支配層は魔王たちになるのでいなくなる。そして生かさず殺さず彼らから富を搾り取るという魔王軍の支配した世界ならば格差も生まれない。誰かが飢餓で死ぬこともない。
引き換えに夢も希望もなく、一生彼らの奴隷として生きてくことになるのだが。
「俺は乗った。もう、こいつらを信じることができないと踏んでな」
彼女がそういった瞬間、衝撃の事態が起きた。なんとバルトロの足先が灰と化していったのだ。その光景に三人は絶句する。
そしてそれを見たサラが思い出す。
「聞いた事があります。魔王軍の力は代償があるって。周囲に力を知られないために、その力を使い敗れると、存在自体が消滅するって」
サラの言葉にシモンは首を縦に振る。
「よく知っていますね」
バルトロの肉体が足先から順に膝、太ももが灰となって消えていく。下半身が消えたあたりでバルトロは自らの最後を悟り最後の言葉を叫ぶ。
「何故私は負けた。強く誓ったはず。私利私欲におぼれ、弱者たちを足蹴りにする人間達を見て誓った。こいつらは──、私達を裏切ったと、私達が追い求めていた世界ではないと──。だから世界を滅ぼして、もう一度理想の世界を絶対に作ると」
そう叫ぶアンデラ、しかしその言葉にメーリングは強く言葉を返す。
「今を大切にしない、理解しようともしないあなたが世界をつくりかえたって、絶対に理想の世界なんて訪れないわ。結局同じ運命になって、またあなたは滅びの道を選択する。それを永遠に繰り返して、勝手に絶望していく。だから──、あなたの好きにはさせないわ!!」
その言葉に今までのような迷いや恐怖は全くない。
強い彼女の声を聞いたアンデラは自らの負けを悟った。
「そうかもしれないな。いや、確実にそうなるだろう。だがな、今いる人達と未来を歩む。おまえは簡単に言うけど、簡単にはいかないぜ。」
それは簡単な物ではない。この世界をずっと見てきた天使の一人だからこそそれは強くわかる。
だからこそ彼女は彼らとともに歩む道を捨て、全てを破壊し世界を作りかえる道を選んだのだ。
「わかっているわ。でもそれしかないもの」
バルトの体はすでに首元まで消滅、これが最後の言葉だと悟った彼女が幸一達に視線を向ける。そして──。
「そこまで言うなら止めねぇよ。苦しいと思うが、やってみろ」
「わかったわ」
バルトロの肉体が完全に消滅。確かに敵だったが、彼女の消滅に何とも言えない気分になる。
すると幸一の正面に、人のサイズほどの光柱が出現し始めた。
シュゥゥゥゥゥゥゥゥ──。
そして一人の人物が現れる。
「ユダ、話、聞いていたのか?」
「そうじゃ。すべて見ておったぞ。そなたたちの活躍も。」
妖艶な笑みで話しかけてくる。ユダであった。
「素晴らしかったぞい。二人とも、まさか天使と大型魔獣を打ち倒してしまうなんてのう」
「ユダ。何しに来たんだ?」
するとユダはいつものニヤリとした笑みを浮かべながら話し始める。
「そち達が、予想外の健闘をしてしまったので、ここに来たのじゃ。話したいことがあってのう」
すると、幸一はユダの話が終わらないうちに、彼女に詰め寄り、話しかける。
「なあユダ、ちょっとだけいいか?」
「なんじゃ? 幸一殿」
「天使たちが裏切っているという話、どういうことか説明してくれ。彼女たちが、人類を見放し始めた後、どうなったか。俺たちは、どうすればいいのか。お前は、どう感じているのか」
メーリングもその話に食いつく。
「それは私も知りたい。教えてほしいわ」
ユダは、黙りこくり、しばし考える。そして数十秒ほどの時が立ち、ゆっくりと口を開く。
「──わかったぞい」
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