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アストラ帝国編

あなたに、勝ちに来ました

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 シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥぅゥゥ──。




((新しい、力? ))

 二人の脳裏に新しい言葉が浮かんでくる。すぐに気づいた。新しい術式だと。そしてそれがどんな力なのかもすぐに頭の中に入ってくる。

(これでバルトロにどこまで戦えるかわからない。けど──)

(これに賭ける以外、道はないわ)

「まずは、私の力──」


 メーリングは背後に回り、そっと肩に触れる。彼女の巨大な胸がぷにっと当たってしまい幸一はほんのりと顔を赤らめてしまう。



 精なる守護の衣、永遠に輝く力となり降誕せよ
 フォーカルトプリズム・コーリング・シャワー


 すると──。


 シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──。

 幸一に体内に力がみなぎってくるのを感じる。自分の力ではない。メーリングの、優しく、温かみのある力だ。

 そう、自らの体内、尽き欠けていた魔力が再び灯り始めたのだ。

「あなたの力に変えられるみたい。これが私の力よ、私の想い受け取って」

「メーリング、ありがとう」

 幸一の言葉にメーリングは顔を赤くして微笑し始めた。そしてそのまま一言。

「礼には及ばないわ。必ず勝って!」


 彼女の力。それを感じながら、幸一は再び立ち上がる。
 そして一歩一歩前へ歩を進める。

「お前たちの最後の悪あがきってやつか。いいだろう、俺が跡形もなく踏みつぶしてやるよ」

 バルトロも同じように中央に向かって歩く。

 互いの距離が、三メートルほどまで接近したその時──。

 両者は一気に距離を詰め、再び刃を交え戦闘が再開された。

(すごい、さっきよりずっと早い)

 メーリングの術式により彼の魔力も速度も倍以上になっている。
 バルトロは防御に転じることでかろうじて受け止めているが、押されっぱなしで少しでも気を抜いたら魔剣を弾き飛ばされてしまうという。

「やるじゃねぇか。だかまだ甘めぇよ」

 しかし一回後方にバックステップをとった後、再び魔力を入れなおす。

(ここで勝負を決める!)

 幸一はさらに前に出て追撃、一気に剣を振り下ろす。
 バルトロは魔力の供給を上げて幸一の攻撃を受け止める。何とか攻撃を受けきったバルトロは逆に幸一をめがけて魔剣を振り下ろす。

 そのまま床に直撃し大爆発。

「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 アンデラの体から放たれる魔力が一段と大きくなり、瞬時に体を旋回させる。
 同時に横殴りに大鎌をふるい、幸一を押しつぶそうとする。


 押しつぶせ
 アトランティス、ハイドロ・バースト

 しかし──。

 九音なる時空のかなたから、混沌に包まれし世界に光をともすため、よみがえれ!!

 ブレイサ―・ハート・ストーム・スレイシング

 幸一はそれよりも早く、アンデラの懐に入る。彼の足元を大鎌が通り過ぎると当時に彼の剣がアンデラを引き裂く。

 空中でクロスした二人。この一撃に全力を尽くしていたため、受身をうまく取れず、地面に転がり落ちる。

 立ち上がることすらしない。力を使い切った幸一ではここでアンデラが立ち上がったら、どうすることもできないからだ。


 確かめる力がない幸一が勝敗を悟ったのはメーリングのほほ笑んだ顔を見たときだった。

「確かに俺はもう戦えねぇよ。俺はな」

「どういう意味よ!」

「こういうことだよ!」

 アンデラが指をはじく。すると

 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 いきなり上の壁が崩壊したかと思うと、何十メートルほどもあろう巨大な魔獣が出現し始めたのだ。


 グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

 大地を揺らし、この街すべてに届くぐらいの方向を上げる。
 その大きさ、この街のどの建物よりもはるかに高い。

「最強の『ブリューナク』だ。今の貴様たちに、勝てる手だが。果たしてあるのかなぁ~~? まあ、せいぜいあがいて見せろや!」

「まさか、こんな時に超大型魔獣とはな」

 幸一は魔獣を見て、以前死闘を繰り広げた超大型魔獣「トリシューラ」を思い出した。大きさも、あふれ出る魔力も俺と同じくらいだ。


 幸一もさっきまでバルトロと死闘を繰り広げていて戦える余力はほとんど残っていない。
 メーリングに至っては倒れこみ、立つことすらやっとという状況だった。

 以前は青葉が最後に残してくれた力で何とかなったが、その青葉はすでにいない。


(どうしよう。これまでなの?)

 メーリングの心にあきらめの文字が刻まれていく。
 幸一も、何とか立ち向かおうとして入るが、余力がなく、どうすればいいか思考を張り巡らすが答えは出てこない。

 この場全体にあきらめの空気が漂ってきたその時。

「私もいます」

 背後から聞いた事がある声、その声に一つの希望を感じ幸一達はその方向を振り向く。

「なんだ、シモンか。サリアならいないぞ。今更何の用だ」

 バルトロが邪険な笑みを浮かべた先。
 幸一より少し高いくらいの長身、肘くらいまでかかった白髪の女性。

 そう、彼女たちの視線の先にいるのはサリアの天使シモンであった。

「あなたに勝ちに来ました」


「なんだ、笑いでも取りに来たのか? いつも根暗で、指示待ちで、人の顔色ばかりうかがってた貴様がかぁ?」

「はい。確かに、今までの私はそうでした。自ら運命を切り開くことを放棄し、サリアが心を取り乱していてもただ隣にいるだけでした」

「知ってるよ。そんな貴様が今更何の用だ!」

 彼女はバルトロの挑発に全く動じない。おとなしく、はっきりとNOを突き付ける彼女らしい強さ。

「あなたたちやサリアが、自らの運命の鎖を超え、自らの道を切り開こうとしたのを見て、私も戦おうと決めました」


 シモンの体が強く光始める。そして左手をすっと上げる。
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