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アストラ帝国編

メーリングの秘密

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「この場所の狙いは何だ?」

 ルーデルが強い口調で質問するとサリアはそっぽを向きながら言葉を返し始める。

「本来は言えるわけないわ。極秘事項だし、言ったら処罰されるわ」

 そう言うと彼女はルーデル達に背中を向け壁に向かって歩く。そして意味深に壁に貼ってある文字の部分を触れながら話し始める。

「けど私、結構鈍感なところがあって人がいるのにいない追って思いこんじゃう癖があるの。そして思いこんだまま独り言を言ってしまう事があるわ」


 俺はその言葉で彼女のすることを理解した。そもそもそんな命令、従う気はないのだと──。

「ま、早い話ここは人間と天使が出会う役割をしていたらしい──。奥の部屋にそれを現した絵画があるんだ」

「そうよ、人間と天使が互いに手を結ぶ絵があるわ。この遺跡全体からもそういったエネルギーを感じ取ることが出来しね──」

(少なくても俺は感じなかった。サリアに不思議な力でも宿っているのか?)

 その言葉に幸一は疑問に感じる。彼女に何か特別な力があるのか、それとも──。

「昔話は分かったッス。今は何か行っているんッスか?」

「今は実験なんかをしているわ。天使たちの力を制御して人間に植えつけるというものよ──」

「えっ、そんな事をしていたんですか──」

 その言葉にサラが反応する。自身が文官の仕事をしていて、天使の強大な力にもある程度知識はある。

 人間と天使では体のつくりも強さも全く違う。世界を作ったとも言われる強大な天使、その力を人間に注入しても人間の体が耐えられるのか……、サラはその知識をもとに問いかける。

「そんな実験、うまくいくと思っているんですか?」

「そんな簡単にうまくいくわけないだろ。天使たちは人間とは違って絶対的なる存在。天使の力の遺伝子を人間に植えつけた場合、下手をすれば天使の力に体が耐えられなくなったりしたらしい」

「それだけじゃないわ。人間に天使の完全なる心を植えつけようと一時期躍起になっていたこともあったわ。徒労に終わったけど……」

「突っ込みどころだらけッスね。んで……どんな結果になったんッスか?」

「精神が崩壊して使い物にならなくなったんだとよ」

「感情がある人間と絶対的な存在の天使。実験体の脳内で矛盾を起こして発狂者が属しつだって聞いたわ」

 そしてサリアはどこか悲しい表情になる。

「そして湯水のごとく実験体達を消費していったわ」

「だから実験体たちは足りなくなる。事情を知る者がそれを引き受けることは当然ない。そしてたどり着いた結論は何の関係もない子供たちを使うというものだった」

 その言葉に幸一が街で起こっていたあの事件の事を思い出し叫ぶ。

「じゃあ、街で噂になっている人さらいの事件って」

「私も耳にしたけど実験隊の確保のためよ。自分たちが直接手を汚すことが無いよう、配下の末端マフィアを使って拉致して実験体にするの」

「そういうことだったのか」

 考えてみればそうだ。住民の管理などほとんどしていない貧困層の子供ならば多少いなくなってもこの世界では問題にならない。
 彼らが意見したとしても知らん顔をしてしまえばいいし、発覚しても末端のマフィアが悪いと言ってしまえばいい。

「トカゲのしっぽ切りというやつよ」

「まあ、うちの政治家なら自分の不祥事を秘書のせいにしてのがれるなんてよくある話だ。今回もその要領でやったんだろ」

 ハメスがそう言うと周囲も納得する。ルチアやサラ達はこの世界の政治について知っているから不思議がる様子はないし、幸一も元の世界ではそういうこともあった、なのでこの世界でもあるのだろうと考え特に意見は言わなかった。

 全員が一回黙りこくっていると遺跡の奥から意外な人物の声が聞こえ始めた。

「50点よ、確かに何の天使とつながりもない人間ではそうなってしまったわ」

「メーリング!!」



 その声の主にサラが思わず叫ぶ、他の人達も驚愕する。

 サリアとハメスが驚いている、それを見て二人もメーリングがいることは想定していないと幸一は理解する。

「あんた、どうしたの──」

 サリアが目を丸くして驚きながら言葉を返す。するとメーリングはいつもの無表情で冷静な態度で言葉を返す。

「だってサリアは幸一と一緒で天使に選ばれた存在だもの。他の人間は出来なかった、けど彼女なら出来たわ」

 その言葉に周囲は言葉を失う。サリアは黙ってメーリングを睨みつける。

「どういうことよ、そんなこと、言っていいと思ってるの?」

 しかしメーリングはその目線を受けてもびくともしない。

「ここまで禁則事項をベラベラといったなら、そのくらい言ったところでどうってことないでしょう? それにいくら相手に非があるっていたって、自分は秘密をばらすけど自分の秘密をばらされると感情をあらわにして怒るっていうのは筋が通らないんじゃない?」

「……うっ」

 その言葉にサリアは何も言えなくなってしまう。

 この場が凍りつき、沈黙がこの場を包む。
 当の本人のサリアはメーリングを睨みつけているだけ。

 すると沈黙を破ったのはルーデルだった。腕を組みメーリングをじっと見つめながら問いかける。

「つまり、そのサリアという女は天使から選ばれた存在。秘密裏に実験を重ねて強い力を持っている。そう言うことだな?」


「それも50点、正確には私とサリアが天使に選ばれた存在ってことよ──、幸一、あなたのようにね──」


 その言葉にさらにこの場が騒然となる。
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