【完結】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内燕

文字の大きさ
上 下
161 / 221
アストラ帝国編

熱い約束。かならず守る!

しおりを挟む
「うん、シスカちゃんの言う通りハンターの人と出会って話をしていたの。そしたらね──」

ハンターたちは互いに視線を合わせイレーナ達にしゃべり始める。

「最近、この辺りを政府の冒険者の人がよく通りかけるのを見かけるんだ」

「会話をこっそりと聞いてたら、入口がどうとか、精霊体とか実験とかいろいろ出て来たよな」

「ああ、何かいろいろ話していたな──」

その言葉にルーデルが反応する。

「そいつらがどの方向にどこから向かっていくのかを聞いてみた。するとだ」

「街の方から、山のある方向に向かって言ったです」

「シスカちゃんの言葉を信じるとなると、あの林から山に向かっていくと切り立った崖につきあたるはずッスよ」

ルチアは腕を組んであのあたりの地形を思い出す。あのあたりは山へ向かう道は無く切り立った崖に阻まれていたはずだった。

「とりあえずみんなでそこにいってみようよ。何かわかるかもしれないから──」

「そうだね、サラちゃん。他に手掛かりなんてないしね」


イレーナの言葉に周囲に異を唱える者は無く、明日は特にようもないのでそこに行くことになった。


そしてルチアがこの場を去り全員がシャワーを浴びた後、幸一はとあることに気付く。

「サラ、イレーナはどこに行ったの?」

「イレーナちゃんはさっき外に出ていったけど──」

サラのその言葉に幸一は違和感を感じる。イレーナがいなくなって時間が経っているからだ。

(ちょっと心配だな──。見てみるか)

幸一はイレーナの事が心配になり表に出てイレーナを探す。そしてホテルの裏の人通りが無い場所に行くと彼女はいた。

「イ、イレーナ、どうしたの?」

「な、なに幸くん」

ちょこんと体育座りで道端に座りこんでいる。
顔を膨らませ、うつむいているのがわかる。

がっくりとうなだれ肩を下すとかすれたような声で彼女は叫んだ。

「作戦なのはわかってる。でも一緒に入れないのがずっと続いていて──」

(あっ、確かにそうだった──)

幸一がとある事実に気付く。

「胸が苦しいの。幸君ともっといたいって体が叫んでいて、つらいの」

イレーナはそう囁くと涙目になりうつむいてしまう。
彼女の弱気な姿を見て幸一は目をそむけ考えこんでしまう。

今まで初めての潜入捜査、メーリングという強敵が現れた事もありイレーナの事を考える余裕などなかった。

結果、彼女をないがしろにする結果となってしまった。

その事実にようやく気付いた幸一はどうすればいいか悩む。沈黙の流れがこの場を支配し始める。

(どうしようか──)

2~3分ほどすると幸一はイレーナの隣に体育座りで座り始める。

そして頭をなではじめた。

「その──ごめんね。イレーナと話したり、出かけたりすることができなくて」

「幸君──」

イレーナは予想もしなかった行動に顔を真っ赤にしドキドキし始める。

「だから、この作戦が終わったら二人でデートしよう」

「デート!!」

「うん。俺、イレーナの事絶対忘れたりしてないから。大切な人だって今も思っているから!!」

その言葉にイレーナは顔が赤くなり心の底からにっこりと笑みを浮かべ出す。

「あ、ありがとう」

すると幸一はイレーナに接近し両肩に手を置く。
イレーナは顔を真っ赤にして体をフリーズさせてしまう。

そして──。


(……えっ)



ぎゅっ──。


幸一はそのままイレーナを抱きしめる。今の自分の気持ちを表現するように強く体を密着させ、耳元で囁く。


「でも、イレーナへの気持ちは全く変わっていないから。だからこの一件が終わったら、以前みたいにまた付き合おう──」

「──幸君」


そして幸一はいったん体を話しイレーナの手をぎゅっと握る。

互いの指と指が絡み合う通称「恋人つなぎ」。

そして自身の顔をイレーナの顔に接近させ──。


チュッ──。

(……!?)

イレーナの唇にそっと口づけする。予想もしなかった行動しイレーナは思考をフリーズさせ何も考えられなくなってしまう。


「だから、今は我慢して。みんなを救う王女様!!」

幸一がにっこりと笑いながら言う。
その言葉にイレーナははっとする。そして思い出す、自分たちが誰のために戦っているのかを、故郷や自分を慕ってくれた人達、彼らを魔獣から守るためにこうしているのだと。

「ごめんね、幸君。私わがままばっかり言って」

「いいんだ、こっちこそもっとイレーナの事気にかけてあげるべきだった。反省するよ」

「私、頑張るから。幸君も頑張って、それでまた今度デートしよう!!」

イレーナはこぶしを強く握り叫ぶ。幸一はその声にフッと微笑を作り言葉を返す。

「わかった、約束するよ!!」

心の底から叫ぶ。今は出来ないけれどこの任務が終わったら再び恋人関係に戻ると。
熱い約束。必ず守ると誓い二人はホテルに帰って行った。





二日後。幸一はイレーナ、ルチア、ルーデル、シスカ、サラと一緒に郊外の林を歩いていた。

先日噂になっていたこの辺りにある洞窟を見つけるためだ。

広葉樹が生い茂る森、時折シカや野良猫などの野生動物を見かける。
けもの道を周囲に警戒を配りながら幸一達は歩いていく。


「この辺りにあるのか?」

「うん、もう少し歩くと出てくるよ」

イレーナはハンターの証言を再び思い出す。確かこの辺りの事を言っていたはずだと──。

「確かあのあたりだ」

ルーデルが指差した先、それは林の先にある切り立った崖だった。

「確かあのあたりにあるはず……です」

「そうか、わかったよシスカ」

そしてその言葉通り高地たちはけもの道を進み崖の近くまで接近する。すると──。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...