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巨大なる襲撃編
迷子の男の子
しおりを挟むすると──。
「イレーナ。あの子どうしたのかな?」
幸一が視線の先に指をさす。その指先には一人の男の子。
涙目になりながら周囲を見回しキョロキョロしている。もしかしてあの子迷子なのではないかと言う事だとイレーナは理解し心配そうになる。
「幸君、ちょっと行ってみよう」
「そうだね」
イレーナがそう幸一に声をかける。幸一はイレーナを向き優しい微笑を浮かべてイレーナに言葉を返す。そして二人は困っている子供にそっと接近。
「迷子かな? 君、どうしたの?」
幸一が優しくその子供に話しかける。その子供は泣きながら幸一の方を振り向く。
子供はただ涙目になってこっちを見ている、警戒しているかのように。するとイレーナが優しい口調でその子に名はしかける。
「一人で、ここまで来たの。でも帰り道がわかんなくなちゃった」
「ねえ、僕はどこの地区に住んでいるの? 教えてくれれば一緒にそこまで連れて行くからさ」
その少年はイレーナの言葉に反応しゆっくりと泣きやむ。そして南の方向をゆっくりと指差す。
「あっちの方向ってこと?」
イレーナの質問にその子供はそっと首を縦に振る。そして幸一とイレーナが再び顔を見合わせる。
「一緒に行こう。俺達が送って言ってあげるよ」
その言葉に子供は顔を上げる。そしてイレーナに向って手を差し出す。イレーナはその手をぎゅっと握ってゆっくりと歩き始める。
「南って言ってもどのあたりかわからないの?」
「ずっと歩いてきた。だからこの辺りは良くわかんない」
その言葉に困り果てるイレーナ。この街ネウストリアは南側には住宅街が広がっていてとても今日中に歩きまわれる距離ではない。
幸一もそれは理解していて何とかおおよその場所が特定できないか腕を組んで考える。
そして二~三分考えた末に一つの質問をする。
「じゃあ君の家の周りに特徴がある建物なんかない? 変わった家があるとか、大きな公園とか」
少年は首をかしげながら記憶を思い出させる。
「たしか、教会があった」
「そ、それはどんな教会? 色とか大きさはわかる?」
確かに教会は目印の一つになるがこの街では教会はいくつも存在する。それではどのあたりにすんでいるのか特定できない。
「大きさとか、色とか、周りに何があるとかわかる?」
イレーナの質問に少年は何とか教会の特徴を思い出そうとする。そしてゆっくりと二人にそれを話す。
「確か、煉瓦で出来ていて、周りは家に囲まれている。確か最近出来た家に取り囲まれているみたい」
その言葉を聞いて幸一は軽く頭を抱える、しかしそれだけでは場所は特定できない。他に分かりやすい特徴は無いのか。それでもその場所を聞いたイレーナは一つの場所を思いつく。
「もしかしたらガロス地区かもしれない。そこまで行ってみる?」
「もしかしたらってことは絶対ではないけどそこの可能性が高いってこと?」
「うん、あのあたりは確か地方から人口が流入してきてその人たちの住居が増えているの。もしかしたらそのあたりかもしれない。前に市民からその地区の教会の周りに移民たちの家が立ち並んでいて景観が悪くなったって声が届いていたから。」
イレーナには自信があった。彼女は普段からよく街に出たりして市民の声を聞いていた。その中で聞いた声の一つを今思い出したのであった。
普段から市民達の声を聞いているイレーナだからこそたどり着いた結論であった。
それに彼から聞き出せた情報はこれだけ、他に行くあてなど無くこの情報を頼りに道を進んでいくしか選択肢はなかった。
そしてそれを頼りに三人は再び出発する。
「そう言えば名前は?」
「ロム」
「ロム君か、じゃあいっしょ行こうか」
ロムが首を縦に振り道を進み始める。にぎやかな繁華街、一般人が住む物静かな街並み、風情あるネウストリアの街並みを手をつなぎながら進んでいく。
30分ほど歩くと噴水のあるにぎやかな公園にたどり着く、目的の場所まであと半分と言ったところ。
「ちょっと疲れちゃったし休憩しようか──。ちょっとそこの露店でパフェ買ってくるね~~」
イレーナがノリノリな気分でその露店に行く。確かに歩き疲れたというのもあるが半分はおいしそうなパフェの店があったからと言うのが半分だろう。
幸一とロムは目に前にある石で出来たベンチに腰掛けた。そして幸一がロムに話しかける
「君、生まれはここだったの? それとも違う場所?」
「生まれはここじゃない。別の場所、でもまだ小さかったから何も覚えていない。いつももめ事が起きていてある日両親がもうここから抜け出すって言ってこの場所にやってきた」
「ああ、そうなのか……」
その言葉に幸一は複雑な気持ちになる。
恐らく地方は経済状況が良くない、その上治安も悪く街の中で内乱やもめ事も多いのだろう。そしてここでは生活できないと判断し比較的治安もよく安定しているネウストリアに来たのだと予想する。
彼らのために自分が何かできることはないか、彼の隣で考える幸一。すると──。
「幸君、ロム。買って来たよ~~」
イレーナが好きそうなクリームがたっぷり入ったパフェ、しかし今回はいつも買っているパフェと違ってチョコクリームを使ったパフェ。
イレーナはそのパフェをおいしそうに食べる。満面の笑み。
幸一も一口食べてみる。チョコの苦みが程良く効いていてとてもおいしいと感じた。
「おいしいものも食べたし出発しようか」
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