上 下
121 / 221
ウェレン編

でも、私だって闘わなきゃ

しおりを挟む
怒りの感情が彼女の胸の中を煮えたぎらせる。幸一を見ながら、憔悴しきった目で訴える。
 自らの恵まれない過去を思い出しながら──。

「どういうことだ?」


「結局私らはまともに生きる道なんてなかった……」


 利用され、消耗品のように使い倒され結局は悪の道に走るしかなかった。そんな人生を呪い始める。貴様たちのように才能にも恵まれず王女として、勇者として生きることもできなかった、貴様たちに私に何がわかるのかと──。



「そんなことない!! 私だって最初っからそんな道を選べたわけじゃない」

 強気な口調でイレーナが反論する。

 王家の血を引いているわけではないので王権を継ぐことは出来ず父親からは忌み子のように扱われた。それでもイレーナは曲がったりせずにまっすぐに苦しみながら生きてきた。だから今のイレーナがある。



「つまり、私があんたの立場に立っても、あんたが私の立場に生まれても同じ結果に生まれたって事かい」

「そうだな。イレーナならどんなことがあってもお前みたいにはならなかった。ずっとイレーナといた俺なら、それがわかる」


 そう言いながらイレーナの手を握る。互いに見つめ合い顔がほんのりと赤くなる。ペドロはその言葉を聞いて悟る。自分が負けたのは自明の理なのだと。

「フッ、二人には負けたよ。私はスキにしな──。だが肝心なことを忘れているよ」

「えっ──?」


「レイカだよ。あんたたちに力を与えた代償は、大きかったみたいだね──」


 そう言いながらペドロは後方に視線を向ける。経験深い彼女にはレイカがやったことの代償が理解できていた。慌てて幸一とイレーナも彼女に視線を向ける。

 すると──。


「レイカ──、大丈夫か?」


 ぐったりと倒れているレイカの姿がそこにあった。二人が慌ててレイカに駆け寄る。
 そしてレイカの顔つきを見て事態の深刻さに気付く。


 ハァ──、ハァ──。


 レイカの息が荒い。恐らく大きく魔力を消耗した上になけなしの魔力を幸一とイレーナに供給していた。その影響が彼女を襲っているのだろう。

「レイカ? 大丈夫?」

「しっかりして!!」

 二人の呼びかけに返事どころか反応もしない。
 目がうつろになり生気が消えていくのを感じた。最悪の結果が二人の脳裏によぎり焦り始める。




(このままじゃレイカは……、どうすれば──。そうか!!)

 そして幸一は背後にいる初語龍に振り向く。

「初語龍、力を貸してくれ。世界を作った龍なんだろ、イレーナと関係があるんだろ」

「お願い、レイカを救って。力を貸して!!」


 すると後ろに見守るように存在していた龍がその声に答え始める。




 グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ──!!






 初語龍が雄たけびを上げる。するとその肉体が光り始めた。淡い白い光で力強くどこか温かみを感じる光、そしてその光は龍からレイカの体に移動する。


 するとレイカの身体に魔力が灯り始める。彼女の体力が回復し出し意識が回復し始めた。
 おぼろげながらにレイカが目を開ける。

「イレーナ……、幸一──」

「レイカ──!!」



 意識が戻ったレイカを見て二人はほっとし笑みを見せ始める。
 すぐにここから抜け出すため幸一が背中に彼女をおぶう体勢になる。歩いてここを出るのは難しいと感じたためだ。

「そう言えば初語龍はこの後どうなるんだ?」

「初語龍はイレーナ様について回っています。これからもそうなるでしょう。あなたたちが行きづまった時、その想いを叫んで読んでください。きっと二人に力を貸してくれるでしょう」

 アーネルがそう答えると再び頭を下げた。
 急ぐように幸一達はこの場を出ていく。ペドロに戦う意思も力もない、そんな決着がついた形で──。











 幸一達が死闘を繰り広げているころ。
 街の郊外。針葉樹の森が生い茂るこの森に一人の少女。


 森の木々は小枝だったようにバキバキに折れ、所々から火が吹いている。
 ここは今、戦場と化している。

「まじかで見るとますます強く見えるわね。本当に強そう」


 青葉であった。強大な魔獣「ギガース」と相対しながら感じていた。
 50メートルはあろう巨体。漆黒の肉体は不気味さ、強大さをとても象徴している。

 他の冒険者や兵士達は街で魔王軍の残党と戦っているか負傷により病院で手当てを受けていてここにはいない。

 青葉がそう指示したのである。

(私の実力じゃ、とても彼らを守るなんて出来ない。悔しいけれど例え勝っても周りを見ることまでは手が回らないと思う)

 彼女はイレーナや幸一に比べれば爆発的な威力で戦うことは出来ない。
 いつもはどちらかと言うと裏方で活躍するタイプであった。

 どうしたって単純な実力で二人に劣るのは理解していた。
 しかし二人はいまペドロ達と必死になって戦っているはず。二人が戦っている今彼女以外に大型魔獣と戦えるのは青葉しかいない。
 いつまでも二人ばっかりに任せているわけにはいかない。

 そんな決意を青葉は胸にここにいる。

「でも、私だって闘わなきゃ」

 ぎゅっ──。

 握りこぶしをしながらに囁き。身体はわずかに震えている。
 怖くない──、と言えばうそになる。

(怖くない……。わけないでしょこんな敵。初めてよ──、手がこんなに震えているのは。でも幸君だって、イレーナだって、立ち向かって来た。こんな強い敵に)


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))  書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

処理中です...