上 下
118 / 221
ウェレン編

アリーツェ私、本当にごめん……

しおりを挟む
 イレーナが自身の体に魔力を込める、するとそれに反応したかのように壁画に強力な魔力がともり始める。


 グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

 大きな叫び声とともに壁画が光り始める。それはさっきよりはるかに強い光。そしてその強い光の理由がイレーナには理解できた。

 グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

 その光がイレーナに向っていき、彼女を包み込む。光が包みこんだ瞬間、イレーナは感じ始める。龍が自分に強く反応していると。レイカを救いたいと言う想いに──。

 脳裏に一つの術式が浮かび始める

 イレーナが龍の強い力に答えようとする。それはレイカを救うために力だと本能で感じる。

(私の想いと、反応してる。お願い、レイカを救うために、答えて!!)


 その想い、懸け橋となって響かせよ。

「ラポール・オブ・スターライト・ハート」



 シュァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!

 精一杯の力での詠唱。イレーナの体が強く光り出す。



 イレーナの叫びそれに反応するようにレイカの体から紫色の縞模様が蒸発するように消えていく……


「な、何ィィィィィィィ」

 驚愕するレイカに向かってイレーナが叫ぶ。彼女の心の底に届くように。

「レイカ、思い出して。私やアリーツェの事心の底でわかっているでしょう……。あいつとどっちを大切にすべきか」

「うっ、うっ、うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 レイカは発狂したように叫び、頭を抱えながらパニックになる。
 ペドロが与えたイレーナたちへの負の感情、そして初語龍が与えるそれを打ち消し本来の感情をとり戻る力。それが頭の中でぐるぐると渦を巻いている。

「神を裏切った、イレーナとその家族を、殺せぇぇぇぇぇ」



「敵であるお前が、私の何がわかるうぅぅぅう。全てを失った私の何が分かる!!!!」


 レイカは傷だらけの手で頭を抱えながら必死に叫ぶ。


 イレーナは彼女の姿を見てさらに訴えかけるように叫ぶ。

 イレーナの問いにレイカは発狂して叫ぶ。頭の中が大混乱しぐちゃぐちゃになる。


「グワ……、グァァァァァァァ」

 レイカが本来持っていたイレーナへの想いとみんなのために戦いたいと言う誓い。それとペドロによって植えつけられたイレーナへの憎しみ破壊への衝動。

 そう反する要求に頭の中がごちゃごちゃになりどうすれば分からなくなって頭を抱えかがみこみただ叫ぶ。

「しかたない、戦うしかない──か」

 それを見た幸一。
 レイカを信じるしかない。しかしこちらも何もせず手をこまねいているわけにはいかない。
 幸一はすぐにペドロへの間合いを詰めていく。
 イレーナとともに──。


「行くよイレーナ」

「うん」

 スッ──。


 イレーナが左から、幸一が右から一気に接近する。しかしペドロは動じない。

(常に最悪の状況を想定して行動する。私は常にそうして生きてきた)



 二人はペドロに同時に攻撃を仕掛けるが──。


(そんな攻撃、効かないよ!!)

 その攻撃はあっさり対応される。二人でバラバラに対応してもダメだと感じた二人は一端後方に下がる。




 願いをとどかせし力、逆縁を乗り越え、踏み越えし力現出せよ

 バーニング・ブレイブ・ネレイデス






 ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!

 幸一が術式を発動させ周囲から青い炎が強く吹きあがる。
 その炎が素早い速度で進んでいき上下左右からペドロに襲い掛かる。


(その程度、今の私にはお遊戯だよ!!)

 ズバァァァァァァァァァァァァ!!

 無数に向ってくる白い炎をペドロは容易く薙ぎ払う。
 しかしイレーナはそのスキに一気に接近していた。

 自身の剣を構えたまま幸一の攻撃をギリギリで駆け抜け寸前で飛び上がる。

「危ないねぇ──」

 ペドロはイレーナの攻撃を容易く受け止める。剣同士が激しくぶつかり合い火花が飛び散る。
 イレーナはそのままひるむことなく攻撃を続行。攻撃を連続で見舞う。とっさに身体を入れ替えるようにペドロが体勢を変える。

 そして背後に回ってイレーナに上から切りかかる。
 イレーナは背後に飛んで間一髪でそれをかわす。その瞬間。

 ドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!



 幸一の攻撃がペドロに直撃。 瞬時に体勢を変え直撃を防ぐ。


 レナが思い出したのは冬至の日に聞いた一つの言葉。

「人々が文明を 時には神を忘れることもあるでしょう。しかしどんな時も忘れてはいけません、慈悲の精神も、寛容なる心も──」

 涙が溢れ出して止まらない。

「アリーツェ私、本当にごめん……」

 本心の片隅では理解していた。
 いつも過激派からは政府の犬とののしられ、政府の前では過激派に忖度する犯罪者と怒鳴られ板挟みになり頭を抱え苦しんでいるアリーツェの姿。
 どうして自らを否定するものに慈悲を与えるのか。


 傍らで彼女は疑問を呈していた。
 優しさを弱さだとしかとらえない奴らには彼女の慈悲の精神を決して理解することは無いだろう。

 全く意味のない行為。


 しかしそれでもアリーツェがその心を持った理由、それが理解出来た気がした。アリーツェが優しい心を捨ててしまったら、そうすれば一般人を巻き込みかねない悲惨な戦いになりかねない。誰かがこの悲しみの連鎖を止めなければならない。

 汚名を言われながらそれを行うことは剣を取ることよりも勇気がいるだろう。


 今の自分がそうだった。命を省みず怒りのままに周囲を巻き込み本来味方だった幸一とイレーナまで気づつけている。

 そして心の中で囁く。


「アリーツェ……、私何もわかってなかった。本当にごめんなさい──」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界転生 剣と魔術の世界

小沢アキラ
ファンタジー
 普通の高校生《水樹和也》は、登山の最中に起きた不慮の事故に巻き込まれてしまい、崖から転落してしまった。  目を覚ますと、そこは自分がいた世界とは全く異なる世界だった。  人間と獣人族が暮らす世界《人界》へ降り立ってしまった和也は、元の世界に帰るために、人界の創造主とされる《創世神》が眠る中都へ旅立つ決意をする。  全三部構成の長編異世界転生物語。

処理中です...