【完結】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内燕

文字の大きさ
上 下
90 / 221
サヴィンビ編

イレーナの再挑戦

しおりを挟む
青葉の囁き通りみんながイレーナの言葉を信じ食事に入る。
 焼き魚とパン、サラダにミルクティーといったシンプルな内容だった。
 そこに調べ物をしていたサラも入ってきて食事に入る。

「いただきまーす」


 そしてイレーナが作った料理を幸一達が召し上がることになった。幸一がその料理を口に入れる、その味は……。


「うっ……、何これ──」

 その料理の衝撃に幸一は思わず絶句する。

 味自体は問題ない。しかしとにかく生臭い、魚の嫌なにおいが消されていなくてそのまま残っている。試しに周りの反応も見てみたのだが──。

「変なにおい──」

「これ、どっかおかしいでしょ」

 青葉とイレーナもけげんな表情をする。イレーナも困った表情をする。

「あれ? 何でこんな味なの? ちゃんと味付けとかも間違えなかったはずなのに……」

 困惑し戸惑うイレーナ。幸一も口にはしないまでも口が進まない。

(初めてだ、一口食べただけで吐き気を催したのは……)

「これ何の魚?」

「ええっと──、確かヒメマスの一種だった気がする」

 サラの質問、その種類を聞いて青葉は愕然としうなだれながら一つ問いただす。

「イレーナちゃん、一応聞いてみるけど血抜きってしたの?」

「血抜き?」

 イレーナはその青葉の言葉に首をかしげて頭に?マークを浮かべる。
 その表情から血抜きを知らないと悟ったサラが血抜きについてイレーナに教える。血抜きとは調理の際に釣った魚の身体から血を抜くことである。それをしないと魚のにおいが身に移ってしまい、生臭くなってしまったり味が落ちてしまう。なのでヒメマスのようににおいの強い魚は血抜きをしなければならなかったのだが──。

「えぇぇぇぇっ? そんなの知らなかった~~」

 涙目になりながら叫ぶイレーナ。周りはあきれ果て始める。
 青葉は苦笑いをしながら呆れた表情をする。

「もういいわ、イレーナちゃんの料理に対するセンスに期待した私がバカだったわ。
 私の人生の中で一番まずい飯だわこれ──」

「そ、そ、そんな~~」

「まあいいわ、だって豚が空を飛べなくて豚を責める人なんていないじゃない? そういうこと」

(ううぅぅ──)

 青葉の言葉がイレーナの心にナイフのようにぎすぎすと突き刺さる。
 しかし実際にまずい料理を作ってしまったイレーナは何も言い返せずただ黙っているしかなかった。

 サラもあまりのまずさに二口目が入らない。言葉こそ発していないがサラもまずいと感じていたのは明らかだった。

 すると一人の人物が立ち上がる。そしてあまった材料や調理器具を見ながら思考し始める。

 ニウレレだった。そして彼は包丁を手に取り調理を始め出す。

「まあ、何とか出来そうだな」

 そこにあるのはイレーナが使った後のあまりモノでありお世辞にもまともな料理が作れるような状態ではなかった。

「これ、料理できるの? 私買って来ましょうか? 今なら何とか空いている店もありそうだし」

「いいよ、みんな食料に困っているんだ。俺達だけそんな贅沢はしたくない、そうだろ」

 幸一は街の人達が物資が不足して困っている様子を思い出し納得する。

「まあそうだな、俺達だけ贅沢するってのは気が引けるな」

「確かに、そうです」

 発言権のないイレーナ、ただうなずく。少しでも力になればとニウレレの調理の手伝いもする。

 余りモノや安いありきたりな食材ばかりであったが、ニウレレは経験から食材達の風味や味を思い出し調理していく。

 30分もすると料理は完成する。

 完成した料理をみんなで食べ始める。

「あんたいいとこあるじゃない。見なおしたわ」

 料理を食べ始めた青葉が驚いた表情をしながら開口一番に囁く。

「当り前だよ。具材を見ていた瞬間からどうすればいいかイメージはわいていたからね」

 専属の料理人であった。確かに彼は接客向きな性格ではなくいい加減で適当な性格だった。 だが彼は彼にしかない物を持っていた。

「あ、ありがとうございます──」

 イレーナが頭を下げる。


「いいんだ、イレーナだっけ。この街の事よろしく頼むよ」

 それでも生まれ育ったこの街を何とかしてほしい。そんな想いでニウレレはイレーナに頼みこむ。

 イレーナは彼の想いを感じ首を縦に振る。

「わかりました。わたし、絶対にこの街を守り抜きます」

 例え気が合わない部分があっても同じ思いを共有している。気が合わない部分があっても、争うことがあっても育っていったこの街を守り抜きたいと言う強い願い。
 イレーナはニウレレの言葉からそんなことを感じ取る。
 そして決意を堅くする。この街を絶対に守り抜くと──。

 食事が終わり、別れの時間になる。イレーナが再び頭を下げ礼を言う。

「あの、ありがとうございます。料理、とってもおいしかったです」

「こちらこそよろしくな、街、守ってくれよな」

「わかりました、その想い。私たちが守ってみせます」

 彼らしいぶっきらぼうな物言いではあったが気持ちは伝わっていた。幸一はそう感じ彼に手を差し出す。二人は強く握手をする。そしてこの場を去っていく。

 性格、やり方、方法、生まれた場所が違ってもこの街のために尽くすという心は一緒だと感じながら──。







 食事を終えて部屋に戻った幸一やルトたち5人。すると侍女が現れて青葉宛に手紙が渡される。

「手紙? 誰から?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...