上 下
89 / 221
サヴィンビ編

それぞれの決意、そしてイレーナの再挑戦

しおりを挟む
「青葉、そこにいたのか──、やっぱり気にしていたんだな」

 青葉だった、そしてそこに幸一がやってくる。笑みを浮かべてはいたがどこか作り笑いに見える。恐らく考えていたのだろう、自分たちが良かれと思ってやったことが結果的に争いの火種になってしまっていたのだから。

 何とか青葉を元気づけようと星を見上げながら言葉をかける。

「まあ、思いが伝わらなくってうまくいかないっているのはどこだってあるよ」

「慰めてくれて……、ありがとう。どうしようかな? みんなのためにってやったのに、あんな結果になっちゃった──」

 いつもの陽気なそぶりとはうって変わって引きつった表情。それを見た幸一は少し考える、そして青葉の方を向き言葉をかける。

「それでもやるしかない、かな。みんなの声を聞いて次はやる。それしかないと思う」

「出来ると思う、今日みんなとあってなんかそう感じた、何とかしようっていう気持ちがあるのは理解できた。だから今度は絶対力になろう。俺もいるからさ」

「そうね、みんなこの状況を何とか良くしようっていうのは伝わっているもの、私だって落ち込んでなんかいられないわ。幸君だってみんなの前で負けてもこうして励ましてくれるんだし」

 そうしてにこっと笑いながら青葉は幸一の腕をぎゅっとつかむ。幸一は突然の行動に驚き顔を赤くする。

「えーー?? ちょっと、やめてよ」

「いいじゃん、特別特別~~」

 無邪気な二人のやりとり。
 少しだけ元気を取り戻す青葉。幸一もその姿に少し元気を取り戻す。
 確かにすべてがうまくいっているわけではない、しかしみんなの望む方向は変わらない。

 あとはどうやって摩擦を起こさずに同じ道に歩いていくか、幸一達の戦いは続く──。






 同じ夜、雲ひとつない星空を見ながら一人のゴブリンの男性が思いつめていた。

(俺は、どうすればいいんだ?)

 世界最強ともいえる敵を相手に一歩も引かずに最後まで戦っていた。確かに敗れはしたもののあそこまでマンネルへイムを追い詰めた。
 その姿を思い出しながら今までの自分と対比する。


 国防大臣と言う名の下政府の言う事を何でも聞く犬となり民間人を弾圧し人々を苦しめる肩棒を担いでいる。

 国家のトップである父親の手駒。

「俺は……」

 かつて留学先で会ったこともある青葉にも合わす顔がない。決断を迫られていた。故郷のために、自分がどうするべきか──。




 さらにもう一人──。決意を固めた少女が一人。



 両手で握りこぶしを作り食材をまじまじと眺めながら一人の少女が心の中で叫ぶ。

(前回は失敗しちゃったけど、今回は絶対成功させる!!)

 イレーナであった。今日の夕飯はイレーナが作るとすでに宣言していた。幸一、青葉、サラの三人とも先日のパスタの一件からいい顔をしなかったがイレーナが今度は失敗しないという宣言の元許可を得てイレーナが料理を作る事となった。

「今回は、絶対頑張る。おいしい料理、作って幸君にごちそうする!!」

 前回はパスタを作って失敗してしまった。なので今回は何としてもおいしい料理を作ると心に誓い料理に取り掛かる。

 流石に王都ネウストリアに比べると材料の質は落ちてしまうが今日食べる食料ですら困っているここで食材に文句は言ってられない。

 前回は疲労のため居眠りをしパスタを餅のようにしてしまったイレーナ。今度こそは、今度こそは成功させるとの決意を胸に料理が始まった。

「待ってて幸君、私おいしい料理作るから!!」

 今回は魚を作った料理であった。料理の専門書を見ながら慎重に魚を裁いていく。
 自分の手を切らないようにゆっくりと魚に切れ目を入れて内臓を取り除く。

(うん、何とか出来た──)

 集中し額の汗をぬぐうイレーナ。
 少し時間がかかったが目立ったトラブルは無く成功。他の調理にも取り掛かる。

(まだまだ油断は出来ない。頑張れ私!!)

 パンやサラダなどの調理も難なく成功。イレーナの中で心が躍り始める。

「今回は、出来たやったーー」



 そして出来た料理をまじまじと眺める。
 にっこりと喜びの表情になりながら盛り付けを始める

 盛り付けも特に難なく成功。今回は大成功という結果。イレーナは心の中で叫ぶ。

(幸君、みんな。今回は良く出来たよ。待っててね!!)






 そして幸一と青葉が部屋に帰ってきた。イレーナが今回は自分が手料理を作ったこと、そしてそれがうまく行った事を高いテンションで報告する。

「イレーナちゃんの料理、喜んで……いいの?」


 前回の末路を思い出しうなだれる青葉。しかしイレーナは自信を持って即答する。

「喜んでいいんだよ、今回はおいしいから!!」

「期待して──いいの?」

「大丈夫、失敗とかしてないよ」

「わかった、イレーナちゃん、信じるよ──」

 青葉の囁き通りみんながイレーナの言葉を信じ食事に入る。
 焼き魚とパン、サラダにミルクティーといったシンプルな内容だった。
 そこに調べ物をしていたサラも入ってきて食事に入る。

「いただきまーす」


 そしてイレーナが作った料理を幸一達が召し上がることになった。幸一がその料理を口に入れる、その味は……。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

処理中です...