上 下
74 / 221
サヴィンビ編

サヴィンビへ

しおりを挟む

 大型馬車で幸一は次の魔王軍の襲撃先である南方のサヴィンビへと馬車で向かっていった。
 先日大聖堂の真実の焔。そこでは今度の襲撃は王都のネウストリアではなく地方都市のサヴィンビであると記された。
 そこは地方の貴族達が実権を握っていて中央政府の力が及んでいない。そのため襲撃の前に他地方の冒険者の受け入れや作戦などを行う必要があるため幸一、イレーナ、サラ、青葉がこうして先行して向かっているのであった。


 王都のネウストリアを出発した幸一達。馬車で南下する事丸三日。

 景色は草原地帯や穀倉地帯から徐々にうっそうとしたジャングル地帯に進んでいく。
 道も今までの様な整備された道から徐々に狭くて分かりずらいものになっていく。


「ここからがジャングルね」

 青葉の言葉通りここから先は樹海のようにうっそうとしたジャングルが広がっている地帯に入る。
 道もよくないらしく遭難することもあると評判になっている。

 なので道に詳しい政府直轄の案内人を紹介してもらいその人物に道案内をさせてもらう事となった。
 三人のオークの案内人であった。

 馬車の先頭の席には三人ほどのオークの案内役がいる。両端に座っている二人の若くて背が高いオーク。

 そして中年でひげを蓄えた小太りのゴブリンの男性ニウレレがさっきから地図を見たり隣にいるオークに指示を出したりしている、そのそぶりを見るに彼が案内役のリーダーなのであろう。

 途中動物にも出くわす、シカ、トラ、ヒョウなど。時々威嚇されることはあったが幸一が剣を出して追い払う。



 その中問題はすでに起きていた。それも結構深刻なことが──。

「この辺りをキャンプ地にしましょう」

 日も暮れすっかり真っ暗になったジャングル。これ以上進むのは危険と考え彼らはここで一夜を過ごす事となった。

 そこはジャングルの中にある小さな湖のほとり。何も無い原っぱ。
 案内人の若い人が後ろからテントを取り出してセットしようとする。それを見た幸一、青葉、イレーナ、サラが手伝う。

「おまえさぁ、さっきからテントを立てるわけでもなく一人湖のほとりで座って休んだだけだよな」

 ニウレレ、ここまで移動をしている時もおかしをむさぼり食っていてやっている事と言えば部下の二人に適当に指示をするだけ。キャンプを立てる時も俺はともかく青葉やサラまで手伝っていたのにこいつはあくびをしながら湖のほとりにいて何をするでもなく休んでいただけだった。


「おまけにあの部下二人に聞いたら今移動の予定が50キロ遅れているそうじゃないか」

 幸一が不機嫌な顔で問い詰める。今の一番の問題点がそれだった。ジャングルの道が予想以上に悪路で馬車の進みが遅く結果的に予定どうりに進まない状態になってしまったのであった。

 サラも心配らしく深刻そうな表情で話しかける。



「そうですよ、大丈夫ですか? 食糧とか──」

「大丈夫ですよ、僕はちゃんとした綿密なスケジュールを組んでいますから」

「その綿密なスケジュールが今日どれだけずれたと思っているんだよ!!20kmずれているんだぞ初日で!!」

 幸一がにらみながらニウレレに詰め寄る。
 そう、本来の目的はこの先の山道に入るふもとのキャンプ地であったが悪路のため思うように進まず結局予定通りに進まずこの場所で一夜を過ごすことになってしまったのであった。

50km



「それが出来ないから私達はこんなに工程が遅れているんでしょ。本当に大丈夫なの?」

 青葉も呆れた表情で腰に手を与えながら詰め寄って話しかける。

「大丈夫ですよ。道は間違いなく進んでいるのですから。あと明日行く予定だった道、変えます。これで少しは縮むはずです」

 そしてニウレレはその理由を自慢げに話し始める。

「これから行こうとしていた世界国道425号線何ですけどね、これは山道なんだけどね、いまサラさんや後輩の案内人の人が言うには、危ない道らしいのよ」

 その重要さから一つの国だけでなく国際的に整備が進められている国道。
 その名も世界国道──。

 そしてこれから幸一達が行こうとしている世界国道425号線、そこにはとある秘密があった。

「この世界国道425号線はね、国道の中でもとっても危険がいっぱいな道なんですよ」

 と言って彼は説明を始める。

 この道は山の中をうねうねしていて道が大型馬車がやっと一台通れるくらいの広さしかなく中には断崖絶壁になっている個所も多い。



 ひどいと道に落石があって進めない時もあるらしく地元に人たちからは危ない道だと恐れられていると言う。なので時間を取られる。回り道をした方が安全なうえに時間も早く着くと部下から説明を受けたようだ。


 さらにニウレレは自慢げに語り始める

「やっぱり僕くらいに器の大きい人間になるとね、部下に対しての度量の大きさがちがうのよ」

「僕は戦術にはこだわらないからね、それにこだわってしまうと後輩たちを道を誤った方向に進みかねないのよ。
 だから良い案があれば下々の者であっても採用するよ。
 それによってね、後輩たちが自分たちで考えるようになるのよ。そして後輩たちが育っていく。これが大事なのよ」

 自信満々な表情でのしゃべり、それにあきれた表情で淡々と幸一は言葉を返し始める。

「つまりお前が選んだ道を行っていたら道は危ないわ距離は遠いわで大失敗していたってことだろう。そう言うことでしょ、君が行こうとしていた世界国道425号線っていうのは」
 それを調べたよね、調べたらすぐ判断を変えたね」

「調べたのは私何だけど~~」

 青葉がジト目で反論する。その言葉にニウレレが動揺し始める。

「調べたのは青葉だろ、青葉とお前の部下が街を回って現地人に聞いて調べたんだろ。お前はボンクラだから何も考えずにそのまま行こうとしてたろ」

「だから僕は判断を変えたんですよ」

「それは普通の案内人だ、それで無理矢理その道を行ったらお前はただのバカだ!!」

「そうだね、だから僕は馬鹿じゃないでしょ」

「ああ、確かのその通りだ。でも普通の案内人は事前に道を調べてくるんはずだろう、そしてすでにここに来るころには安全な道を選んでいてあんな悪路は選ばない。だからお前は普通以下の案内人だ」

 幸一の鋭い突っ込みにニウレレはかなり動揺しているようで視線を泳がせ額に汗をかいている。

 話は昼ご飯を食べている時にさかのぼる。ニウレレがふいにこの先のルートを打ち明けている時だった。

 ニウレレが自信気に地図を開いて今日はこのルートを通ると言い出した所から話は始める。

「それでサラが何かを思い出したように訴えてきたんだ。この道は危ないって」

「それでちょっと自分が責められるんじゃないかって焦っていたのは覚えているわ」

 青葉と幸一の言葉は正論だ。その後、青葉とニウレレの部下二人が現地人に聞いて今自分達が行こうとしている道が危ない道だとわかり急きょ道を変更したのであった。

 青葉がその道について簡単に一言。

「つまりね、幸君の世界の言葉で言うと国道の字が違うの、酷って字なのよ。酷道」


 それで偉そうに部下に向かって地図を持ってこいと指示をする。この時代のそこまで正確ではない地図を見て、それもまた指を使ってもう一つの安全な道の距離を測り、そして理解する。

「二十一……四十二……あっ、こっちのがいいって指を使って図ってさぁ……、断言するけど絶対計算狂うわ──、あの道も結構悪路だって言うし。っていうかすでにスケジュール遅れてるのよ。このままじゃ絶対半日、下手したら丸一日遅れることになるわね」

 ため息交じりで青葉がつぶやく。そしてこのままだと遅れてしまうことも伝える。
 しかしニウレレはどうにもその言葉が納得がいかないようで──。

「う~~ん、いけそうな気がするけどなぁ」

「確かに予定、大幅に遅れて到着になりますね……」

 サラのつぶやき。それにニウレレはあきらめが悪く囁く。

「なんかこう全員がパニック状態になって何が何やらわからないうちに目的地に、着いている……みたいな」

 その言葉に全員が驚愕する、そして以前にもあったことがある青葉は頭を抱えながらつぶやく。

「おかしいって思うでしょ? この人いつもこうなの」

「それって、火事場の馬鹿力ってことですか?」

「そう、それ!!」

 サラのその言葉に急に元気を取り戻すニウレレ。

 ガクッとうなだれる全員。この後青葉と幸一の突っ込み祭りになったことは言うまでもなかった。しかし騒いだところで結果が変わるわけでもない。

 結局幸一達は予定が遅れることを認識し予定を立て直す。
 そんなやりとりをしながら一夜を過ごす事となった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない

丙 あかり
ファンタジー
 ハミルトン侯爵家のアリスはレノワール王国でも有数の優秀な魔法士で、王立学園卒業後には婚約者である王太子との結婚が決まっていた。  しかし、王立学園の卒業記念パーティーの日、アリスは王太子から婚約破棄を言い渡される。  王太子が寵愛する伯爵令嬢にアリスが嫌がらせをし、さらに魔法士としては禁忌である『魔法を使用した通貨偽造』という理由で。    身に覚えがないと言うアリスの言葉に王太子は耳を貸さず、国外追放を言い渡す。    翌日、アリスは実父を頼って隣国・グランディエ帝国へ出発。  パーティーでアリスを助けてくれた帝国の貴族・エリックも何故か同行することに。  祖父のハミルトン侯爵は爵位を返上して王都から姿を消した。  アリスを追い出せたと喜ぶ王太子だが、激怒した国王に吹っ飛ばされた。  「この馬鹿息子が!お前は帝国を敵にまわすつもりか!!」    一方、帝国で仰々しく迎えられて困惑するアリスは告げられるのだった。   「さあ、貴女のお父君ーー皇帝陛下のもとへお連れ致しますよ、お姫様」と。 ****** 週3日更新です。  

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

処理中です...