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完成、そしてイレーナの心意気

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 それを横からニヤニヤしてジト目で青葉が見つめる。幸一とイレーナはその視線に気づきながらも恥ずかしさをこらえて何とかカボチャを切り終えたのだった。

(幸君にぎゅって……、こんなの初めて──)

(やっべ、つい抱きついちゃった──、何か気まずい……)

 その間、サラは肉や野菜などほかの材料の準備をしていた。
 サラ達が材料を切っている間、幸一は調味料を見ながら味付けについて考える。

(子供たちが食べるって考えると味は辛くない方がいいな──)

 香辛料を少なめにし、マイルドな味にしていく。そして青葉が入れようかどうか迷っている材料が一つ──。




「幸君幸君、この材料なんだけど──、入れる?」

 青葉がちょっと戸惑いながら背後から話しかける。幸一は何かと考え振り向く、すると青葉が困った顔をして話す。

「ししとう……」

 ししとうとは唐辛子をルーツに持つ食べ物であり。食べ物のロシアルーレットという異名がある。からかったり辛くなかったりするので青葉は入れようか迷っていたのであった。

 相談を受けた幸一はとりあえず食べてみる事をお勧めした。しかし誰がその味見をするのか。下手したら唐辛子のように激辛な食べ物である。

 ここにいる全員が視線をかわしあいけん制する。それを味見するのは誰なのかと──。
 そして誰が食べてみるか決める方法を青葉が思いつく。

「じゃんけん!!」

 青葉がそう叫ぶ。そして皆がその言葉に乗り──。













??」





 何と勝負は幸一の一人負けだった、一回で決まった勝負に青葉が思わず叫ぶ。

「やっぱ幸君もってるよ!! ここであいこなしで一発で負けるって所がすごいよ」

 落胆する幸一、しかし負けた以上保護にすることもできず嫌々ししとうを手に持つ。
 そして幸一は恐る恐るししとうを口にする。そして──。







「あれ? 辛くないよこれ」

 全く辛くなかった、試しに一個丸々口にしても辛さを一つも感じなかった。

「え──? 幸君もってないね──」

 どこか残念そうにつぶやく青葉。そしてこのししとうは辛くないと感じた青葉はどんな味がするのかと考え一口かじってみる



 そして──。



「ってこれ辛いじゃない!!」


 青葉がその辛さでゴホゴホとむせかえり咳をしながら水場へ向かっていく。
 その光景を見て幸一は──。

「確か口の中が辛い時は玉ねぎを口に含むといいって聞いたことがあるぞ」

 そういって、材料の玉ねぎを小さく切って青葉に渡す。青葉は藁をもつかむ想いですぐに玉ねぎを口に含む。


 すると──。

「ちょっと、沁みる沁みる沁みる沁みる!!」



 逆効果だった、辛すぎてむせかえるような口の中に玉ねぎが入り沁みるような痛さが追加され口の中はまるで地獄絵図になった。

(騙した仕返しだ、ちょっとは懲りたか……)

 幸一の罠、冷静さを失った青葉は簡単にはまってしまった。しかし一つ懸念があった。

(これ、辛かった……か? )

 小さいししとうを持ちながら幸一は思考する。少なくとも自分が味見をした時には辛さはなかった。

 自分の舌がバカになったのか? 悶え苦しむ青葉を見ながらそう考えもう一度ししとうを口にする。


 すると──。


「え──? ああきたからいからいからいからいからい!!!!!!!」


 口の中が辛さいっぱいに広がりせき込む幸一、そして青葉とシスカのように水を求めて水がへ直行する。


 このししとう、辛いものとそうでない物があったのだ──。
 比率としては十個のうち九個は子供でも食べられるような食べ物だが残りの一個は唐辛子の様な激辛の者が入っている。
 水場に行き、辛さに悶え苦しみながらむせかえり水を飲む二人。


「馬鹿──」

 呆れかえるイレーナ。そしてしばらくその辛さで悶絶した後三人が何とか調理に復帰する。


 サラと幸一が肉を捌いて炒め始める。
 その間苦戦しながらもイレーナも何とか野菜を切り終える



 最後に青葉が作ったカレーのルーが完成。

 そして切った野菜と捌いた肉を四人がかりで投入する。
 窓を見る、すると窓の先には朝日が見え始める。

「何とか間に合いそうですね──」

 眠そうな目をこすりながらサラが囁く。
 ざっと百人分はある計算だ。

 しばらくすると四人の作ったカレーが兵士によって運ばれる‼



 そして幸一達が作ったカレーは市民達に配られた。
 味はとても好評でみんながおいしく食べた。


 みんなが満足する結果となりこの企画は終了した。









 幸一やサラが徹夜の疲れで眠り始めたころ。
 一人の少女がキッチンに立っていた。

「私、幸君が好き。だからこの想い、幸君に届いて──」

 そう、イレーナである。

 眠い目をこすりながらキッチンで材料をじっと見ながらガッツポーズをして幸一への想いを届けると強く決心する。

 先日、マグブライトが提案した幸君の心を射止めるために実施する作戦。それは幸君への愛情がこもった料理でもてなすという事であった。

「ああ、まずは見せればいいんだ。イレーナのいつもとは違う女の子っぽくてつつましい母性本能たっぷりの部分を見せつけるんだ」

「でででででもどうすればいいの? わたし、そういうのよくわからないし──」

 あたふたしながら言葉を返すイレーナ、しかしマグブライトはその回答を持っていた。

「料理だよ、イレーナが幸君においしい手作り料理を作るんだ。そして戦友だけでなく異性としてのイレーナをアピールするんだ」

「でも、私料理とか得意じゃないし──」

 いつも料理しないイレーナ、うつむいて自信のない表情をする。それにマグブライトは自信たっぷりに答える。
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