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サラにはサラの──

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(これ、いけるかも──)




 そして数分後。


「はぁ……、はぁ……、はぁ」

 息を大きく荒げるサラ。情けないことにサラはまともに戦うことができず、よろよろになって倒れ込み木陰に座りこんだ。

「やっぱり……、全然体力がついていかない──」

 サラは魔力に対してはイレーナにも負けないくらいずば抜けた容量を持っていた。
 しかし体力や運動神経などが著しく低かったためその可能性はそうそうに見限られてしまったのである。

「サラさん、もうへとへとですし、やめた方が──」

 心配そうな顔でシスカが声をかける。しかしサラはそれを突っぱねる。


「いいえ、お願いします。せめて一人になった時、少しでも出来ることがあれば──」

「余計やめた方いいですよ!!」

 シスカは声のトーンを強くして即座に否定する。
 心配そうな表情での指摘にサラは反論できなかった。

「中途半端な腕で魔法を使って戦おうとするのがどれだけ危険なことか──」

 相手からも冒険者だとわかると警戒されて狙われることがある。特に人間同士の場合は冒険者を見ると敵と見間違えられて襲われるというのは良くある話だ。

 サラもそれは頭ではそれを理解していた。しかし自分も幸一達の力になりたい、そんな想いが彼女を盲目にし、その事実から目をそらしていた。

 それでもサラはあきらめない、自分も敵と戦うため。祖国に戻って「あの人」に胸を張って会うため、身体に力を入れて立ち向かう。



 魔力を体に込めて一気にシスカに突っ込んでいく、そして──。

(甘いです、サラさん!!)

 シスカは向かってくるサラの腕をつかむ、すると向かって来たサラの力を利用して後方にサラの体を投げ飛ばす。


 中に投げ出されるサラの体。サラは体術など全く習っていなかったのでうまく着地できず落下時に身体を強くぶつけてしまう。


(痛い──)


 全身に強い痛みが走り眼に涙を浮かべ始めるサラ。強いダメージのため倒れ込み動けない。

「あのぅ……、大丈夫ですか? サラさん、やっぱり……やめた方が──」


 シスカがその姿に心配になりあわあわとして声をかける。心配そうな表情を浮かべながら話すシスカにサラは何とか立ち上がり息を荒げながら言葉を返す。

「後二時間お願いします、それでだめならもうあきらめるから──」


 弱弱しい声色、しかしその眼は本物だった。その眼にシスカは圧倒され、どうしようか思考する。


 そして──。


「わかりました、でも手加減はしますよ……。私だって嫌ですよ、一方的に相手を傷つけるのは──」

 静かに目を伏せるとシスカは再び自身の剣を構える。サラは心を傷ませながらも自分の願いに付き合ってくれるシスカに感謝し再びシスカに立ち向かっていく。



 そして二時間がたった。












 結果は散々たる有様だった。

 サラの攻撃はシスカにかすり傷一つつけることができなかった。

 サラは痛感する、自分は魔法を使って戦うことは出来ないと──。まずスピードが違う、サラには手加減をしていたシスカの動きが全くとらえることができなかった。


 そしてシスカの攻撃も全く見ることさえできず攻撃が来る、と理解した時はすでに攻撃が命中し自分の体が吹き飛んでいる有様だった。

 困ったことに、やればやるほど自分の才能のなさに気づいてしまう。



 戦いながら悟らざるを得なかった。
 汗だくで肩で息をしながらサラが心の中で叫ぶ。

(私には、無理だ──)

 疲労の重さが全身にまとわりつく。体中に痛みが強く走る。
 もう体が限界で動かない。身体の力が抜け、サラはその場にへたり込む。




 自分は力になれないのか、無力なままなのか?







 そんな事を考えていると遠くから声が聞こえた。

「サラちゃん、大丈夫?」

 幸一とイレーナだった。二人が走って額に軽く汗をかきながらやってくる。

 二人はトレーニングをしていたところ、知り合いからサラがシスカと模擬戦をしていたという情報が伝えられて、ここにきたのだった。

「イレーナちゃん、どうして来たの?」

「ほら、サラちゃんあまり戦闘は得意じゃないから──」

 サラの戦闘適性がないのはイレーナも知っていた。なので心配になったというのが本音だ。
 イレーナの言葉にサラは何も言い返せない。

「何があったの? 教えて!! 私、力になるから──」

「それは思う、俺もサラの力になりたい。絶対に力になる。だから話してくれないかな? うまく言えないけど──、腹を割って話したい」

 二人の言葉にサラは何も言う気力もなくなり自分の本音を伝え始める。

「私、ずっと思ってた。自分が周りにの足を引っ張っているんじゃないかって。
 みんなが傷つきながら精いっぱい戦っているのに私はただ見ているだけ、それが嫌だったの。少しでも力になりたい、だから私強くなりたかったの。みんなから守られる自分じゃなくて一緒に戦う自分になるために!!」


 いつものサラとは想像がつかない強い口調で叫ぶ。いつもみんなに守られているという感覚。ここにいる時もここに来る前もサラが感じていたコンプレックスを乗せての心からの叫びだった。





 予想もしなかった言葉に言葉を失うイレーナ。イレーナがどう言えばいいかわからず言葉を詰まらせていると幸一が微笑しながらサラに言葉を語りかけ始める。

「俺はそんなこと思ってないよ。サラはどんな時も俺達のために尽くそうとしてくれるし、俺達が知らないような事でも何でも知っている、その知識がすごい役に立っているよ」


 幸一の励ましの言葉に言葉を失うサラ。次はイレーナがサラを勇気づける。

「私もそう思う、役に立たないなんて考えてないよ。いっつもいろんなこと教えてくれるし、正義感も強いし、本当にサラがいてよかったって思ってるよ!!」


「そうだよ、人には得意分野がある。サラができることで俺達の力になってほしい。だから──、今は休もう……」

 そう言って幸一が手を差し伸べる。


「サラはとっても役に立っているよ、俺達が有利に戦えるようにいつも力になってくれているよ」


 時には夜遅くまで調べて古代文字の解析をしていたこともあった。二人ともその事を理解していてサラが自分たちや周りのためにとても努力をしている事を知っていた。

 だからサラには苦手なことより、サラができることで力になってほしいという事であった。

 幸一はサラの頭を優しくなでなでしながらサラに言葉をかける。

「サラにはサラの出来ることがある。だから自分ができることで力になってほしい」


 ほほをほんのりと赤くする。そしてほんの少しばかり自身を取り戻す。


 人は均一ではない。向いていないことをどれだけ頑張っても他の人はそんな事あっさり乗り越えていっている。だから自分ができる事でみんなに力になる。

 そんな事をサラは心の中で感じ取り、ふらつきながら宮殿へ向かおうとする。
 しかしその表情は先ほどの様な無力感に打ちひしがれているのではなく、何処か自身に満ちあふれていた──。
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