【完結】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

静内燕

文字の大きさ
上 下
36 / 221

可愛い王子様、「ホーゼンフェルト=ミッテラン」

しおりを挟む
 

 幸一は美術で写生自体は習った経験があり軽く教えることくらいは出来る、しかしそこまで詳しいわけではないのでそれを打ち明けて見たのだが……

「幸一さん、写生の仕方私に教えてくれませんか?」

「幸君、一緒に写生しませんか? よくわからないので見てみたいです」

 多数の女の子に詰め寄られるという今までにない経験に動揺しドキドキしてしまう幸一。
 そうしていると背後から殺気のこもった視線を感じ取るようになる。

「広君? そんなに女のことばかりいちゃいちゃ……、ずるい!!」

 イレーナだった。彼女が顔を膨らませてやってくる、そして幸一の隣で一緒に写生を行い始める。

 早速書いている幸一の肩を誰かが叩く。
 そこには茶髪でポニーテールをした女の子がいて陽気に話しかけてきた。



「へぇ~~幸君って写生得意なんだーー、毎日しているの? 私にも教えてくれませんか? あんまり得意ではないので……」

「あ、うん。僕にできる事なら教えるよ……」

「あ、ありがとうございます、私ソフィナと申します。よろしくお願いいたします」

 黒髪で三つ編みの少女が幸一の隣にちょこんと座りこむ。
 学生時代に美術の授業で習った知識を思い出し彼女に教える。

 今度はソフィナが持っていたコーヒーカップの絵を描く事となった。
 そして左隣の人がコーヒーカップの取っ手の部分を書こうとすると幸一が話しかける。

「ちょっとストップ、いきなり細部を書かないで」

「え? ああすいません」

「まずアタリをとって全体像を描いてからにしないと出来た時にバランスが悪くなっちゃうよ」

「あ、ありがとうございます」

 そして彼の教え方のとおり全体像を描いてから細部の部分を描く、描き始めて一時間ほどたった。すると──

「あ、すごい。今までよりずっと良く出来てます!!」

 描いた絵は全体のバランスがよく出来ていて今までにないくらいよい出来になった。

「いいやり方を教えていただいてありがとうございます、何か自信が持てました」

「あ、喜んでいただいて何よりです。こちらこそ楽しかったですよ」

 三つ編みの少女ソフィナが喜びながら頭を下げてお礼を言う、幸一は彼女が喜んでくれたことが嬉しかった。

 そんな感情になっているとソフィナの表情が少し険しくなり少し落ち着いたトーンで話しかける。

「ちょっと授業とは関係ないんですがいいですか?」
「あ、いいよ」

 するとさっきより声のトーンを低くしてさらに話を続ける。

「単刀直入に言います私の友達の妹が突然姿を消してしまったんです」

「え? どういうこと?」

 ソフィナはさらに説明を続ける。

「特徴、わかる?」

「亜人で羽が生えていて猫の毛耳が生えています、地方から移住してきたようで生活は貧しかったですね……、兵士の皆さんは貧困層のことなんか管轄外って感じで誰も相手にしてくれません。頼りになるのは唯一王の幸一さんくらいなんです」

 幸一の世界と違ってそこまで治安が良くなく警察組織も未熟なため貧しい地区出身の行方不明者などに耳を傾けてくれる者はいないようで頼りになるのが幸一ぐらいしかいないらしい。

「わかった、協力するよ。終わったら話をしっかり聞くからそれでいいかな?」

「本当ですか? ありがとうございます。じゃあその時はよろしくお願いいたしますね」

 ソフィナは喜んでうなずき共に再び写生を再開した。
 隣でいい表情をしないイレーナを気にしながら一緒に写生を行う。



 結果として幸一自身は二、三分ごとに他の生徒から呼ばれる事になりあまり集中できる環境ではなかった、しかし講師として呼ばれていたので特に気にしてはいなかった。

 サラとイレーナも時折呼ばれることはあったそれなりの絵は描けたようであった。

 そして有力な情報を手にすることができたことが一番の大きな収穫である。
 そんな形で写生の授業の仕事を終えこの場がお開きになる。幸一達三人はこの仕事を終え街の巡回に行こうと城門へ移動する。
 すると城門の所に一人の少年がぽつんと立っていた。



「あなたが炎の唯一王の幸一さんかな? ちょっと話があるんだけれどいい?」

 白い髪の毛、中性的な容姿で身長はやや小柄で百六十センチくらい。
 どことなくイレーナに似ている印象を醸し出していた。

「ルト君、久しぶり!!」

 イレーナがその姿を見るや否や叫ぶ。

「ルト君? ああ、彼が先日言っていた後継者争いをしている王子様ってことか……」

 彼こそがこの国の次期国王候補の一人でありイレーナの弟でもあるホーゼンフェルト=ミッテランであった。幸一にとっては初めてのご対面であった。

「まあ、そんなところだね……」

 その言葉に複雑な表情をするホーゼンフェルト。

「まあいいや、こんなところで話すのもなんだし部屋に来てほしいんだけどいいかな? ちょっと頼みたいことがあるんだ」

「は、はい大丈夫です」

 幸一がその言葉を発すると四人が宮殿に入りホーゼンフェルトの部屋に移動をした。


 宮殿の中を歩いて五分程、最上階に彼の部屋はあった。
 他の豪華なシャンデリアや大きく芸術的な絵画などで飾られた部屋とはどこか一線を化し
 王子様らしからぬシンプルかつ質素な部屋に逆に幸一は少し驚く。

「意外とシンプルだな……」

「座って……」

 そのルトの言葉に幸一達はソファーに腰をかける。

「ルト君、大きくなったね」

「あ、ありがとうイレーナ姉さん──」

 そんな軽い世間話をしながらオホンとホーゼンフェルトが咳をすると四人は話の本題に入る。

「とりあえずやってほしいことがあるのは君だ、幸一君」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。

なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。 王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...