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第一章 二本松の種子
江戸帰り
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銃太郎が教えてくれたのは、鉄砲の撃ち方だけではない。前提となる鉄砲の仕組みや、火薬についての基礎も教えてもらうことがあった。
「それでは、定治。火薬の材料は何だね」
銃太郎が定治に訊ねた。
「はい、先生。硝石と硫黄、それと木炭です」
「よろしい」
銃太郎がうなずく。
「次に、才次郎。それらの割合はどれくらいで混ぜる?」
「硝石が四、硫黄が一、木炭が一です」
「そうだ」
道場には薬研だけでなく秤も置いてあり、剛介たちはそれを使ってきっちり重さを測る。次に、まんべんなく混ぜたところで臼であらかた砕き、ある程度小さくしてから更に薬研ですりつぶすのである。その黒色の粉末を御猟場の小屋に持っていって、職人が小さな粒の塊に練り直すらしい。
一方、鉛玉は椎の実に似ていて、鍛冶屋が鉄砲玉専用の型に溶かした鉛を入れて作るのだと先生は言った。
それを弾作り専用の棒に紙を巻きつけ、そっと棒を外し鉛玉、火薬の順に入れてやっと弾丸が出来上がる。
弾を作りながら、剛介はふと思いついて先生に質問してみた。
「先生、なぜ火縄やゲベールよりも、新式の銃の方が弾が遠くまで飛ぶのですか?」
「いい質問だな」
先生が目を細めた。そして、ついと立ち上がると、道場の棚に架けてあった火縄銃とミニエー銃を持ってきた。
「銃口の方から覗いてごらん。どこが違う?」
どれどれと、門下生の手から手にそれぞれの銃が回された。銃口を覗いてみて、剛介はあっと思った。
「ミニエーの方には、溝が入っている」
「その通りだ。火縄には、溝がないだろう?滑らかだ。そこが大きく違う」
ミニエーには溝が入っているから、火薬が爆発されると、その勢いに押されて前へ飛び出そうとする。そのとき、弾は回転しながら前方へ飛び出し、溝によって鉛には傷ができる。だからミニエーは真っ直ぐ遠くに飛んでいき、命中率も高いのである。
へえーと、剛介は感心した。若先生の説明は、分かりやすい。
「弾に傷が入ると、飛びやすいんですか?」
横から遊佐辰弥が割って入った。
「そうなんだ。なぜだかは、未だ解明されていないがね。
後は、弾にも秘密がある。火縄の弾は丸いだろう?それに対してミニエーの弾は細長い。それだけ空気に邪魔されないから、火縄よりも遠くに飛ぶというわけだ」
少年たちは、目をきらきらと輝かせて銃太郎の説明に聞き入っていた。
そうそう、と銃太郎がふと思い出したように口調を改める。
「四月からの講学では、演習も入る。小沢長右衛門様のご次男、幾弥殿が私を手伝ってくれることになった。皆、仲良くするんだぞ」
しんと静まり返った。小沢家は父親が江戸定府だったので、幾弥も江戸の生まれである。そのため、言葉に二本松の訛りがなく綺麗な江戸の言葉を喋った。
銃太郎の説明によると、幾弥は江戸で西洋鼓法を習って皆伝を授けられたという。隊の砲撃や進退には太鼓の号令が欠かせないから、確かに必要な存在ではあった。さらに、既に別の砲術師範、朝河八太郎に入門したという。歳は十七とのことである。
銃太郎は門の違いはあまり気にしないようだが、一同は、顔を見合わせた。二本松では、我らのほうが先輩ではないか。銃太郎の手前、誰も口にしないが、そんな気配が漂い始めた。幾弥の方が剛介より年上であるものの、二本松の子供たちの間では、「先に入門した方が先輩として扱われる」という、暗黙の了解があった。
そんな不穏な空気を察したのだろう。銃太郎はもう一度、「仲良くするんだぞ」と念を押した。
その日の夕刻、北条谷から城の下を通るように、剛介、辰治、七郎の三人は帰り道を辿っていた。途中、久保町の門のところに差し掛かると、向こうから誰かやってくるのが見えた。肩には、真新しそうな新式の銃を担いでいる。
剛介たちは黙って、道端に寄り道を空けて体を折り曲げた。
「ああ、木村道場の子たちか」
相手は剛介たちの前で足を止めて、鷹揚に頷いた。
「銃太郎先生から説明されたかもしれないけれど、よろしくな」
軽い調子で、相手は手を上げた。そして銃を軽々と持ったまま、見せびらかすかのように、うーんと伸びをした。すると、この男が小沢幾弥か。
「あの、その銃はどうされたのですか?」
辰治が思い切って訊ねた。馬鹿、と剛介は辰治の横腹を肘でつついたが、幾弥はそんな三人にはお構いなしにぺらぺらと江戸っ子の口調で言葉を続けた。
何でも父親である長右衛門が、帰国前にわざわざ横浜へ足を運び、買い付けてくれたという。本日も朝河道場でその銃を使って、訓練をしてきたのだそうな。
剛介らの胸に、ちろちろと嫉妬の炎が燃え始めた。ミニエー銃は高価であるから、おいそれと買えるものではない。木村道場では、貫治先生が子弟のために揃えた数丁の銃を、皆で交代しながら練習していた。
「じゃあな」
剛介たちの感情などお構いなしに、幾弥はさっさと背を向けて行ってしまった。
三人は、その背中をしばらく見つめてその場に立ちすくんでいた。
やがて、声が届かない距離になると、七郎がぼそっとつぶやいた。
「俺、幾弥さんが嫌いだ」
***
幾弥が「闇討ちに遭った」と剛介が耳にしたのは、それから三日後のことだった。何でも、あのぴかぴかの銃を自慢していたのが、他の少年たちの気に障ったらしい。幾弥は、郭内を流れる小川に放り込まれたとのことだった。幸い、幾弥は怪我もなく、元気に朝河道場に通っているという。
「だって、生意気だもん」
先日、剛介と一緒に幾弥と対面した定治が声を荒らげた。
「そうそう、俺たちにも新しい銃を見せびらかしていたんだぜ」と、七郎もそれに同意する。
「それ、やっぱり本当なのか」
顔をしかめて虎治が剛介に訊ねた。
「ああ、本当だよ。『木村道場の子か』なんて馬鹿にしてくれてさ」
剛介は、その言葉も許せなかった。自分たちより少し歳上なだけで、番入りもしていない幾弥から子供扱いされたのは、我慢がならなかった。
稽古が終わってから銃太郎に言いつけられ、今はちょうど皆で道場の板の間を磨いている。その雑巾を掛ける手を止めて、虎治はううむと腕を組んだ。
そこへ、ひょいと道場入り口から中の顔を伺う顔があった。当の幾弥である。銃太郎に用事でもあったのだろうか。
むっとして、剛介は幾弥を睨んだ。見ると、虎治もまだ腕組みを解いていない。一見、木村道場の門弟が揃って幾弥に喧嘩を売っているような状態であった。
「何だよ」
幾弥も一同を睨み返した。だが、よく見ると握り拳が微かに震えている。
さすがに、一人に対して皆で因縁をつけるのは卑怯かなと剛介がちらりと思った、その時だった。
「こらあッ!」
銃太郎の怒号が道場に響いた。
「お前たち、何をしている」
いつもの笑窪を浮かべている優しげな先生はどこへやら、顔を真赤にしている。本気で怒っているのだろう。
「だって若先生。幾弥は木村道場を馬鹿にしているんです」
虎治が肩を怒らせて説明した。血の気が多い虎治も、幾弥が剛介らに取った態度が相当頭にきているのだろう。
「仕方のない奴らだ」
銃太郎が、舌打ちをした。
「一本勝負をしてやれ」
そう言うと、銃太郎はどこからか竹刀を持ってきて、虎治と幾弥にそれぞれ渡した。
二人は道場の真ん中に進み出ると、剣を構えた。
「始めっ!」
銃太郎が手を振り下ろす。
二人はジリジリと相手の隙ができるのを待ち構えていたが、剛介がそれに絶えられず瞬きをしたその瞬間、パーンと小気味良い音が響いた。
はっと見ると、上段にあったのは幾弥の竹刀だった。
「それまで!」
銃太郎が鋭く静止した。一瞬幾弥が勝ったかのように思われた。事実そうなのだが、幾弥の胸の寸前に、虎治の剣が伸びていた。
「気が済んだか」
やれやれと、銃太郎はやっと笑ってくれた。
「幾弥、お前も悪い。お父上の顔に泥を塗るつもりか」
闇討ちの話は聞いているぞ、と銃太郎はまず幾弥を叱った。お前は二本松の子ではないか。皆と仲良くやっていかなければならぬ。それに、新しい銃が嬉しいのは分かるが、皆が買ってもらえるわけでないのも、知っているだろう。年少の者に対して見せびらかすのは良くない。
続いて、虎治の方に向き合った。
「虎治。お前も人の話だけで判断するな。それに一人に対して多勢は卑怯だろう」
若先生の言うことはもっともだった。
虎治がしょんぼりとうなだれた。
「皆、すまなかった」
思いがけず幾弥が頭を下げた。銃太郎に叱られたのが、よほど堪えたのだろう。
「いや。こちらこそ卑怯な真似をして申し訳なかった」
虎治も頭を下げて、手を差し出した。
幾弥はつかの間ためらっていたが、その手を握り返した。
二人は顔を見合わせるとつかの間黙っていたが、どちらからともなく、ぷっと吹き出し、そのまま大声で笑った。それにつられて剛介たちも笑い、道場に笑い声が響き渡った。
この日を境に、幾弥はようやく「二本松の子」として馴染み始め、剛介たち地元組も幾弥を受け入れるようになっていった。
「それでは、定治。火薬の材料は何だね」
銃太郎が定治に訊ねた。
「はい、先生。硝石と硫黄、それと木炭です」
「よろしい」
銃太郎がうなずく。
「次に、才次郎。それらの割合はどれくらいで混ぜる?」
「硝石が四、硫黄が一、木炭が一です」
「そうだ」
道場には薬研だけでなく秤も置いてあり、剛介たちはそれを使ってきっちり重さを測る。次に、まんべんなく混ぜたところで臼であらかた砕き、ある程度小さくしてから更に薬研ですりつぶすのである。その黒色の粉末を御猟場の小屋に持っていって、職人が小さな粒の塊に練り直すらしい。
一方、鉛玉は椎の実に似ていて、鍛冶屋が鉄砲玉専用の型に溶かした鉛を入れて作るのだと先生は言った。
それを弾作り専用の棒に紙を巻きつけ、そっと棒を外し鉛玉、火薬の順に入れてやっと弾丸が出来上がる。
弾を作りながら、剛介はふと思いついて先生に質問してみた。
「先生、なぜ火縄やゲベールよりも、新式の銃の方が弾が遠くまで飛ぶのですか?」
「いい質問だな」
先生が目を細めた。そして、ついと立ち上がると、道場の棚に架けてあった火縄銃とミニエー銃を持ってきた。
「銃口の方から覗いてごらん。どこが違う?」
どれどれと、門下生の手から手にそれぞれの銃が回された。銃口を覗いてみて、剛介はあっと思った。
「ミニエーの方には、溝が入っている」
「その通りだ。火縄には、溝がないだろう?滑らかだ。そこが大きく違う」
ミニエーには溝が入っているから、火薬が爆発されると、その勢いに押されて前へ飛び出そうとする。そのとき、弾は回転しながら前方へ飛び出し、溝によって鉛には傷ができる。だからミニエーは真っ直ぐ遠くに飛んでいき、命中率も高いのである。
へえーと、剛介は感心した。若先生の説明は、分かりやすい。
「弾に傷が入ると、飛びやすいんですか?」
横から遊佐辰弥が割って入った。
「そうなんだ。なぜだかは、未だ解明されていないがね。
後は、弾にも秘密がある。火縄の弾は丸いだろう?それに対してミニエーの弾は細長い。それだけ空気に邪魔されないから、火縄よりも遠くに飛ぶというわけだ」
少年たちは、目をきらきらと輝かせて銃太郎の説明に聞き入っていた。
そうそう、と銃太郎がふと思い出したように口調を改める。
「四月からの講学では、演習も入る。小沢長右衛門様のご次男、幾弥殿が私を手伝ってくれることになった。皆、仲良くするんだぞ」
しんと静まり返った。小沢家は父親が江戸定府だったので、幾弥も江戸の生まれである。そのため、言葉に二本松の訛りがなく綺麗な江戸の言葉を喋った。
銃太郎の説明によると、幾弥は江戸で西洋鼓法を習って皆伝を授けられたという。隊の砲撃や進退には太鼓の号令が欠かせないから、確かに必要な存在ではあった。さらに、既に別の砲術師範、朝河八太郎に入門したという。歳は十七とのことである。
銃太郎は門の違いはあまり気にしないようだが、一同は、顔を見合わせた。二本松では、我らのほうが先輩ではないか。銃太郎の手前、誰も口にしないが、そんな気配が漂い始めた。幾弥の方が剛介より年上であるものの、二本松の子供たちの間では、「先に入門した方が先輩として扱われる」という、暗黙の了解があった。
そんな不穏な空気を察したのだろう。銃太郎はもう一度、「仲良くするんだぞ」と念を押した。
その日の夕刻、北条谷から城の下を通るように、剛介、辰治、七郎の三人は帰り道を辿っていた。途中、久保町の門のところに差し掛かると、向こうから誰かやってくるのが見えた。肩には、真新しそうな新式の銃を担いでいる。
剛介たちは黙って、道端に寄り道を空けて体を折り曲げた。
「ああ、木村道場の子たちか」
相手は剛介たちの前で足を止めて、鷹揚に頷いた。
「銃太郎先生から説明されたかもしれないけれど、よろしくな」
軽い調子で、相手は手を上げた。そして銃を軽々と持ったまま、見せびらかすかのように、うーんと伸びをした。すると、この男が小沢幾弥か。
「あの、その銃はどうされたのですか?」
辰治が思い切って訊ねた。馬鹿、と剛介は辰治の横腹を肘でつついたが、幾弥はそんな三人にはお構いなしにぺらぺらと江戸っ子の口調で言葉を続けた。
何でも父親である長右衛門が、帰国前にわざわざ横浜へ足を運び、買い付けてくれたという。本日も朝河道場でその銃を使って、訓練をしてきたのだそうな。
剛介らの胸に、ちろちろと嫉妬の炎が燃え始めた。ミニエー銃は高価であるから、おいそれと買えるものではない。木村道場では、貫治先生が子弟のために揃えた数丁の銃を、皆で交代しながら練習していた。
「じゃあな」
剛介たちの感情などお構いなしに、幾弥はさっさと背を向けて行ってしまった。
三人は、その背中をしばらく見つめてその場に立ちすくんでいた。
やがて、声が届かない距離になると、七郎がぼそっとつぶやいた。
「俺、幾弥さんが嫌いだ」
***
幾弥が「闇討ちに遭った」と剛介が耳にしたのは、それから三日後のことだった。何でも、あのぴかぴかの銃を自慢していたのが、他の少年たちの気に障ったらしい。幾弥は、郭内を流れる小川に放り込まれたとのことだった。幸い、幾弥は怪我もなく、元気に朝河道場に通っているという。
「だって、生意気だもん」
先日、剛介と一緒に幾弥と対面した定治が声を荒らげた。
「そうそう、俺たちにも新しい銃を見せびらかしていたんだぜ」と、七郎もそれに同意する。
「それ、やっぱり本当なのか」
顔をしかめて虎治が剛介に訊ねた。
「ああ、本当だよ。『木村道場の子か』なんて馬鹿にしてくれてさ」
剛介は、その言葉も許せなかった。自分たちより少し歳上なだけで、番入りもしていない幾弥から子供扱いされたのは、我慢がならなかった。
稽古が終わってから銃太郎に言いつけられ、今はちょうど皆で道場の板の間を磨いている。その雑巾を掛ける手を止めて、虎治はううむと腕を組んだ。
そこへ、ひょいと道場入り口から中の顔を伺う顔があった。当の幾弥である。銃太郎に用事でもあったのだろうか。
むっとして、剛介は幾弥を睨んだ。見ると、虎治もまだ腕組みを解いていない。一見、木村道場の門弟が揃って幾弥に喧嘩を売っているような状態であった。
「何だよ」
幾弥も一同を睨み返した。だが、よく見ると握り拳が微かに震えている。
さすがに、一人に対して皆で因縁をつけるのは卑怯かなと剛介がちらりと思った、その時だった。
「こらあッ!」
銃太郎の怒号が道場に響いた。
「お前たち、何をしている」
いつもの笑窪を浮かべている優しげな先生はどこへやら、顔を真赤にしている。本気で怒っているのだろう。
「だって若先生。幾弥は木村道場を馬鹿にしているんです」
虎治が肩を怒らせて説明した。血の気が多い虎治も、幾弥が剛介らに取った態度が相当頭にきているのだろう。
「仕方のない奴らだ」
銃太郎が、舌打ちをした。
「一本勝負をしてやれ」
そう言うと、銃太郎はどこからか竹刀を持ってきて、虎治と幾弥にそれぞれ渡した。
二人は道場の真ん中に進み出ると、剣を構えた。
「始めっ!」
銃太郎が手を振り下ろす。
二人はジリジリと相手の隙ができるのを待ち構えていたが、剛介がそれに絶えられず瞬きをしたその瞬間、パーンと小気味良い音が響いた。
はっと見ると、上段にあったのは幾弥の竹刀だった。
「それまで!」
銃太郎が鋭く静止した。一瞬幾弥が勝ったかのように思われた。事実そうなのだが、幾弥の胸の寸前に、虎治の剣が伸びていた。
「気が済んだか」
やれやれと、銃太郎はやっと笑ってくれた。
「幾弥、お前も悪い。お父上の顔に泥を塗るつもりか」
闇討ちの話は聞いているぞ、と銃太郎はまず幾弥を叱った。お前は二本松の子ではないか。皆と仲良くやっていかなければならぬ。それに、新しい銃が嬉しいのは分かるが、皆が買ってもらえるわけでないのも、知っているだろう。年少の者に対して見せびらかすのは良くない。
続いて、虎治の方に向き合った。
「虎治。お前も人の話だけで判断するな。それに一人に対して多勢は卑怯だろう」
若先生の言うことはもっともだった。
虎治がしょんぼりとうなだれた。
「皆、すまなかった」
思いがけず幾弥が頭を下げた。銃太郎に叱られたのが、よほど堪えたのだろう。
「いや。こちらこそ卑怯な真似をして申し訳なかった」
虎治も頭を下げて、手を差し出した。
幾弥はつかの間ためらっていたが、その手を握り返した。
二人は顔を見合わせるとつかの間黙っていたが、どちらからともなく、ぷっと吹き出し、そのまま大声で笑った。それにつられて剛介たちも笑い、道場に笑い声が響き渡った。
この日を境に、幾弥はようやく「二本松の子」として馴染み始め、剛介たち地元組も幾弥を受け入れるようになっていった。
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