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第二章 尊攘の波濤
竹ノ内擬戦(5)
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屋敷へ戻ると、鳴海は自室で絵図を広げ、今回の人員選抜について考えを巡らした。今回は野戦となるから、選抜の者は弓や槍に長けた者を選ぶべきか。そして、大平の土地の概要を把握しなければならないから、それらの者を連れて土地の偵察を行う。後は他に準備するべきことはあるだろうか。
「鳴海殿。夕餉の支度が整ったそうです」
鳴海の自室に顔を覗かせたのは、右門だった。現在衛守の部屋に下宿しているわけだが、早々と彦十郎家の者と馴染んでいる。その辺りの立ち回りは、やはり兄の志摩とよく似ていた。
いつもより一つ膳が多い食事の席は、礼子やりんが給仕をつとめている。鳴海と同様に口数があまり多くないりんは、年が右門と近い気安さからか、何かと右門の世話を焼いていた。水山の妻である礼子も、唐突にやってきた右門を厭うことなく、洗濯物などを引き受けていた。また、本家に出向いて右門の勉強道具などを引き取りに出向いてくれていた。
「右門殿。志摩殿は普段どのような修練を積まれておられるのです?」
衛守が、右門に尋ねた。鳴海も、それは気になる。鳴海の前では、いつもにこにこと笑ってばかりの志摩だが、昼間の様子からすると、気の強い一面も持ち合わせているに違いなかった。
「そうですね……」
右門は小首を傾げた。
「父上と一緒に、よく槍の訓練はされていますね。兄上は私より上背がおありで隙をお見せにならないから、なかなか兄上に勝てなくて」
そう述べる右門は、淡々としている。悔しくないのだろうか。鳴海は、衛守と顔を見合わせた。
「でも、兄上の怖さはそこではないのですよ」
「それは、どういう意味です?」
衛守は、右門の意外な評価に戸惑っている。
「兄上の本当に恐ろしいところは、周りをよく観察していて、固陋や因習に捕らわれずに行動できるところだと思います」
右門の志摩評は、鳴海も心当たりがあった。同僚として接するようになったのは最近だが、子供の頃から鳴海の後をついて回り、子供同士の喧嘩の場面などでは、時には鳴海や衛守よりも上手く立ち回ることがあった。もっとも、そんな志摩の気質を見抜いている右門も、さすが志摩の身内といったところか。
「右門殿も、どうしてよく観られておる。やはりご兄弟ですな」
話を聞いていた水山が笑った。
「水山様。五番組で此度の擬戦に使うとすれば、誰がよろしいのでしょうか?」
秋に詰番に就いたばかりの鳴海は、まだ組全員の能力や特技を把握しきっていない。長年五番組に携わってきた水山に助言を仰いだ。
「物頭役はその時々で変わりますからな。現在、五番組の長柄奉行が丹羽権太左衛門。使武者が井上勘右衛門、松井政之進でしょう。後は、小笠原是馬介が槍に秀でております。鳴海殿の身辺を警固してもらうにはよろしかろう」
水山が淀みなく答えた。どうやら、縫殿介が存命の頃から何かと相談に応じていたと見える。鳴海は、指折り数えた。水山が上げてくれた面々は外せないだろう。それに、信頼の置ける者、そして兵学の知識を持つ者を参加させるのがいいか。
「鳴海殿。私も、ぜひ加えてくださいませ。兄上に一泡吹かせたいと存じます」
右門の言葉に、鳴海は頬を緩めた。鯉が好きな大人しいだけの青年かと思いきや、どうして右門も向こう気が強いではないか。
「よし。それでこそ武勇で鳴らした大谷家の男だ」
普段は、あまり褒められることがないのだろうか。鳴海の言葉に、右門は顔を上気させた。
「鳴海殿。夕餉の支度が整ったそうです」
鳴海の自室に顔を覗かせたのは、右門だった。現在衛守の部屋に下宿しているわけだが、早々と彦十郎家の者と馴染んでいる。その辺りの立ち回りは、やはり兄の志摩とよく似ていた。
いつもより一つ膳が多い食事の席は、礼子やりんが給仕をつとめている。鳴海と同様に口数があまり多くないりんは、年が右門と近い気安さからか、何かと右門の世話を焼いていた。水山の妻である礼子も、唐突にやってきた右門を厭うことなく、洗濯物などを引き受けていた。また、本家に出向いて右門の勉強道具などを引き取りに出向いてくれていた。
「右門殿。志摩殿は普段どのような修練を積まれておられるのです?」
衛守が、右門に尋ねた。鳴海も、それは気になる。鳴海の前では、いつもにこにこと笑ってばかりの志摩だが、昼間の様子からすると、気の強い一面も持ち合わせているに違いなかった。
「そうですね……」
右門は小首を傾げた。
「父上と一緒に、よく槍の訓練はされていますね。兄上は私より上背がおありで隙をお見せにならないから、なかなか兄上に勝てなくて」
そう述べる右門は、淡々としている。悔しくないのだろうか。鳴海は、衛守と顔を見合わせた。
「でも、兄上の怖さはそこではないのですよ」
「それは、どういう意味です?」
衛守は、右門の意外な評価に戸惑っている。
「兄上の本当に恐ろしいところは、周りをよく観察していて、固陋や因習に捕らわれずに行動できるところだと思います」
右門の志摩評は、鳴海も心当たりがあった。同僚として接するようになったのは最近だが、子供の頃から鳴海の後をついて回り、子供同士の喧嘩の場面などでは、時には鳴海や衛守よりも上手く立ち回ることがあった。もっとも、そんな志摩の気質を見抜いている右門も、さすが志摩の身内といったところか。
「右門殿も、どうしてよく観られておる。やはりご兄弟ですな」
話を聞いていた水山が笑った。
「水山様。五番組で此度の擬戦に使うとすれば、誰がよろしいのでしょうか?」
秋に詰番に就いたばかりの鳴海は、まだ組全員の能力や特技を把握しきっていない。長年五番組に携わってきた水山に助言を仰いだ。
「物頭役はその時々で変わりますからな。現在、五番組の長柄奉行が丹羽権太左衛門。使武者が井上勘右衛門、松井政之進でしょう。後は、小笠原是馬介が槍に秀でております。鳴海殿の身辺を警固してもらうにはよろしかろう」
水山が淀みなく答えた。どうやら、縫殿介が存命の頃から何かと相談に応じていたと見える。鳴海は、指折り数えた。水山が上げてくれた面々は外せないだろう。それに、信頼の置ける者、そして兵学の知識を持つ者を参加させるのがいいか。
「鳴海殿。私も、ぜひ加えてくださいませ。兄上に一泡吹かせたいと存じます」
右門の言葉に、鳴海は頬を緩めた。鯉が好きな大人しいだけの青年かと思いきや、どうして右門も向こう気が強いではないか。
「よし。それでこそ武勇で鳴らした大谷家の男だ」
普段は、あまり褒められることがないのだろうか。鳴海の言葉に、右門は顔を上気させた。
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