鬼と天狗

篠川翠

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第二章 尊攘の波濤

守山藩(5)

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乍恐以書附願上候事

一.此度白坂宿助郷之村々難渋之趣ヲ以当領七ヵ村其他村々助郷之儀奉願上候処、御取受ハ不相成候得共指村之儀御座候得者。今般御用御序ヲ以村柄御見分被、仰付候筋モ可有御座候。
依而者一村難渋ニモ可相成候間難渋之次第モ有之候ハバ其段具ニ願出旨被御渡難有仕合ニ奉左ニ奉願候。

一.当村之儀ハ延宝八申内藤紀伊守御検地之節御竿入出高有之収納相増。其後天明三卯年始天保四巳年同七申年嘉永六丑年迄追々大凶作旱魃等打続必至ト難渋相成、猶又居村之儀ハ谷田川附ニ而洪水度々有之居屋鋪迄水押入難渋仕候。其上低地之田畑故諸作共ニ洪水毎水腐相成向納ハ勿論面々飯米等不足難渋仕候事。

一.当村ハ谷田川筋故年々川欠相成、普請人足多分相掛、加之当領内他村川除普請莫大之事故、春秋ハ勿論夏冬迄モ被召仕候儀モ有、之尚又用水池堀堰土手等村々普請有之筋モ同様被召仕ハ不容易人足相勤甚難渋仕罷在候事。

一.当村之儀極山中何モ手励等も出来兼少々ツ薪切取置農間見合市場へ持出シ売来候処、市遠之儀弱馬多ニ而附行届兼存分励行も出来兼難渋仕候事。

一.当村領内普請御座候節、定例村割合人足先年ハ弐拾五人指出候処、追々人少ニ罷成行届兼領主役所へ願出、只今ニテハ拾五人ニ相減申候程之儀御座候事。

右之条々奉申上候通、極難渋之村方ニ御座候間、助郷等被、仰付候シカモ如何様ニモ行届兼候仕合厚被爲聞召訳奉恐入候得共、別段之以御仁恵右御除被成、下置候様奉願上候右願之通御聞済被下置候ハバ、一同難有仕合奉候。

(一.この度白坂宿の村々が難渋しているとのことで、当領七ヵ村その他の村々に対して増助郷の件についてお願い申し上げ奉ったところ、御受取していただけませんでした。この度のお達しを以て村の様子を御見分され、仰せ付けられたのはそれなりの道理もござろうかと存じます。ですが一つの村が難渋しているとのことでございますが、当村も難渋の次第がございまして、其の段を具に願い出させて頂けたならば有難き幸せと思い、左記に願い出る次第でございます。

一.当村は延宝八年内藤紀伊守様が検地を行われ開墾されて出来高の収入も増えてまいりました。ですがその後、天明三年卯年に始まり、天保四年巳年、同七年申年、嘉永六年丑年まで次第に大凶作となり、旱魃などが打ち続き、困窮して難渋するようになりました。さらにそれらの村々の様子は、谷田川沿いにあり、洪水が度々発生し、居住する屋敷まで水が押し入り難渋しております。その上、低地の田畑であるために諸作物は洪水毎に水に浸かって腐り、公納分は勿論のこと、各々の飯米すら不足して難渋している次第であります。

一.当村は谷田川筋故、年々川欠かわかけの地となったので、普請人足を多数募集している状況で、当領内・他村でも川除普請が莫大な負担となっているため、春秋は勿論のこと、夏冬までも役務を申し付けられております。さらに尚、用水池を掘り土手を築かされるなど、村々でさまざまな普請を申し付けられているも同様であり、助郷のために召し使えるのは用意ではなく、人足も両方勤め上げるのは甚だ困難である次第です。

一.当村は極めて山中にあり、どの民も手仕事(内職)などが出来かねるので、少しでも薪を切って取り置き、農業の合間を見計らって市場へそれらを持ち出し売りに来ているのですが、市場は遠くて馬も弱いものが多いため、諸々行き届かず思うように励むことも出来兼ね、難渋している次第であります。

一.当領内の普請についてでございますが、定例では村の人足割合は、先年は二十五人を差出しました。ですが次第に人手不足になって行き届き兼ね、領主が役所へ願い出て、只今は十五人に減らして頂けるように申し上げているところでございます。

右の条々で申し上げ奉った通り、当村は極難の村方でございますところへ、助郷などを仰せ付けられ、仰せ付けられてもどうにも行き届き兼ねている次第でございます故、厚く訳をお聞き入れて頂けたならば、恐れ入ることではことではございますが、何卒御仁恵を以てこれらの事情をご考慮頂ますよう、下々の者共が願い上げ奉ります。右の願いの通り御聞き入れ下さったならば、下々の者一同、有難き幸せに存じます)


以上

文久三年亥三月
松平大学領分
奥州田村郡大善寺村

庄屋並 柳沼半内
庄屋    善内
組頭    兵助
同断    儀七

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