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 最初は大きな揺れが頻繁に来て、でもそれがたまにしか来なくなり、やがて小さな揺れが小刻みに伝わってくると、ああもうそろそろ王城か、とフィリアは気付く。そして、アリサの手を握っていた力を、少し強めた。
 このまま着かないでほしかった、なんて。
 馬鹿みたいねとたかを括り、フィリアは気合を込めた。目を閉じると丁度馬車が止まった。暫くして、目を開ける。御者によって扉が開く。フィリアが先に降り、後からアリサが降りた。
 一気にその場の空気がフィリアの方へと持っていかれた。
 その場には、婚約披露宴開始前に来ていた貴族や、他国の王族、貴族もいた。その誰もが見た目麗しい容姿だったが、その中でも彼女……フィリアは別格だった。その透き通るような肌も、細身の体も、小さな可愛らしい唇も、セットされた髪も、挙げたらキリが無くなるほど、褒めても褒めきれないほど、彼女の容姿は完璧だった。
 そんな彼女に目を奪われない人間など、いるのだろうかレベルである。
 息を飲んで、拍子抜けした周囲だったが、急に我に返り、フィリアの元へと押し寄せた。

「……」

 我先にと勝手に自己紹介を始める男達だったが、フィリアの冷たい視線を浴びると、一気に縮こまり、そそくさと離れる。冷たい、というか、フィリアとしては怖くて呆然としていただけだったのだが。
 急激なストレスに彼女は重心が定まらず、ふらふらとしそうなのをなんとか耐えた。
 これから、婚約披露宴なのだから、なんとか耐えきらないと──!
 足に力を込め、進む。
 途中に兵士に止められた時は心臓が止まりそうだった。だが、招待状を見せると慌てたように通された。助かった。フィリアは安堵の溜息をついて、また歩き出す。
 さっきまで、パートナーを一目で取られそうになっていた女性陣。憎き相手になりかけていたが、フィリアの堂々たる歩く姿に、惚れる。
 これまた本人としてはそこに石でもあればこけ、さらに即気絶しそうになるほどピンチの状態ではある。だが、フィリアは生まれつきの無表情。最初は怖く感じても、フィリアから敵対してくることはない為、そこもかっこいいとすら思える。スタイルも顔も抜群。異性に媚びを売らない姿勢に、誰が惚れずにいようか。

「こんなの惚れるわ」

 アリサは馬車の近くで立っていた。フィリアの元へ男性陣が寄っていた為、一瞬殺意が湧いた。包み隠しはしなかった。それも効果あったのか分からないが、すぐに男性陣は逃げ、一安心。女性陣も憎みかけていたようだったが、負の空気が変わったのを感じた。女性陣も惚れさせる、主人の後ろ姿に相変わらず惚れる。
 一瞬で空気を変える主人の凄みに、そうだろうそうだろうと嬉しくなる。
 可愛くてかっこよくて優しいお嬢様。婚約者がどんな相手かはリサーチ済み。地味な容姿だが、お嬢様に似たタイプらしい。まあそこらのチャラ男なんぞに任せるくらいならば、たとえ王族だろうがまだ安心は出来る……と思いたい。
 非常に心苦しいし、不本意ではあるが、もしもお嬢様を傷付けたら殺す。
 アリサは、愛とかを抜いた絶対的な忠誠心を持つ。もしも王子ヤツに捨てられたら、お嬢様と二人暮らしも悪くない……なんて考えるが、決して恋愛対象という訳では無い。ただ、一生涯の主として慕っている、それだけの事。
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