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 ウォルトン家は昔は王家に次ぐ資産家だった。しかし、その有り余る資産に調子に乗ったのがいけなかったのだろう。前代が、口の上手い詐欺師に騙され、資産の殆どを奪われてしまった。前代はやけを起こして事業を起こすも、すぐに倒産。借金まみれになり、なんとか当代が借金は返済したが、それでも他の貴族に比べればかなり貧しい方。だがなんとか普通の貴族のように学園には通わせてあげたいと、当代はお金を工面して息子と娘を学園に通わせた。息子の方は、才能もあり、将来有望な学者として推薦を貰い、留学中だ。
 娘も、魔法の才能があるので、将来有望なのは間違いない。おまけに顔立ちもよく、国一番の美人とまで噂されている、らしい。ウォルトン家伝来の銀の髪はしなやかで、性格は大人しい。家族のことを考えてくれる、とても優しい自慢の娘だ。

「……なんてことだ」

 ウォルトン家当主、リドル・ウォルトンは、たった今届いた手紙をくしゃくしゃにしながら、震えていた。その隣で、リドルの腕に掴まり、妻カルモアナも震えていた。
 その手紙こそ、国王ディールからの手紙だった。その手紙には、娘フィリアと第一王子ルズシードの婚約について書かれてあった。しかも、こちらとしては十分すぎる条件を言い渡されてある。
 しかし、当人は……娘はどう思うだろうか。もしかしたら嫌かもしれない。嫌なのに、王家から申し出が来た、というだけで義務感を感じては欲しくない。だが、今の生活が苦しいのも事実。使用人には安い賃金で働いてもらっているし、これ以上領地の平民の年貢を高くする訳にもいかない。
 当主と親、どちらともの立場で悩みに悩み、結局その日もその数日後も返事は返せずにいた。リドルはフィリアにも数日、内緒にし続けていたが、妻カルモアナの一喝により、決心を固めた。
 夕食、相変わらず黙々と静かにスープを飲むフィリア。複雑な気持ちのリドルは、無意識のうちにフィリアのことを見過ぎていた。異変に気付いたフィリア。スプーンを置き、ナプキンで口元を拭いた。

「……お父様。何かあったのでしょうか?」
「……流石、僕の娘だね。そういう機微には敏感だ」

 リドルは使用人を呼び、国王からの手紙を持ってこさせ、それをフィリアに渡す。初めは不思議に思ったフィリア。封筒に、王家の家紋が付いていた為、嫌な予感がしたが、気にしないよう封を開ける。手紙の端はくしゃっとしていた。高まる嫌な予感。そしてふたつ折りになっていた手紙を開き、読む。
 フィリアはしばらくの無言後、手紙を封筒に戻し、複雑な顔で使用人に手渡した。

「つまり、第一王子と婚約しろと……そういうことですね」

 淡々とした、睨んでいるかのような鋭い目付きに、我が娘ながら怯む。しかし、威厳のために踏ん張る。

「そうだよ。でも、フィーが嫌なら別に断ってもいいんだ。僕は気持ちを一番に尊重したいからね」

 フィーと愛称で呼び、断りやすいように笑顔で言った。
 しかし、フィリアは俯きがちに少し考えた後、これまた淡々と頷いた。

「いいですよ。私は別に。喜んでお受けします」

 無表情なのに、どこか悲しそうに、達観したかのようにも見えて、リドルもカルモアナも心が盛大に傷付いた。
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