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最終章 因縁に蹴りをつけること
閑話 勇者エリオット・ローランの旅路
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目覚めたエリオットは、まずカムプラへと向かった。
報告書でローランの動向を知っており、そこに行くべきだと彼の心は判断していた。
カムプラでは、双子の片割れが姿を消したことを噂する余裕もなくなっていた。
大司教の1人の作りし派閥が、聖女ミゼリコルドを失脚させるべく表舞台で動き出していたからだ。
そこにいるのが、ミゼリコルドではなく、ラフマであることをエリオットは知っている。当然のように彼女への接触を試みた。
話を聞くに、ミゼリコルドとは違い、好戦的な瞳をしている少女ラフマは、相手を殴り飛ばして謀略を話させればいいと考えており、それを止めるのはエリオットにも骨の折れる話だった。
しかし、ミゼリコルドの名を出せば少しだけ態度は軟化する。あくまで少しだが信用は勝ち取れた。
ラフマと協力するようになっても、物事が簡単に進んだわけではない。大司教の一人は魔族と通じていた。
その魔族を打ち倒せたのは、エリオットが真の勇者だったからとは言えない。彼が必死に説得を行い、仲間となってくれる人を増やし、敵の強さ以上の加護を複数人から受けて勝った。つまりは力押しだ。
問題となったのは、その魔族と通じていた形跡があった家の中に、クローゼー家があったことだろう。
替え玉に選んだ相手の家が、魔族と通じていた可能性がある。なにかを画策していたのではないか。そう考える者は多かった。
しかし、エリオットとパラネスは否定した。あの出会いは偶然であり、誰かの手が入っているとは思えない。そう訴えたが、完全に疑いが晴れることはなかった。
次に、エリオットは連絡を受けていた通りに、エルフの里を目指した。
カムプラで痣が浮かび上がり、仲間になったラフマと共に旅立ったのだが、彼女はミゼリコルドの話を聞くと不機嫌そうな顔をしていた。勝手に姿を消したことに怒りを覚えており、素直に心配しているとは言えなくなっている様子だった。
それでも、彼女は優秀な聖女で、活発で、わがままで、ヤンチャだ。その明るさで、エリオットにも自然と笑顔が増えていた。
エルフの里を訪れると、すでに解決したにも関わらず、また里は魔獣に襲われていた。長であるクルトは死亡したことになっており、エルフたちを統率する人物はいない。混乱の渦中にあった。
レンカは必死に皆を説得していたが、いまだに年老いたエルフたちの反発は大きいようだ。
隠蔽や感知に長けた種族なこともあり、協力者たちも森の中へ入れていない。エリオットはラフマ、レンカと協力して情報を集め、年老いたエルフの1人が魔獣を操っているという証拠を掴んだ。
事実が明るみとなれば投降するかと思われていたのだが、年老いたエルフは妙な短剣を胸に刺し、魔族へと変じた。
これを倒せたのは、レンカの情報を元に相手をうまく誘導できたからだ。クルトの使用した魔法陣は完全に消えておらず、それを修復することによって、大魔法で打ち倒した。
2度も続いたからか、身近な者から犯人が出たからか。年老いたエルフたちも懲りたのだろう。隠居を決め、若い者たちへ任せることを決めた。
そしてまた、ここでも画策していた者の候補にクローゼー家の名前が挙がった。前回と今回、両方に名前が挙がったのはクローゼー家だけであり、国へ不利益をもたらしているのが誰かというのは、すでに確定的になっていた。
活発で明るいラフマ。穏やかでかわいいものが好きなレンカ。
エリオットの一行も3人となったところで、1人姿を消していたルウ・ル・クローゼーの行方が分かり、長期演習の場へ赴くことが決まった。
辿り着いたエリオットは、まずローランのところへ向かった。
会ってみたかった。理由はそれだけである。
しかし、遠目に見るだけで、直接会う時間は取れなかった。
クローゼー家はルウ・ル・クローゼーを囮にしていた。そして、六魔将が動く作戦が発覚したことも理由だった。
だが、それ以上に、巻き込むことを恐れたのだ。
これから、エリオットは六魔将と対峙する。ローランよりも死ぬ可能性は高い。
2人とも死ねば、勇者を名乗る者が消える。しかし、どちらかが残れば、希望の光は残される。
最悪、どちらかが残ればいい。
彼もまた勇者だと、エリオットは信じていた。
結果として、全てを出し切ったがエリオットは奇跡的に勝利した。撃退しただけなので辛勝かもしれないが、そもそも実力の差が大きい。やはり、奇跡的な勝利だろう。
それを、エリオットは誰よりも喜んだ。
ローラン・ル・クローゼーが勝利していることに疑いはない。2人共生き残ったのであれば、この先の戦いも乗り越えられると、この結果で確信を得ていた。
しかし、その後はエリオットの想定とはまるで違った。
勇者2人頑張っていこう。この勝利を分かち合おう。
そんな気持ちだったのだが、ローランは罪を贖うために首を差し出す覚悟でいた。
王都にいる者の多くは、ローランの首を望んでいない。彼は王都にいるとき、人のためになろうと生きていた。助けられた者も多い。
しかし、彼だけは違った。
エリオットは、それを危ういと思いながらも、それ以上の敬意を抱き、ローランという人物への好感度は非常に高くなった。
溢れ出したその思いは後日に、仲間になってほしいという言葉となった。断られた。諦めなかったが、それでも無理そうだった。
2人の道は並んでいる。時には交わるが、同じ道ではない。それを理解したからこそ、エリオットは身を引いた。
「俺たちは共にいるわけではないが、同じ場所を目指す仲間だということは覚えておいてくれ」
このローランの言葉は、エリオットの胸を軽くした。
全てを背負って生きる覚悟はあったが、そうではないと言ってもらえたことが、エリオットはなによりも嬉しい。
ローラン・ル・クローゼーの旅立ちを見送るエリオット・ローランの目には、頼もしいもう1人の勇者の背が見えていた。
報告書でローランの動向を知っており、そこに行くべきだと彼の心は判断していた。
カムプラでは、双子の片割れが姿を消したことを噂する余裕もなくなっていた。
大司教の1人の作りし派閥が、聖女ミゼリコルドを失脚させるべく表舞台で動き出していたからだ。
そこにいるのが、ミゼリコルドではなく、ラフマであることをエリオットは知っている。当然のように彼女への接触を試みた。
話を聞くに、ミゼリコルドとは違い、好戦的な瞳をしている少女ラフマは、相手を殴り飛ばして謀略を話させればいいと考えており、それを止めるのはエリオットにも骨の折れる話だった。
しかし、ミゼリコルドの名を出せば少しだけ態度は軟化する。あくまで少しだが信用は勝ち取れた。
ラフマと協力するようになっても、物事が簡単に進んだわけではない。大司教の一人は魔族と通じていた。
その魔族を打ち倒せたのは、エリオットが真の勇者だったからとは言えない。彼が必死に説得を行い、仲間となってくれる人を増やし、敵の強さ以上の加護を複数人から受けて勝った。つまりは力押しだ。
問題となったのは、その魔族と通じていた形跡があった家の中に、クローゼー家があったことだろう。
替え玉に選んだ相手の家が、魔族と通じていた可能性がある。なにかを画策していたのではないか。そう考える者は多かった。
しかし、エリオットとパラネスは否定した。あの出会いは偶然であり、誰かの手が入っているとは思えない。そう訴えたが、完全に疑いが晴れることはなかった。
次に、エリオットは連絡を受けていた通りに、エルフの里を目指した。
カムプラで痣が浮かび上がり、仲間になったラフマと共に旅立ったのだが、彼女はミゼリコルドの話を聞くと不機嫌そうな顔をしていた。勝手に姿を消したことに怒りを覚えており、素直に心配しているとは言えなくなっている様子だった。
それでも、彼女は優秀な聖女で、活発で、わがままで、ヤンチャだ。その明るさで、エリオットにも自然と笑顔が増えていた。
エルフの里を訪れると、すでに解決したにも関わらず、また里は魔獣に襲われていた。長であるクルトは死亡したことになっており、エルフたちを統率する人物はいない。混乱の渦中にあった。
レンカは必死に皆を説得していたが、いまだに年老いたエルフたちの反発は大きいようだ。
隠蔽や感知に長けた種族なこともあり、協力者たちも森の中へ入れていない。エリオットはラフマ、レンカと協力して情報を集め、年老いたエルフの1人が魔獣を操っているという証拠を掴んだ。
事実が明るみとなれば投降するかと思われていたのだが、年老いたエルフは妙な短剣を胸に刺し、魔族へと変じた。
これを倒せたのは、レンカの情報を元に相手をうまく誘導できたからだ。クルトの使用した魔法陣は完全に消えておらず、それを修復することによって、大魔法で打ち倒した。
2度も続いたからか、身近な者から犯人が出たからか。年老いたエルフたちも懲りたのだろう。隠居を決め、若い者たちへ任せることを決めた。
そしてまた、ここでも画策していた者の候補にクローゼー家の名前が挙がった。前回と今回、両方に名前が挙がったのはクローゼー家だけであり、国へ不利益をもたらしているのが誰かというのは、すでに確定的になっていた。
活発で明るいラフマ。穏やかでかわいいものが好きなレンカ。
エリオットの一行も3人となったところで、1人姿を消していたルウ・ル・クローゼーの行方が分かり、長期演習の場へ赴くことが決まった。
辿り着いたエリオットは、まずローランのところへ向かった。
会ってみたかった。理由はそれだけである。
しかし、遠目に見るだけで、直接会う時間は取れなかった。
クローゼー家はルウ・ル・クローゼーを囮にしていた。そして、六魔将が動く作戦が発覚したことも理由だった。
だが、それ以上に、巻き込むことを恐れたのだ。
これから、エリオットは六魔将と対峙する。ローランよりも死ぬ可能性は高い。
2人とも死ねば、勇者を名乗る者が消える。しかし、どちらかが残れば、希望の光は残される。
最悪、どちらかが残ればいい。
彼もまた勇者だと、エリオットは信じていた。
結果として、全てを出し切ったがエリオットは奇跡的に勝利した。撃退しただけなので辛勝かもしれないが、そもそも実力の差が大きい。やはり、奇跡的な勝利だろう。
それを、エリオットは誰よりも喜んだ。
ローラン・ル・クローゼーが勝利していることに疑いはない。2人共生き残ったのであれば、この先の戦いも乗り越えられると、この結果で確信を得ていた。
しかし、その後はエリオットの想定とはまるで違った。
勇者2人頑張っていこう。この勝利を分かち合おう。
そんな気持ちだったのだが、ローランは罪を贖うために首を差し出す覚悟でいた。
王都にいる者の多くは、ローランの首を望んでいない。彼は王都にいるとき、人のためになろうと生きていた。助けられた者も多い。
しかし、彼だけは違った。
エリオットは、それを危ういと思いながらも、それ以上の敬意を抱き、ローランという人物への好感度は非常に高くなった。
溢れ出したその思いは後日に、仲間になってほしいという言葉となった。断られた。諦めなかったが、それでも無理そうだった。
2人の道は並んでいる。時には交わるが、同じ道ではない。それを理解したからこそ、エリオットは身を引いた。
「俺たちは共にいるわけではないが、同じ場所を目指す仲間だということは覚えておいてくれ」
このローランの言葉は、エリオットの胸を軽くした。
全てを背負って生きる覚悟はあったが、そうではないと言ってもらえたことが、エリオットはなによりも嬉しい。
ローラン・ル・クローゼーの旅立ちを見送るエリオット・ローランの目には、頼もしいもう1人の勇者の背が見えていた。
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