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最終章 因縁に蹴りをつけること
32話 対照的な兄弟
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崖上での戦闘が始まる。その激しい音から、エンギーユがこちらへ来られないことをルウも理解した。
しかし、その顔にはまだ余裕があった。
「それで? どうせエンギーユが勝ちますし、こちらには数十の騎士もいます。たった2人で相手にできるとでも?」
ローランは不敵に笑う。
「あぁ、王都でぬくぬくと暮らしていた、実戦のなんたるかも知らない雑魚のことを言っているのか? 俺たち2人でも十分なのだが、生憎と手は抜かない主義でな」
言い終わると同時に、ルウたちを取り囲むように協力者たちが姿を見せる。その数は、ルウの配下である騎士たちの倍にも及んだ。
今のローランに油断は無い。準備の時間もあった。確実な勝利を得るために、十分な状態を用意してあった。
「愚弟は俺とマーシーで相手取る。他をお任せしたい」
協力者たちは一礼し、行動を開始する。個の質でも、数の上でも勝っている戦い。彼らが勝つまでに、そう時間は掛からないだろう。
ローランとマーシー、そしてルウを無視した状態で戦闘が始まる。
背後から聞こえる戦闘音を聞きながら、ルウは不快そうに顔を歪めた。
「さっきも言いましたが、直にエンギーユが来ます。兄上たちに勝ち目はありません」
「俺の仲間を見くびるな。アリーヌ・アルヌールは必ず勝つ。疑いの余地はない」
仲間を信じている澄んだ目をした兄と。
仲間を信じているわけではないが、自身の思い通りに進むと勘違いしている澱んだ目をした弟。
両者は対照的だ。
ローランはいくらかの哀れみすら覚えながら、ルウへと言った。
「どうした? 泣き叫び、地面に頭を擦り付け、許しを請わないのか?」
「私が勝つのに、なぜ懇願する必要が? あぁ兄上は、本当に愚かですね。昔からそうだった。自分の思い通りに進むと勘違いしている。勝ったつもりでいるのが、その証拠です」
どちらが勘違いしているのか。主観でしか物事が見えていない弟を、ローランは鼻で笑った。
「ハッ。まさか、そんなつもりはない。いくら愚弟とはいえ、切り札の1つくらいは用意してあるはずだと思ってのことだ。惜しまず手札を切れ。その全てを、兄が打ち砕いてやろう」
「……減らず口の代償は、その命で払ってもらいましょうか!」
ローランは剣を抜き、ルウも短剣を抜く。
違ったところは、ローランが構えたのに対し、ルウはその短剣を自分の胸へと突き刺したことだろう。
短剣を刺した部分が波打ち、全身を土の鎧が覆う。背にも2本の腕が増える。歪な4本の巨腕を生やしたゴーレムのような存在。それが、ローランたちの眼前に立ち塞がっていた。
その邪悪な気配は、人よりも魔族に近い。
自身を魔族へと近づける、エンギーユから譲り受けた魔剣。それが、ルウの切り札だった。
ローランは空いた手の指に挟みこみ、3本の小瓶を取り出す。
それを放り投げようとしたが止まり、背のマーシーへと語り掛けた。
「マーシー、背中は任せた」
「で、できるだけのことはするよっ」
マーシーの声は震えている。緊張しているのだろう。
ローランは優しい声色で、マーシーへと言った。
「俺にアリーヌの背は守れない。実力に差がありすぎるからだ」
「そんな、ことはないよ」
否定してくれるマーシーの優しさへ、ローランは首を横に振る。
「事実は正しく受け止めるべきだ。しかし、マーシーには俺の背を任せられる。それだけの修練を積んでいた。君の努力を、俺はちゃんと見ていたよ」
マーシーの体の震えが僅かに収まる。期待に応えられるかという不安を、期待に応えたいという気持ちが勝ったからだ。
1度深呼吸をし、マーシーは強く答えた。
「任せて、おにいさん。ボクが守るから」
ローランは安心した顔を見せた後に、小瓶を全て宙へ放った。それを同時に、剣の一撃で割り砕けば、周囲に無数の泡が広がる。
剣を握った手を伸ばしたまま、空いた手を胸に当て、ローランは道化師のような素振りで深々と頭を下げた。
「この旅で培った我が妙技、ぜひご堪能ください。ルウ・ル・クローゼー様」
ローランの煽り文句と共に、兄弟の戦闘は幕を上げた。
しかし、その顔にはまだ余裕があった。
「それで? どうせエンギーユが勝ちますし、こちらには数十の騎士もいます。たった2人で相手にできるとでも?」
ローランは不敵に笑う。
「あぁ、王都でぬくぬくと暮らしていた、実戦のなんたるかも知らない雑魚のことを言っているのか? 俺たち2人でも十分なのだが、生憎と手は抜かない主義でな」
言い終わると同時に、ルウたちを取り囲むように協力者たちが姿を見せる。その数は、ルウの配下である騎士たちの倍にも及んだ。
今のローランに油断は無い。準備の時間もあった。確実な勝利を得るために、十分な状態を用意してあった。
「愚弟は俺とマーシーで相手取る。他をお任せしたい」
協力者たちは一礼し、行動を開始する。個の質でも、数の上でも勝っている戦い。彼らが勝つまでに、そう時間は掛からないだろう。
ローランとマーシー、そしてルウを無視した状態で戦闘が始まる。
背後から聞こえる戦闘音を聞きながら、ルウは不快そうに顔を歪めた。
「さっきも言いましたが、直にエンギーユが来ます。兄上たちに勝ち目はありません」
「俺の仲間を見くびるな。アリーヌ・アルヌールは必ず勝つ。疑いの余地はない」
仲間を信じている澄んだ目をした兄と。
仲間を信じているわけではないが、自身の思い通りに進むと勘違いしている澱んだ目をした弟。
両者は対照的だ。
ローランはいくらかの哀れみすら覚えながら、ルウへと言った。
「どうした? 泣き叫び、地面に頭を擦り付け、許しを請わないのか?」
「私が勝つのに、なぜ懇願する必要が? あぁ兄上は、本当に愚かですね。昔からそうだった。自分の思い通りに進むと勘違いしている。勝ったつもりでいるのが、その証拠です」
どちらが勘違いしているのか。主観でしか物事が見えていない弟を、ローランは鼻で笑った。
「ハッ。まさか、そんなつもりはない。いくら愚弟とはいえ、切り札の1つくらいは用意してあるはずだと思ってのことだ。惜しまず手札を切れ。その全てを、兄が打ち砕いてやろう」
「……減らず口の代償は、その命で払ってもらいましょうか!」
ローランは剣を抜き、ルウも短剣を抜く。
違ったところは、ローランが構えたのに対し、ルウはその短剣を自分の胸へと突き刺したことだろう。
短剣を刺した部分が波打ち、全身を土の鎧が覆う。背にも2本の腕が増える。歪な4本の巨腕を生やしたゴーレムのような存在。それが、ローランたちの眼前に立ち塞がっていた。
その邪悪な気配は、人よりも魔族に近い。
自身を魔族へと近づける、エンギーユから譲り受けた魔剣。それが、ルウの切り札だった。
ローランは空いた手の指に挟みこみ、3本の小瓶を取り出す。
それを放り投げようとしたが止まり、背のマーシーへと語り掛けた。
「マーシー、背中は任せた」
「で、できるだけのことはするよっ」
マーシーの声は震えている。緊張しているのだろう。
ローランは優しい声色で、マーシーへと言った。
「俺にアリーヌの背は守れない。実力に差がありすぎるからだ」
「そんな、ことはないよ」
否定してくれるマーシーの優しさへ、ローランは首を横に振る。
「事実は正しく受け止めるべきだ。しかし、マーシーには俺の背を任せられる。それだけの修練を積んでいた。君の努力を、俺はちゃんと見ていたよ」
マーシーの体の震えが僅かに収まる。期待に応えられるかという不安を、期待に応えたいという気持ちが勝ったからだ。
1度深呼吸をし、マーシーは強く答えた。
「任せて、おにいさん。ボクが守るから」
ローランは安心した顔を見せた後に、小瓶を全て宙へ放った。それを同時に、剣の一撃で割り砕けば、周囲に無数の泡が広がる。
剣を握った手を伸ばしたまま、空いた手を胸に当て、ローランは道化師のような素振りで深々と頭を下げた。
「この旅で培った我が妙技、ぜひご堪能ください。ルウ・ル・クローゼー様」
ローランの煽り文句と共に、兄弟の戦闘は幕を上げた。
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