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最終章 因縁に蹴りをつけること
26話 努力を続けるということ
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エルフの里の一件から数ヶ月。もうすぐこの旅も一年に届くというところまで来ていた。
その間に、ローランとマーシーは五等級から四等級へ昇級。里での功績と、これまでに積み上げた実績を考慮してのことだ。
実力からすれば、偽の聖剣の分や、高い回復魔法の技術を考えれば、2人は三等級でもおかしくはない。だが、飛び級させるほどではないという、冷静な判断でもあった。
一行は今、本来は東の大国ユーピターを目指すはずだったのだが、少しだけ行き先を変えている。
理由は、クルトの口から語られた「魔獣の操り方を教えた者は、長期演習の場へ向かうと言っていた」という話があったからだ。
魔獣は生き物で、その操り方は全てが違う。エルフの里へ現れていた魔獣は全て同じものだった。他の魔獣も同じ方法で操れるわけではないのだが、その黒幕と思しき相手は、別の魔獣も操る術を身に付けている可能性は高い。危険な存在であり、放置することはできない。
同時に、アリーヌの元へも伝令が届けられている。それは騎士学院から送られたもので、長期演習へ参加するようにという旨が記載されていた。
ローランはこれを、良い区切りだと考えていた。
運良く生き延びることはできたが、今後も替え玉を続けるかどうかを判断するのに、自分が相応しいかを試すのにちょうど良い機会であると。
「少し形は変わってしまったが、約束を果たせることになりそうだ」
どこか安心した顔を見せるローランに、アリーヌは息を吐く。
「今さらそんなこと気にしてないからね。事情があったのは分かってるんだからさ」
「君の気持ちは関係ない。俺自身の気持ちの問題だ」
いつも通りのやり取りを、マーシーはにまにまとしながら見つめる。
それに気づいたローランは、小さく首を傾げた。
「どうした? なにか面白いことでもあったのか?」
「ボクたちも少しずつ仲間って感じになってきたなーってさ」
「誰がいなくてもここまでは来られなかった。君たちは自慢の仲間だ」
ここまでハッキリと言われたことはなく、アリーヌは狼狽しながら自分を指さす。
「それって、つまりわたしもだよね?」
「毎度気になっていったのだが、もしかして俺が言ったことを忘れているのか? 俺は、君のことを尊敬している。その気持ちに変わりはない」
えへえへとアリーヌが少し気色悪い笑みを見せる裏で、ローランは小声で「あまり好きではないままだがね」と言う。
それが聞こえていたマーシーは、嫌いではなくなったのだなとニッコリと笑っていた。
長期演習が行われる場は、聖の領域と魔の領域の狭間での戦闘が主になる。
互いの領域で受けられた恩恵も、相手への負担も無い。
つまり、どちらも実力通りの強さを発揮するということだ。
聖の領域内に解き放たれていた魔獣たちも、ここでは数倍の力を取り戻す。今までには倒せていた魔獣も簡単に倒すことはできない最前線が、長期演習の取り行われる場所だった。
通例として、騎士学院の者は参加が義務付けられている。だが、それをうまく誤魔化したり、後方待機で終わらせる者もいる。中央に巣食う騎士たちの中で癌となっているのが、こういった無駄に力のある貴族の子息たちだった。
そんな、割りの食う者が多い最前線へと3人は辿り着く。
長く戦闘が行われていることもあり、大半の場所は見通しが良い荒れ地だ。しかし、いくらか森や岩山なども残っており、奇襲なども行える嫌な地形をしていた。
数万に及ぶ兵たちの集まる砦内で、その一員になるための契約をする。
本来ならば最低でも数ヶ月の期間の契約となるが、事前にパラネスが手を回してくれていることもあり、ローランたちにそういった期間の縛りは無い。ある程度は自由な行動も許されているという、特殊な契約が結ばれた。
砦内に滞在するのは、高官や警備の者が大半であり、それ以外の者は近くに張られた宿営用の天幕で寝泊まりをする。
通常ならば4~6人で使用する天幕も、ローランたちは3人だけでの使用が許されていた。
特別扱いを受けている貴族の子息に愛人と小姓。それが一般的な見かただ。
ローランたちの扱いを戦地に長くいる者ほど不愉快に思っていたが、その考えはすぐに覆されることになった。
彼らが、ほとんど休むこともなく、訓練場へ姿を見せたからだ。
まずローランは、準備運動がてらマーシーに剣を教え始める。良いところを見せようという考えや、周囲の目を気にする素振りはない。基礎的な部分と、生き抜くために必要なことを、厳しく教え込んでいた。
それに、マーシーが愚痴を零すこともない。自分のためを思っての厳しさだと、マーシーはちゃんと理解していた。
マーシーの息が上がれば、今度はローランの番だ。素振りをしていたアリーヌと、ローランの立ち合いが始まった。
アリーヌ・アルヌールの顔を知っている者は驚きもしない。だが顔を知らぬ者は、一方的に打ち払われているローランを見て、驚きを禁じ得なかった。
ローランは今や、正騎士に届くだけの実力がある。それにも関わらず、誰が見ても実力差は歴然だった。
肩に剣をのせたアリーヌは、息を荒げているローランへ言う。
「どうして勝てないか分かる?」
一等級冒険者という天才と、たかが貴族の元子息という凡才。
そんな答えを、ローランは選ばない。
「努力と、経験の、差、だろう。今、それを……ふぅー……埋めているんじゃないか。続けるぞ」
息を整えながら答えたローランは、また剣を構える。
100時間剣を振った者と、1000時間剣を振った者。
戦ったときにどちらが勝つかは分からないが、勝率が高いのは確実に後者だ。
それを理解しているから、ローランは努力を続ける。まだ同じ時間剣を振っていないのに、才能の有無で負けを認めるのは、愚か者のすることだと彼は知っていた。
ローランは挑み、アリーヌは鍛え、マーシーは2人を見ながら剣を振る。
その姿を見て、訓練場にいた者たちは気を引き締めた。
今までにも何人かいた、特別扱いをされても怠けぬ者たち。ローランたちもそういった類の者たちであることを目にしたからだ。
もちろん、そんなローランたちを見て、なにを頑張っているんだと鼻で笑う者たちもいる。そういった者たちの大半は役に立たず、最悪の場合は早死にする。
長く生き延びて来た戦士たちは、そのことも良く知っていた。
その間に、ローランとマーシーは五等級から四等級へ昇級。里での功績と、これまでに積み上げた実績を考慮してのことだ。
実力からすれば、偽の聖剣の分や、高い回復魔法の技術を考えれば、2人は三等級でもおかしくはない。だが、飛び級させるほどではないという、冷静な判断でもあった。
一行は今、本来は東の大国ユーピターを目指すはずだったのだが、少しだけ行き先を変えている。
理由は、クルトの口から語られた「魔獣の操り方を教えた者は、長期演習の場へ向かうと言っていた」という話があったからだ。
魔獣は生き物で、その操り方は全てが違う。エルフの里へ現れていた魔獣は全て同じものだった。他の魔獣も同じ方法で操れるわけではないのだが、その黒幕と思しき相手は、別の魔獣も操る術を身に付けている可能性は高い。危険な存在であり、放置することはできない。
同時に、アリーヌの元へも伝令が届けられている。それは騎士学院から送られたもので、長期演習へ参加するようにという旨が記載されていた。
ローランはこれを、良い区切りだと考えていた。
運良く生き延びることはできたが、今後も替え玉を続けるかどうかを判断するのに、自分が相応しいかを試すのにちょうど良い機会であると。
「少し形は変わってしまったが、約束を果たせることになりそうだ」
どこか安心した顔を見せるローランに、アリーヌは息を吐く。
「今さらそんなこと気にしてないからね。事情があったのは分かってるんだからさ」
「君の気持ちは関係ない。俺自身の気持ちの問題だ」
いつも通りのやり取りを、マーシーはにまにまとしながら見つめる。
それに気づいたローランは、小さく首を傾げた。
「どうした? なにか面白いことでもあったのか?」
「ボクたちも少しずつ仲間って感じになってきたなーってさ」
「誰がいなくてもここまでは来られなかった。君たちは自慢の仲間だ」
ここまでハッキリと言われたことはなく、アリーヌは狼狽しながら自分を指さす。
「それって、つまりわたしもだよね?」
「毎度気になっていったのだが、もしかして俺が言ったことを忘れているのか? 俺は、君のことを尊敬している。その気持ちに変わりはない」
えへえへとアリーヌが少し気色悪い笑みを見せる裏で、ローランは小声で「あまり好きではないままだがね」と言う。
それが聞こえていたマーシーは、嫌いではなくなったのだなとニッコリと笑っていた。
長期演習が行われる場は、聖の領域と魔の領域の狭間での戦闘が主になる。
互いの領域で受けられた恩恵も、相手への負担も無い。
つまり、どちらも実力通りの強さを発揮するということだ。
聖の領域内に解き放たれていた魔獣たちも、ここでは数倍の力を取り戻す。今までには倒せていた魔獣も簡単に倒すことはできない最前線が、長期演習の取り行われる場所だった。
通例として、騎士学院の者は参加が義務付けられている。だが、それをうまく誤魔化したり、後方待機で終わらせる者もいる。中央に巣食う騎士たちの中で癌となっているのが、こういった無駄に力のある貴族の子息たちだった。
そんな、割りの食う者が多い最前線へと3人は辿り着く。
長く戦闘が行われていることもあり、大半の場所は見通しが良い荒れ地だ。しかし、いくらか森や岩山なども残っており、奇襲なども行える嫌な地形をしていた。
数万に及ぶ兵たちの集まる砦内で、その一員になるための契約をする。
本来ならば最低でも数ヶ月の期間の契約となるが、事前にパラネスが手を回してくれていることもあり、ローランたちにそういった期間の縛りは無い。ある程度は自由な行動も許されているという、特殊な契約が結ばれた。
砦内に滞在するのは、高官や警備の者が大半であり、それ以外の者は近くに張られた宿営用の天幕で寝泊まりをする。
通常ならば4~6人で使用する天幕も、ローランたちは3人だけでの使用が許されていた。
特別扱いを受けている貴族の子息に愛人と小姓。それが一般的な見かただ。
ローランたちの扱いを戦地に長くいる者ほど不愉快に思っていたが、その考えはすぐに覆されることになった。
彼らが、ほとんど休むこともなく、訓練場へ姿を見せたからだ。
まずローランは、準備運動がてらマーシーに剣を教え始める。良いところを見せようという考えや、周囲の目を気にする素振りはない。基礎的な部分と、生き抜くために必要なことを、厳しく教え込んでいた。
それに、マーシーが愚痴を零すこともない。自分のためを思っての厳しさだと、マーシーはちゃんと理解していた。
マーシーの息が上がれば、今度はローランの番だ。素振りをしていたアリーヌと、ローランの立ち合いが始まった。
アリーヌ・アルヌールの顔を知っている者は驚きもしない。だが顔を知らぬ者は、一方的に打ち払われているローランを見て、驚きを禁じ得なかった。
ローランは今や、正騎士に届くだけの実力がある。それにも関わらず、誰が見ても実力差は歴然だった。
肩に剣をのせたアリーヌは、息を荒げているローランへ言う。
「どうして勝てないか分かる?」
一等級冒険者という天才と、たかが貴族の元子息という凡才。
そんな答えを、ローランは選ばない。
「努力と、経験の、差、だろう。今、それを……ふぅー……埋めているんじゃないか。続けるぞ」
息を整えながら答えたローランは、また剣を構える。
100時間剣を振った者と、1000時間剣を振った者。
戦ったときにどちらが勝つかは分からないが、勝率が高いのは確実に後者だ。
それを理解しているから、ローランは努力を続ける。まだ同じ時間剣を振っていないのに、才能の有無で負けを認めるのは、愚か者のすることだと彼は知っていた。
ローランは挑み、アリーヌは鍛え、マーシーは2人を見ながら剣を振る。
その姿を見て、訓練場にいた者たちは気を引き締めた。
今までにも何人かいた、特別扱いをされても怠けぬ者たち。ローランたちもそういった類の者たちであることを目にしたからだ。
もちろん、そんなローランたちを見て、なにを頑張っているんだと鼻で笑う者たちもいる。そういった者たちの大半は役に立たず、最悪の場合は早死にする。
長く生き延びて来た戦士たちは、そのことも良く知っていた。
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