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第三章 エルフの里
23話 手のひらの上で転がされている感覚
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それから数日。黒鎧は森の様々な場所に姿を現した。法則性は無く、音が聞こえた方向へ赴き、対応をするしかない。
神聖な森が燃やされていることもだが、完全に後手へ回っており、里の空気も徐々に悪くなっていた。
こういった際、責められるのは外部の者だ。しかし、ローランたちは精力的に森へ赴き、魔獣と戦っている姿も見られているので、関係はどちらかと言えば良好と言えた。
エルフと他種族もうまくやっていける。そんな空気が少しずつ醸し出されていることが、ローランにはどこか不気味に感じられていた。
エルフの長クルトや、その周囲を囲む年老いたエルフたちの顔は硬くなっていく。それに反し、里の者たちの態度は軟化していく。
他種族との関係性の改善。そうなるように進められているような、手のひらの上で転がされているような状況。
そしてなぜか、今の状況を一番望んでいたはずのレンカの顔も、日に日に硬くなっている。なにか気がかりがある様子だったが、いまだ打ち明けてくれることはなかった。
魔獣との戦闘を終え、ローランは疑問を口にした。
「魔獣を操るのは魔族。やはり、黒鎧は魔族なのか?」
その疑問に答えたのはアリーヌだった。
「別に、魔族じゃなくても魔獣は操れるでしょ。実際、魔族に降った人が魔獣を操っていたって話があるからね」
「そうなのか? いや、確かにその通りだな。やり方さえ分かれば、誰にだって操れるはずだ」
「なら、エルフにも……?」
レンカの言葉には疑念がある。同胞を疑いたくはないが、同胞を疑わなければならない。複雑な心境が察せられる。
全てを理解した上で、アリーヌはハッキリと答えた。
「そうだね。エルフにも、他の人にも可能性はあると思う」
レンカは悲しそうな顔のまま口を噤む。
疑念を解消できるのは言葉ではなく証拠だろう。
一刻も早く犯人を捕まえたいと、4人は今日の目的地へ急いだ。
辿り着いた先は広大な泉。エルフたちは泉と言っているが、そこは湖といったほうが良い広さをしていた。
水辺というだけでなく、森に囲まれているせいか、より空気が澄んで感じられる。
魔獣と戦う音も聞こえず、エルフの声も響かない。目を瞑れば眠りに落ちてしまいそうな穏やかさに包まれている場所だった。
ここの調査が後に回されていたのは、魔法は地形の影響を受けるからだ。
黒鎧が扱う炎の魔法は、水場の近くでは少しだけ弱まり、水の魔法は少しだけ強まる。不利な場所に滞在することはないだろうと、誰もが考えていた。
「敢えて、ここに潜んでいる可能性か」
ローランの言葉に、マーシーは肩を竦める。
「ボクはどうかと思うけどなー。森のどこでも負けてないのに、わざわざ不利な場所に行く必要がないでしょ」
この数日、黒鎧との戦闘は何度か行われている。運良く死人は出ていないが怪我人は続出しており、実力の差は歴然としていた。
だが、アリーヌは胸を張り、鼻を鳴らす。
「可能性が低くても調べる。そういうもんだからね」
「雨に濡れない洞窟とかだと思うんだけどなー」
休憩がてらと言った様子で2人は言い合っていたが、ローランはそんな2人を気にせず、物憂げな表情で泉を見ているレンカに近づいた。
「なにか気がかりが?」
「……ここは、家族みんなで来た最後の場所なんです」
「クルトを疑っているのか?」
レンカは首を横に振る。
「兄を疑ってはいません。でも、なにか兄の近くで起きている気がして……」
「なら信じていればいい。妹が兄を信じて、誰かが困ることもないからな」
思わぬ言葉だったのか。レンカは驚きながら顔を上げ、笑顔で頷いた。
「少し休んでから移動し――」
ローランは言い終わるより早く、その体が木に叩きつけられていた。
鎧の胸元には焦げた跡。殺すことではなく飛ばすことが目的だったのか、ダメージは少ない。
アリーヌとマーシーが駆け寄る。3人の周囲は炎の球体で囲まれていた。
炎の透けた先には黒鎧の姿。足元にはレンカが倒れているのが見えた。
『大量の魔獣が――』
耳に入った通信が途絶える。遮断されたらしい。
炎の球体に閉じ込められている。レンカは気絶。エルフの増援も望めない。
ローランは立ち上がりながら、頭を左右に振る。
「目的が分からない。こいつはなにがしたいんだ?」
困惑した様子のローランに、アリーヌが口を開く。
「今は――」
「分かっている。本人に聞き出せば済む話だな。やるぞ、2人とも」
ローランは気持ちを切り替え、今やるべきことを正しく判断した。
檄を飛ばそうとしていたアリーヌは、それを見て満足そうに笑みを浮かべた。
神聖な森が燃やされていることもだが、完全に後手へ回っており、里の空気も徐々に悪くなっていた。
こういった際、責められるのは外部の者だ。しかし、ローランたちは精力的に森へ赴き、魔獣と戦っている姿も見られているので、関係はどちらかと言えば良好と言えた。
エルフと他種族もうまくやっていける。そんな空気が少しずつ醸し出されていることが、ローランにはどこか不気味に感じられていた。
エルフの長クルトや、その周囲を囲む年老いたエルフたちの顔は硬くなっていく。それに反し、里の者たちの態度は軟化していく。
他種族との関係性の改善。そうなるように進められているような、手のひらの上で転がされているような状況。
そしてなぜか、今の状況を一番望んでいたはずのレンカの顔も、日に日に硬くなっている。なにか気がかりがある様子だったが、いまだ打ち明けてくれることはなかった。
魔獣との戦闘を終え、ローランは疑問を口にした。
「魔獣を操るのは魔族。やはり、黒鎧は魔族なのか?」
その疑問に答えたのはアリーヌだった。
「別に、魔族じゃなくても魔獣は操れるでしょ。実際、魔族に降った人が魔獣を操っていたって話があるからね」
「そうなのか? いや、確かにその通りだな。やり方さえ分かれば、誰にだって操れるはずだ」
「なら、エルフにも……?」
レンカの言葉には疑念がある。同胞を疑いたくはないが、同胞を疑わなければならない。複雑な心境が察せられる。
全てを理解した上で、アリーヌはハッキリと答えた。
「そうだね。エルフにも、他の人にも可能性はあると思う」
レンカは悲しそうな顔のまま口を噤む。
疑念を解消できるのは言葉ではなく証拠だろう。
一刻も早く犯人を捕まえたいと、4人は今日の目的地へ急いだ。
辿り着いた先は広大な泉。エルフたちは泉と言っているが、そこは湖といったほうが良い広さをしていた。
水辺というだけでなく、森に囲まれているせいか、より空気が澄んで感じられる。
魔獣と戦う音も聞こえず、エルフの声も響かない。目を瞑れば眠りに落ちてしまいそうな穏やかさに包まれている場所だった。
ここの調査が後に回されていたのは、魔法は地形の影響を受けるからだ。
黒鎧が扱う炎の魔法は、水場の近くでは少しだけ弱まり、水の魔法は少しだけ強まる。不利な場所に滞在することはないだろうと、誰もが考えていた。
「敢えて、ここに潜んでいる可能性か」
ローランの言葉に、マーシーは肩を竦める。
「ボクはどうかと思うけどなー。森のどこでも負けてないのに、わざわざ不利な場所に行く必要がないでしょ」
この数日、黒鎧との戦闘は何度か行われている。運良く死人は出ていないが怪我人は続出しており、実力の差は歴然としていた。
だが、アリーヌは胸を張り、鼻を鳴らす。
「可能性が低くても調べる。そういうもんだからね」
「雨に濡れない洞窟とかだと思うんだけどなー」
休憩がてらと言った様子で2人は言い合っていたが、ローランはそんな2人を気にせず、物憂げな表情で泉を見ているレンカに近づいた。
「なにか気がかりが?」
「……ここは、家族みんなで来た最後の場所なんです」
「クルトを疑っているのか?」
レンカは首を横に振る。
「兄を疑ってはいません。でも、なにか兄の近くで起きている気がして……」
「なら信じていればいい。妹が兄を信じて、誰かが困ることもないからな」
思わぬ言葉だったのか。レンカは驚きながら顔を上げ、笑顔で頷いた。
「少し休んでから移動し――」
ローランは言い終わるより早く、その体が木に叩きつけられていた。
鎧の胸元には焦げた跡。殺すことではなく飛ばすことが目的だったのか、ダメージは少ない。
アリーヌとマーシーが駆け寄る。3人の周囲は炎の球体で囲まれていた。
炎の透けた先には黒鎧の姿。足元にはレンカが倒れているのが見えた。
『大量の魔獣が――』
耳に入った通信が途絶える。遮断されたらしい。
炎の球体に閉じ込められている。レンカは気絶。エルフの増援も望めない。
ローランは立ち上がりながら、頭を左右に振る。
「目的が分からない。こいつはなにがしたいんだ?」
困惑した様子のローランに、アリーヌが口を開く。
「今は――」
「分かっている。本人に聞き出せば済む話だな。やるぞ、2人とも」
ローランは気持ちを切り替え、今やるべきことを正しく判断した。
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